『影武者』

石燕の筆(影絵草子)

第1話

時は、戦国時代。


誰もが天下をねらう戦乱の世だ。


名のある武将沢森兼近は、ほぼ味方の兵力が敵軍に倒されて次の指示を煽られている。


『将軍、次はいかがいたしますか』


兼近は、もうダメだと決心し、


『万策尽きた』


と、追われる身となることを覚悟して、背中を見せる。


老中ほか勢揃いする中、


『では、仕方ない。コピーのコピーではこの程度か』


と、屏風の後ろから自分と同じ姿の人間が出てくる。


『お前はもう用済みだ


お前のかわりなどはいくらでもいるのだ』


と言う。


自分はただの将軍の影武者だと知る。


ところ変わって近未来。


私の仕事は、


歴史の上で、どうしても変えなければならない歴史がある場合速やかにクローンを各時代に派遣する者だ。


ただ、クローン技術にも限度がありコピーを繰り返すことにより、精度が落ちる。


だから、この国にもクローン被験者として希望の方にのみ記憶を受け継いで何人もクローンをつくった。


一人の人物が何百年も生きている。


今のテレビに映る首相もあのタレントも俳優も全員クローン。


ただ、それを知らない人間もいる。


私もまた、記憶を引き継いだクローンだ。


今日もまた愛する家族のもとに帰る。


デスクには愛娘の写真がある。


男は、それを手にとり


『私は本物(オリジナル)だ』と写真を胸に抱きしめた。

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『影武者』 石燕の筆(影絵草子) @masingan

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