第4話 元プロボクサーの男

「おう、何や!」


私はフラつく足取りでその人の元に行った。なっちゃんもマスターも心配そうに見ていた。


「兄ちゃん、構えてみ。」


私は酔ってはいたけれど真剣に構えてみた。はたから見たら様になってなかったかもしれない。


Mさんは私の前に両方の手のひらをミットのように突き出した。


「ワンツー打ってみ。」


私は真剣にMさんに向かってワンツーを打った。


「お~、なかなか、ええパンチやな。ほな、次、ワシな。」


そう言うと、Mさんの表情が変わった。Mさんの前に両手を突き出した私。


先ほどの雰囲気とは明らかに違う。


パッ、パーンッ!


いつ打たれたのかもわからないスピードで、私の両手は弾き飛ばされた。あまりの勢いでバランスを崩し、尻餅をついてしまった。


その後、どうなったか酔っていてよく覚えていない。


ただ、敗北感というか調子に乗ってなっちゃんの前でかっこ悪い姿を晒したのは強烈に覚えていた。


私はあの日、その後どうなったか気になってしかたなかった。3日程経って、どうしても確かめたくなってひじりに行った。


「いらっしゃいませ~!」


扉を開けると、いつものマスターの元気のいい挨拶。


カウンターに1人の男が座っていた。パンチパーマでいかつい男だった。


うわっ、何かヤバそうなんおるな・・・


私は一瞬、怯んだ。


マスターの声を聞き、その男も振り返った。


う~わ、これもうヤクザやん!


顔から醸し出す雰囲気が普通の人ではなかった。


「あっ!マスターゴメン!」とか言って用事を思い出した振りをして帰ろうかと思っていた。


「お~、絶坊主くん!こっち来いよ!」


他の誰かに言ってるのかと、後ろを振り返ってみた。


誰かいるはずもない。


その男は確かに私の名前を呼んでいるんだから。


「えっ?ぼ、僕ですか?」


「あれ~、忘れたんかいな!」


その男はマスターと顔を見合わせて笑っていた。

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