第72話 持て余す能力
雅人が口籠った内容が気になる透子。
「他にも……って?」
「自分でも不可解な事なので、話したところで信じてもらえないかも知れないですが……」
透子に話を進めてよいものか分からず、困惑している雅人。
「聞かせて! もしかしたら、先輩として何かアドバイス出来るかも知れないから」
「それが、変身時の赤龍のフェロモンのようなものなのか? 名前の言霊の威力なのか分からないです。ただ分かるのは、変身出来るようになって以来、その能力はエイリアンを寄せ付けやすいだけではなく、女性に対してもその傾向が有るようで……実は、名前は伏せますが、何人もの大和撫子隊員の方々から告白されるようになっているのです」
「そうなの……!?」
雅人に惹き付けられたのが、大和撫子隊員の中でも自分だけではないと知り、驚きを隠せない透子。
「自分は今まで、共学の環境にいなかったですし、男子寮生活でしたから、当然、異性にモテたという経験が無かったので、正直、戸惑っています」
「そうよね、訓練生になってから、急に女性達に言い寄られ続けるようになったら、何が起こっているのか疑問に感じそう……」
先日、たまたま目にしていた雅人の同期訓練生である千加子の勢いだけでも、目を見張るものが有った事を思い出した透子。
「そういう状態なので、さっきの件も、自分の能力的なものに由来しているのか、新見さんの本心からの行動なのか分からないです」
「私は……確かに、矢野川君とは逢ったばかりだし、他の訓練生や大和撫子隊の人達と同じように感じられても仕方無いけど……」
透子自身も、改めてそう言われると、雅人の能力的なものに引き寄せられたのか、それを抜きにしても、雅人を想えるのか見当が付かなかった。
「自分がこんな状態で有る限り、誰かと交際しようとしても、結局その人を傷付けてしまう事になるので、新見さんには、そんな想いをさせたくないです! その点、宇佐田は安心です! 昔からずっと新見さんに夢中ですし、何よりいい奴なので、自分としても、宇佐田を選ぶ事をお勧めします」
「分かったわ……それじゃあ、もうこの腕を
いつまでも雅人を背中に感じているのは、割り切ろうとしても、心が揺らぎそうになる透子。
「確かに、そうですね、失礼しました。ですが、一つだけ言わせて下さい! 自分から新見さんへの気持ちは、本心です! それだけは知っておいて下さい!」
雅人の言葉が真実である事は、透子の背中に伝わっていた雅人の心臓の鼓動によって、確信できる気がし、動揺が収まらない透子。
「そういう風に言われると嬉しいけど、私も、自分の気持ちが分からなくて、整理つかないから困る……でも、矢野川君には、久しぶりに何だかドキドキさせてもらった、ありがとう!」
「いえ、こちらこそ、そう言ってもらえただけで十分です! ありがとうございます!」
二人は顔を見合わせて笑った後、同時に腕時計に目を向けた。
睡眠時間がこうしている間にも減っている事に気付く。
「あと3時間くらい、眠らないとね……」
「自分は、椅子に座っても眠れるので、新見さんは、ベッド使って下さい」
椅子に腰かけて、透子にベッドを勧めた雅人。
「私だけベッド占領するのは、ちょっと気が引ける。私は、気にしないから、矢野川君もベッドに寝て」
「自分は気にします!」
颯天の事を考えると、断らずにいられなかった雅人。
「それなら、私が椅子で起きている事にするわ! 矢野川君は明日とか変身して活躍しなきゃならないし、ベッドで寝て」
「いいえ、女性の先輩差し置いて、そんな事は出来ません」
「そう言われると思った。だったら、やっぱり横になるだけで、体の疲れが随分取れるから一緒に寝ましょう。頼りないけど、上司命令って事で」
雅人の手首を掴み、ベッドに誘導した透子。
幸い休憩室のベッドはセミダブルくらいの大きさが有り、二人仰向けに寝ても窮屈という事は無かった。
「意外とこのベッド大きいんですね」
「寮のベッドよりサイズ大きいでしょう?シニア施設の利用者さん達用の空いているベッドを持って来たらしいから。これなら、二人でもゆったり眠れそうな感じ」
「そうですね。好きな人が隣にいるって事で気持ちが動転しているので、眠れるかどうか分からないですが……」
「私も、そうかも知れない……」
そう言いながらも、眠れなかったのは最初の小一時間ほどで、それ以降は、二人ともアラームを聞き逃すほど爆睡していた。
そのせいで、揃って遅刻し、荒田はじめ、周囲から怪しまれる羽目になったのだが……
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