第76話 女子バナ時間
「トコちゃん、変身おめでとう! 黒龍なんてスゴイ!」
女子寮に戻った季代は、一休みし、タイミングを見計らってから。透子の部屋を訪れていた。
中等部時代から同期の透子と季代は、愛称同士で呼び合う仲で、中等部と高等部はルームメイトの間柄だった。
「ありがとう、キヨちゃん! まだ私が変身出来たのも、何だか信じられない感じで、それも、よりによって黒龍なんて、とても実感が湧かなくて……」
透子にとって遠慮なく話せる相手は季代だけだったが、荒田との交際時は、荒田の束縛が激しかった為、季代とも疎遠になっていた。
その荒田との交際も解消され、ルームメイト時代のように季代と会話が出来る開放感を満期していた。
「そうよね、黒龍なんて、恐れ多いような存在だものね! でも、信じて自主トレとかずっと頑張って来た、トコちゃんだもの! 当然と言えば当然の結果よ! それはそうと、トコちゃん、何か報告有るんじゃない?」
荒田と一緒に屋上にいた件で、透子の口から聞きたい季代。
「えっ、報告って……?」
季代の指摘に、ドキッとなった透子。
「さっき、屋上でトコちゃん見かけたから、お祝いの言葉を言いたかったけど、荒田さんと一緒だから、遠慮したわ。大切な話だったのでしょう?」
困惑した顔を浮かべながら、透子が話した。
「実は、荒田さんから復縁を迫られたの……」
報告内容のわりに、透子が浮かない表情なのが気になった季代。
「やっぱりそうだったのね! で、OKしたわよね?」
ずっと意中だった荒田への想いを叶えた透子と荒田のカップルは、季代の目から見て、理想的に映っていた。
別れた噂を聞いた時には、疑問に駆られていたが、荒田があのように復縁を申し出たからには、透子は首を横に振るわけがないと思っていた季代。
「まさか! 断ったわ!」
「えっ、荒田さんからの復縁の申し出を断ったの? 二人はすごくお似合いだと思っていたのに! どうして……?」
キッパリと言い切った透子の言葉が、信じられない様子の季代。
「キヨちゃんの目には、荒田さんって、素敵な人のまま映っているかも知れないけど……。私には、もう、そんな風には思えないの!」
「ごめんね、トコちゃん。私、Aグループの情報に疎くなってしまっているから、よく分からなかったのだけど……もしかして、荒田さんが、淡島さんと付き合い出したらしい事とか、トコちゃんの左遷の話とか、そういうの私情が絡んでいるの?」
透子の身に起こっていた事がよく分からず、これを機に確かめたい季代。
「荒田さんは……少し前まで、私を左遷させようとしていたのに、黒龍に変身出来た途端、手の平返して来たのよ! そして、復縁を迫って来たの。そんな都合の良い事を言って来るような人とは、もう金輪際ごめんだと思ったわ!」
透子の言葉に、驚かずにいられなかった季代。
「トコちゃんを左遷しようとしたのは、荒田さんだったなんて……!」
透子の話を聞くまでは、季代にとっても、一大ヒーローは荒田だけだった。
それが透子の言葉によって、180度見方が変化した。
「荒田さんは、元々、本当に私を想ってくれているわけじゃなかった。プライドばかり気にしている人なのよ! 私がいつまでも未覚醒のままだと、お互いにとって体裁悪いと思ったようで、そうなる前にって、プロポーズして来たの。プロポーズされて、最初は、嬉しい気持ちになったけど、その魂胆が分かった時点で一気に冷めてしまった!」
荒田の言動を知らないままだと、季代からは、一方的に透子の方が悪いと思われそうで、弁明した。
「そうだったのね……荒田さんが、そういう人だったなんてね。透子の気持ちも分かるわ。そんな外っ面ばかり気にするような小さな人間とは、おさらばして正解よ!」
季代の共感を得られて、安心した透子。
「荒田さんの事はともかく、実は、今、気になる人がいるのだけど……あっ、それはそうと、キヨちゃんの方も、私のお祝いもだけど、何か他に話が有りそうな感じに見えるけど……どうなの?」
「えっ、私の事よりも、まずは、話しかけたトコちゃんの話を聞きたいな~! 誰なの、気になる人って……? 目白さんとの噂が有るようだけど、ホントなの?」
季代は我先にという性格ではなく、どちらかというと相手の出方を待つ慎重派で、透子の話に戻してからの方が話しやすかった。
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