第77話 言い出せず

 颯天はやてのみならず、荒田や季代きよからも、目白との噂を追及され驚く透子。


「目白さん……? どうして、皆、目白さんとの事を聞いて来るのかしら? 私には全く覚えが無いのに……」


「トコちゃんは、気付いてなかったかも知れないけど、目白さんが元々、トコちゃんを好きなのは周知の事だからよ。多分、荒田さん推しの誰かが、荒田さんと別れた原因について、目白さんをわざと取り上げて吹聴していたのかも知れないわね。覚えが無いトコちゃんにとっては、迷惑な噂話よね!」


「そんな風に、知らないうちに裏で噂をばら撒かれていたなんて……やっぱり、私って、敵が多いのかな?」


 溜め息混じりに呟いた透子。


「トコちゃんは、大半の女性の憧れの荒田さんを射止めた女性なんだから、そりゃあ、嫉妬もされるわよ。私は、トコちゃんの相手が誰でも応援するけどね!」

 

「ありがとう、キヨちゃん! キヨちゃんみたいな友達がいてくれて良かった~!」


 荒田の機嫌を伺いながら過ごしていた交際時に比べ、悩み事も話せる同期の女友達の有難みを痛感する透子。


「ところで、トコちゃんの気になるお相手って、目白さんじゃないとしたら、どのグループに所属している人なの?」


「それが、今、まだ研修中なの……」


「そうなの? 偶然ね。私が気になっている人も、まだ研修生よ」


 その時は、透子の口から出て来る相手は、一緒に龍体時のペアを組んでいる颯天なのだとばかり思い込んでいた季代。


「えっ、キヨちゃんもなの……? 何だか偶然と言うよりも、信じられない気持ちの方が強いかも! だって、今まで、どんな大和隊員にもなびかなかったキヨちゃんだから、男性隊員には興味無いのかと思っていたのに。あっ、別にヘンな意味じゃなくて、自分の周りにいるような感じの男性は範疇に無いのかと……」


 勘違いされそうで、慌てて言い直した透子。

 大和隊員の同期や先輩方に関心を寄せなかった季代が、自身と同じように研修生に惹かれているのが意外でしかなかった。


「私って、武術心得ているから、大概の大和隊員の人達より強いの。そうなると、あまり弱い人に興味が無くて。両親も、私より強い相手を望んでいるし、私には、男性を好きになる機会すら無いのかも知れないって思っていたわ……でも、そうじゃない人もいるって分かったから」


 そう話しながら、ふと、今日、出逢ったばかりの颯天も、雅人と同じく、自分を上回るかも知れない相手だと思い出した季代。


「分かる分かる、キヨちゃんより強い人がいたら、それは、気になっちゃうよね! そうなんだ~、キヨちゃんにとっては、強さが基準なのね。私は、今まで出会った男の人達と違って、何だか不思議な感覚になれる人なの。どこか懐かしいような、あれっ、この人と前にも出逢っていた……? とかって感じで、同じタイミングで、同じ感覚を共有しているような気持ちになれる人なの」


「わっ、スゴイ! トコちゃんに、そういう出逢いが有ったなんて! まるで、ツインレイとみたいな運命的な出逢いみたい!」


「ツインレイ……」


 以前、その言葉を豪語していた千加子をふと思い浮かべて、思わず口元が緩んだ透子。


「トコちゃん、その微笑みは何? 何だか、余裕感じさせられるのだけど。さては、もう、その人とある程度進展しているような感じなの?」


「ううん、進展とかって、そんな事無いけど……でも、矢野川君は、覚醒前の私に対して励ましてくれたから、変身前の気が動転しそうな境遇の時も、何だかずっと心強かったの!」


「えっ、矢野川君なの……?」


 頬を赤らめながら、透子がポロッと口にした名前に驚いた季代。


「あっ、うっかり言っちゃっていた! でも、まだ、向こうはカムフラージュ交際している彼女とかいるし、他にも問題抱えている感じだし、前途多難そうなの……」


「そうだったの、トコちゃんの相手って、矢野川君……」


 呆然となりながら、呟いた季代。


「あ~っ、私だけズルイ! キヨちゃんの気になる人も教えて!」


「私の気になる人は……宇佐田君」


 透子との話の流れから、もはや雅人の名前は出せなくなり、代わりに颯天の名前を出した季代。


「宇佐田君……!?」


 季代は透子に気遣って颯天の名前を挙げただけだったが、透子は、自分に告白していた颯天に季代が惹かれていると知り、複雑な心境になった。


「宇佐田君って、どういう感じの人なの?」


「いい人よ、とても優しくて努力家で……」


 颯天の気持ちを知っているだけに、季代を応援しても良いのか、戸惑った透子。


「まるで、トコちゃんみたい! 大器晩成だったのも同じだしね!」


「うん、宇佐田君を見ていると、自分と重なる部分が多くて、つい応援したくなってしまうの。あっ、でも、それは、恋愛感情とは違っていて……」


「分かっているわよ! トコちゃんは一途だから、嘘とか、両天秤とかかけれないものね」


 自分の感情を素直に話す透子を前に、苦し紛れの嘘をつく羽目になった自身のやるせなさを感じさせられた季代。

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