第66話 確認するまでは、引けない

 勝手に、芹田と透子の会話内容を憶測し、絶望的な気分になっている颯天。 

 そんな颯天にも気付かず、芹田とのやり取りに夢中になっている透子。


「新見君のその選択は大正解だったようじゃ! 自分を信じて貫いたからこそ、その願いを叶える事が出来たのじゃ! 君を見ていると、若かりし頃の自分に重なってのう。だから、君には、誰よりも幸せになってもらいたいのじゃよ」


 透子と見つめ合いながら、自身の想いを託す芹田。


(何なんだ、あの二人は一体……? 何だか、長い時間うっとりと見つめ合っている感じに見える! まさか、透子さんは、いよいよ寿退社をしようとしているのだろうか? そんな~、これからは、僕と透子さんが龍体の陰陽コンビで協力し合って、愛を育んで行くつもりだったのに!)


「芹田先生……」


「恋愛の相手を選ぶ時にしても、引く手あまたの君の事じゃから、迷うかも知れないがのう。『愛』というのは、まだ新見君には難しいかも知れぬが、本来、見返りも期待しない崇高なものじゃ! 真実の愛に出逢うまでは、焦る事無く見極めるのじゃよ」


「はい、芹田先生、ありがとうございます!」


 ゆっくり深々と芹田に対して頭を下げていた透子。


(やっと二人の会話は、終わったんだ。結婚話までいったわりには、最後はあっさりしていたような……? それとも、僕の勘違いだろうか? 透子さんに直接確認するのは、衝撃が大き過ぎるから、やっぱり、ここは芹田先生に聞いてみる事にしよう……)


 透子が、芹田の元から去った後、透子に見付からないように、タイミングを見計らいながら、芹田に近付いた颯天。


「あの~、芹田先生」


「おや、宇佐田君。何か用かね?」


(芹田先生、透子さんとの甘い時間の後のせいか、何だか、顔がニヤけて見えるのは、気のせいかな?)


「芹田先生に確認したい事が有るのですが……」


「ほう、何を確認したいのかな?」


 透子と入れ替わるように登場した颯天の言わんとしている事が分かり、目を輝かせる芹田。


(芹田先生は、千里眼だから、僕がわざわざ言わなくても、僕が聞きたいのは気付いているはずなのに、何だか面白がって、わざと聞いて来ているんだよな……)


「芹田先生は、新見さんと結婚するつもりですか?」


「ハッハッハ、何かと思ったら、まさか、この年になって、わしにそんな質問を投げかけて来る生徒がいるとはのう!」


 予想で来ていたとはいえ、改めて本人の口から聴かされると、大爆笑せずにいられなかった芹田。


(えっ……? どういう事だろう? 誤魔化されているのか、僕は……? それとも、やっぱり、僕の勘違いだったのか?)


「あの、それでは、僕の見当違いでしたか?」


「ハッハッハ、確かに、新見君は、とても魅力的な女性じゃからのう! わしもせめて30歳くらい若けりゃ、そうしたいところじゃったな!」


(という事は……まさか、芹田先生は、透子さんをフッたのか? なんて勿体無い事をするんだ!)


「でも、新見さんは、芹田先生の事が好きなんですよね?」


「まあ、そうじゃな。恩師としては好いてくれているかも知れぬが……」


(何だか、この人は、相当鈍いのだろうか? 遠目から見ても、さっきは2人とも怪しい様子だったのに! いや、透子さんには恥をかかせまいとして、僕には隠そうとしているのかも知れない)


 芹田から、はぐらかされているような気がしてならない颯天。


「恩師としてではなくて……芹田先生は、新見さんから告白されたんじゃないんですか?」


「ハッハッハ、さっきから、唐突にわしを持ち上げようとしてくるな、宇佐田君は」


(どっちなんだ? 芹田先生って、こういう時に、わざとじらす癖が有るからな……)


「からかわないで下さい! 僕は、新見さんの事が好きなんです!」


「それくらいの事は、今更言われんでも勘付いていたがのう……」


「新見さんが好きだから、ライバルの事を把握しておきたいんです! だって、こんなのフェアじゃないです! 芹田先生は分かっているのに、僕だけ分からないままなんて!」


 芹田にキッパリと言い切った颯天。


「待ちたまえ、宇佐田君。まずは、落ち着くのじゃ! 大体、わしをライバル視するのは、お門違いってもんじゃよ!」


「えっ……?」


 予想外の芹田の言葉に、颯天は唖然となった。


(お門違い……? 僕は、えらく勘違いしていたって事なのか? 透子さんの好きな人は、芹田先生ではなかった……?)


「新見君が変身した黒龍の能力は、分かっているじゃろう?」


(どうして、黒龍の能力を……? 僕は、黒龍の事ではなく、透子さんの事を聞きたいのに!)


「黒龍は、確か、癒しと浄化ですか?」


「そう、黒龍は『月のごとく癒し、万物を浄化す』。黒龍と対となって、威力が発揮出来るのは、確かに白龍である宇佐田君に違いないが、考えてみたまえ。彼女の能力を必要としている龍体達は、君だけではないのじゃよ」


 芹田の発言の意味が飲み込めないまま、反芻する颯天。


(黒龍である透子さんの能力を必要としている龍体達は、対としての白龍の僕だけではない……? どういう事なんだ……?)

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