第67話 自分だけではなかった
龍体時に、透子を必要としているのは、
「僕以外にも、黒龍としての透子さんを必要としている龍体達がいるという事ですか?」
「黒龍の役目は、浄化であり、まあ後始末的な役割も有るからのう。今まで、緑龍のビースト退治後に、龍体達皆で解体処分していた事が、黒龍だけのパワーで一瞬にして消え去らせる事が出来るのじゃから。赤龍の石化にしても、その後は、同じ対応を必要とされる。黒龍の能力が、いかに重宝されるものか分かるじゃろう?」
(黒龍である透子さんは、僕だけではなく、緑龍の荒田さん、そして、赤龍の雅人からも必要とされている……龍体の時には、僕だけのパートナーだと思っていたのに、透子さんにとっては、僕だけではなく、他からも必要な存在……)
「黒龍は、僕だけではなく、他の龍体達と協力し合う事になるのですね」
「もちろん、宇佐田君にとっても、新見君にとっても、最も力が発揮される状態なのは、対で攻撃している時という事には変わりない! ただ、黒龍としての彼女の能力は、白龍の為だけに発揮するものでは無いから、その後の浄化用のエネルギーも考慮して行動しなくてはならない」
「浄化用のエネルギー……?」
芹田の言わんとしている事が、颯天には伝わり難い様子だった。
「つまり、彼女は、戦闘に置いては、能力を最大限まで発揮するのは極力避けなくてはならないって事じゃ! その分、宇佐田君や荒田君、矢野川君が実力を示して行かねばならないのじゃよ」
(ああそうか、透子さんの力は、ビースト退治後の処分用に取っておかなくてはならないって事か……他の龍体達は、黒龍の能力を生かせるように、彼女の力を借りずに戦わないと!)
颯天にとっては耳が痛くなるような内容だったが、芹田に説明され、やっと透子の黒龍としての立ち位置に納得出来た。
「芹田先生の説明は分かりました、ありがとうございます! ですが、これは、あくまでも龍体としての行動の件ですよね? 変身している時間外には、そんな枠組みは存在して無いですよね?」
そんな事は有るわけ無いと憶測し、笑いながら尋ねた颯天。
「そうじゃのう……わしは、そうやって素直な気持ちを新見君や、わしに伝えて来るような宇佐田君だから応援したいのが、本音じゃ」
颯天の質問に対し、急に声のトーンが下がった芹田。
「本音……って? 本音以外にも、何か建前的なものが有るって事ですか?」
「要するに、龍体同士の相性が良いからといって、その本人同士の相性も同様かと聞かれると、それは疑問じゃからのう……人が人に抱く感情というのは、理屈では説明出来ないものも有るし……現に、君はさっきまで、わしと新見君が恋仲だと疑っていたのだろう?」
そう言われて、二の句が継げない颯天。
(確かに、僕は芹田先生と透子さんの仲を疑って、確かめようと思って後を付けていた……透子さんが龍体上は、僕の対だって分かっているのに、それだけで満足出来なかった。で、その結果、龍体上で対だけど、他の龍体からも必要とされる存在だって事を認識させられる事になった。その上、変身していない時の相性も不確定な事まで告げられる事になった……結局、芹田先生に追及した事によって、僕にとって、不利な要素しか増えなかったんだ。でも、それを知らないままでいるよりは、情報量が大いに越した事が無いかな……)
落胆の方が強かったが、何とか自分を納得させた颯天。
「まあ、新見君は、あの通り器量良しで、実力的にも申し分の無い黒龍なのだから、わしはともかくとして、他にもライバルは多いじゃろう。それくらい、宇佐田君とて覚悟のうえじゃろう。そもそも、わしと結婚するなんていうトンデモ発想に比べたら、まだ可愛い方ではないか! ハッハッハ!」
いつもの調子で、愉快そうに笑い飛ばした芹田。
「可愛いかどうかは疑問ですけど……確かに、新見さんが今すぐにでも結婚退職するなんて状況から比べたら、全てがマシです!」
「まあ、新見君は龍体上の対として、宇佐田君と過ごす時間が長くなるから、まだこの先、いくらでもチャンスは転がっているじゃろう。君らは若い! そんなに気負いせずに、今を楽しむのじゃよ!」
颯天の背中をバシッと叩いて激励した芹田。
「あっ、はい、その通りですね! ありがとうございます!」
芹田に勢いよくそう答えながらも、内心は、モヤモヤの収まらない颯天。
(芹田先生は、色々とお見通しなわりに、僕にははぐらかすような事しか言ってくれなかったけど。それでも、まあ、芹田先生と透子さんとの仲が判明しただけでも良かったと思わないと! ……けど、そうなると、芹田先生が名前を挙げていたのは、荒田さんと雅人か……いや、もちろん、他の隊員の可能性も有る。荒田さんは、淡島さんと結婚を前提に交際中だけど、透子さんが変身出来た今は、また考えが変わるのかな? 雅人は、あの通り、今は幕井さんとカムフラージュ作戦中だし、他の隊員達はどうなのだろう……? 取り敢えず、透子さんの様子を探るしかないかな……)
引き続き、透子の言動をつぶさに観察する事にした颯天。
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