第74話 予期せぬ痛い出逢い
(透子さん、屋上にいたんだ! しかも、荒田さんと一緒って! どういう事なんだろう? まさか、この二人は復縁したとか……? それよりも気になるのは、僕より先に来て、この様子を遠目から見ている人がもう一人いたとは……この人は……?)
颯天に背を向けていたその人物は、颯天にとって見覚えの無い、大和撫子隊員の制服を着た高身長のスラリとした女性だった。
(どうして、2人に声をかけず見ているのだろう? この人は一体誰なんだ……? 男性隊員くらい背が高くて、モデル並みに細い。背格好だけでは、よく分からないけど……)
近付いた時に、彼女の制服の背中部分に着いていた糸くずに気付いた颯天は、親切心から、それを取ってあげようとした。
その瞬間、予期せず背負い投げされた颯天。
途中で、自分の体に起きた事に気付き、慌てて体勢を立て直し、床に倒れず背中のバネを使い上手く着地した。
(スゴイ! 今までの僕なら、こんな神業的な事なんて出来てなかったのに……これはsup遺伝子も、超sup遺伝子も覚醒したという事なのか……?)
自身の運動能力の開花ぶりに目を見張ったと同時に、なぜ自分がこのような目に遭うのか理解出来ずにいた颯天。
その女性からは、不審者を見るような目付きというより、驚かれたような顔付きをされている事に気付いた。
「あの……僕は、ただ、あなたの背中に付いていた糸くずを取ろうとしただけですが」
「そうでしたか? とんだ勘違いしてしまって、ごめんなさい! 我が家の家訓は『背後から近付く者を敵と心得よ』なので、背後に何やら気配感じて、つい手が出てしまいました」
訓練生の颯天を相手に、丁寧に頭を深々と下げ詫びる女性。
「いえ、僕こそ、先に声かける事もせず、背後から手を伸ばそうとしたので仕方ないです」
自分にも落ち度を感じ言い訳しながら、相手の顔を見て、ハッとなった颯天。
(この人は、映像で観た事が有る! 女性において右に出る者がいない強さで、そこらの男性よりも強いと噂の
颯天が、輪野田
「それにしても、驚かされました! 今まで、私の背負い投げをかわせたのは、矢野川さんくらいでしたので」
「あっ、矢野川でしたら、僕の友人なんです!」
「矢野川さんの友人の方……? もしかして、と、いえ、新見さんとほぼ同時に龍体に変身出来たという、新見さんのペアの白龍の方ですか? 確か、宇佐田さん?」
季代に名前を呼ばれ、驚いた颯天。
(雅人ならともかく、そんなふうに僕も、まだ会った事も無い隊員達の間でも、既に有名になっていたとは知らなかった! さん付けで苗字を呼ばれるなんて、なんか自分の事と思えないような……)
「はい、そうです」
「そうなのね、赤龍の矢野川さんといい、白龍の宇佐田さんといい、今年の新人さんは、身体能力も龍体の能力も素晴らしい人が多いのね!」
季代に雅人と並べて褒められ、肯定する事が出来ない颯天。
「いえ、僕は、龍体になれてから、この身体能力が身に付いたような感じなので、まだ実感が無いです」
「宇佐田さんは、元々、sup遺伝子の能力が身に付いていた矢野川さんとは違うのね。と、いえ、新見さんと同様に未覚醒期が長かったのでしたら、私も新見さんをずっと見て来たから分かりますが、かなり大変な思いを今までされてきたのでしょうね」
(輪野田さんは、ずっと透子さんが努力していたのを見て来たんだ。という事は、ここで、荒田さんと透子さんが復縁するのを応援している立場で見ていたって事なのかな……?)
「あの~、輪野田さんは、新見さんに御用でしたか?」
「ええ、でも、何だか、荒田さんとお取込み中のようなので、また次回にしようかと……あらっ? 私は、名乗っていましたか?」
透子と荒田の様子を見て出直そうとしていた季代だったが、ふと、会話の流れを思い出しながら首を傾げた。
「いえ、輪野田さんは、有名なので分かります!」
「大変失礼しました! 輪野田です、新見さんとは同期なんです」
颯天に向かい頭を下げて来た季代。
「あの~、僕なんか相手に、そんな頭を下げなくていいですよ」
「宇佐田さんは、矢野川さんと同じで、とても気さくなんですね。わたしがこんな感じのせいか、今まで他の隊員達からも警戒される事が多かったので……」
その家訓通り、今まで沢山の男性隊員が背負い投げをされていたのだとすると、無理も無さそうに思えた颯天。
「そうだとしたら、それは、輪野田さんの家訓のせいで、輪野田さん自身には、そんな警戒するような要素無いですよ」
「ありがとうございます! 宇佐田さんのような感じの良い方が、新見さんの龍体上のパートナーで良かったです! ところで、宇佐田さんは、新見さんや荒田さんに御用でしたか?」
「あっ、いえ、僕も、そんな急ぐほどの事は無いので……」
透子の交友関係を探っているなどと、初対面の季代に向かい、正直に話せない颯天だった。
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