第78話 確認

 ほんの二日間しか開いてなかったが、その2日間に自身に色んな事が起き過ぎて、雅人に報告をするのが待ち切れない思いで向かう颯天はやて


(何から話そうかな? あっ、けど、もしかして、雅人の部屋に先客がいるなんて事も有ったりして? 有り得るとしたら、幕井さんかな……?)


 雅人がドアを開けると、入室する前に部屋の中をぐるりと見回した颯天。


「何、警戒しているんだ、颯天?」


「いや、もしかして、雅人の部屋に女の気配が無いかと……」


「だから、寧子ねいこちゃんとの交際はカムフラージュだって言ったじゃん! 男子寮の中まで、そんな芝居する必要無いだろ?」


 颯天の様子を見ながら、雅人が愉快そうに笑った。


「さっきのは、本当に、浅谷さん対策としての芝居なのか?」


「そうだよ。寧子ちゃんも、それは了解済みだから」


「でも、お前の憧れの淡島さんは、荒田さんと結婚間近だっていうじゃないか。その点、幕井さんは可愛くて、何となく淡島さん路線だし。2人とも良い感じで演じているというより、恋人同士みたいだったから……」


「そう見えたなら、演じた甲斐が有ったよ。颯天が行った後、早速、浅谷さんに見られて、何とか乗り切れた!」


 千加子からの誘惑をかわす為に、寧子と計画していたカムフラージュ交際の作戦が上手く行き、満足そうな雅人。


「あの手強い浅谷さんを納得させたのか? そいつはスゴイ! いっそ、そのまま幕井さんと演技抜きで交際してもいいくらいじゃないか? けど、雅人って、婚約者がいるって言っていたけど、それ、ホントなのか?」


 先刻の季代との話から、雅人の気持ちを確認しようとした颯天。


「ああ、その話か。あれは、でっち上げ。念の為、寧子ちゃんとのカムフラージュも、お互いヘンにのめり込まないように予防線を張っておいた」


「な~んだ、やっぱりそうか! 初耳だったから、驚いてたんだ。淡島さんに対する荒田さんの気持ちも、何だか分からないんだよな。 さっき、透子さんと二人で、ずっと親密そうに話していたんだ! 気になるな~! 何話していたんだろう?」


 先刻の二人の雰囲気を思い出しながら言った颯天。


「新見さんと荒田さんか……復縁するつもりとか?」


「荒田さんと復縁!? けど、透子さん、そんな様子は無かったけどな……」


 先刻聞いていた芹田からの助言内容にも一致しているようで、気になる颯天。


「そうか? けど、荒田さんの方は、まだ未練タラタラな感じだったな」


 シニア施設での件で、荒田から質問をされていた雅人は、その時の様子から、荒田の気持ちを察していた。


「そうなんだ、荒田さんはやっぱり……。2人が何話しているか気になっていたけど、その時、僕は背負い投げされてしまって……」


「背負い投げ……って、もしかして輪野田わのださんか?」


 その言葉だけで、すぐに見当が付いた雅人。


「ああ、お前も経験済みだってな。雅人が、初めて、身をかわした人だったんだって? 輪野田さんから聞いたよ」


「思いがけず、背負い投げくらって、驚かされたけど。輪野田さんって、俺らが思ってたようなイメージと、全然違うだろう?」


「それな~! もっと浅谷さんのような、独裁者的ムードの強い、いかつい感じの女性かと思っていたけど……なんか、思っていたよりずっと、奥ゆかしいいうか、意外と気配り上手で、丁寧な言葉使いしてくるし、驚いた!」


 季代とのやり取りを思い出した颯天。


「そうだな。落ち着いていて、和服が似合いそうな美人だし」


 雅人が季代を褒めたところで、彼女に対する雅人の気持ちが気になった。


「僕もそう思っていた。ところで、雅人は、輪野田さんみたいな女性はどう思う?」


「どう……って、かなり尊敬できるタイプの人だと思うよ。好きか嫌いかと言われたら、好きな方かもな」


 雅人の返答が曖昧ながらも、好感を抱いているように感じた颯天。


「じゃあ、もしもだけど、輪野田さんから告られたら、雅人はどうする?」


「仮にも寧子ちゃんとカムフラージュ交際中だし、これくらいの気持ちで相手を変えるのはよくないだろう?」


 これくらいの気持ちというのが、颯天には引っかかった。


「それなら、雅人が言う、これくらい以上の気持ちの相手だったら、幕井さんから乗り換える可能性も有るって事なのか?」


「それくらい想えるような相手と両想いになれるっていうならの話だけど。今のところ、それは無いだろうな……」


 雅人の中で、女性隊員からのアプローチは、龍体の能力によるもので、彼女らの本心からのものでは無いと判断していた。


「あっ、そういえば、雅人、幕井さんがあんな風に言うから、実は、僕も何となく気になっていたけど……シニア施設で、透子さんと何か有ったとか、無かったとかって話、ホントはどうなんだ?」


 相手が透子なだけに、うやむやなままに出来なかった颯天。

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