第64話 芹田を追う透子と、後を追う颯天
謎を残して去った芹田の事は、気になりつつも、それ以外に透子という最大の関心事が有る颯天。
芹田について、この場は取り敢えず流そうとしていたが、そうも行かなくなった。
湧き上がる疑問を抑え切れなかった透子が、芹田を追って、その場を離れようとしたからだ。
「透子さん……?」
(透子さんが、芹田先生の後を追おうとしている! やっぱり、芹田先生の事を怪しまずにいられないんだ……透子さんが行くなら僕も後を付けたいけど、そんな事したら、魂胆が見え見え過ぎて、雅人や幕井さんに笑われそうだ)
「私、芹田先生と話したい事が有るの! あっ、矢野川君、昨日のレポートを後から提出してね!」
それまでは、彼らに向かって話し難かった流れだったが、去り際になり、雅人に伝えそびれていた事を忘れないよう、早口で言った透子。
「はい、新見さんに提出しますか?」
雅人に話しかけて来た透子を睨むような目付きで見ていた寧子。
「私じゃなくても、Aグループのメンバーだったら、誰でも構わないけど……あっ、でも、担当は、私か淡島さんだから。3日以内くらいにお願いね」
「了解です」
自分や寧子に対しての態度とは違う、妙に改まった態度で応じた雅人を何の気無しに見ていると、透子へ向けて寧子の鋭い視線が目に付いた颯天。
(わっ、幕井さん、そんな食い入るような目付きで透子さんを睨み付けなくても……透子さんの事をすごく警戒しているんだな、幕井さんは。でも、透子さんの関心事は、芹田先生だって事には気付いていないようだ)
「颯天は、この後どうする?」
透子を追いたい気持ちを察したのか、雅人が尋ねた。
「僕は、まだ新見さんに用事が有るから……」
颯天が少し言い難そうに伝えると、ニヤニヤしている雅人と寧子。
「いや、別に、用事は新見さんだけじゃなくて……変身後の事で、僕も芹田先生に聞きたい事が有るから……」
勘繰られているのを感じ慌てて否定しながら、芹田の名も出した颯天。
「はいはい、そこは深く追究しないから、どうぞどうぞ」
弁解の甲斐なく、冷やかすように言った雅人。
「私も、雅人君と二人っきりの方がいいから、ご遠慮無く、ごゆっくりね!」
二人から急かされるように、その場を追い出された颯天。
その颯天と入れ替わるように、雅人と寧子の前に、息を切らしながら千加子が現われた。
「矢野川君、ここにいたのね!」
千加子が近付く気配を察し、寧子にサッと寄り添った雅人。
「あらっ、幕井さんも一緒だったの? まあ、いいわ」
寧子の方を怪訝そうに一瞥し、雅人との距離感の近さは気にかけない千加子。
「雅人君に何の用、浅谷さん?」
千加子からの圧に屈せず、雅人と千加子の間に立ちはだかった寧子。
が、そんな寧子は、千加子にとってライバルの範疇に入れていない様子。
「急に大きく出たものね? あなたは、今までsup遺伝子も開花してない落ちこぼれの分際だったのに! 矢野川君のおかげで変身出来たからって、馴れ馴れしく、もう名前呼びするなんて!」
「浅谷さんに、この場を借りて伝えて置こうと思う! 寧子ちゃんは、俺の交際相手だから、侮辱しないでもらいたい!」
雅人の宣言に、脳天を撃ち抜かれたような表情の千加子。
「矢野川君……? 本気なの? ウソでしょう? こんな顔だけが取り柄のようなビッチ女を選ぶなんて! 目を覚ましてよ、あなたにはもっと相応しい相手がいるはずよ!」
我こそはと言わんばかりの勢いの千加子。
「浅谷さん、何度も言うようだけど、寧子ちゃんを侮辱するのは止めてくれないか? 浅谷さんとは、同期生としてこれからも、仲良くしたいから」
「私と同期生として仲良く……? ええ、もちろん! 私も、矢野川君とは、これからも仲良くしたいわ!」
雅人の発言のその部分だけに過剰反応を示した千加子。
「それなら、寧子ちゃんにも、同様にお手柔らかにお願いしたい」
「矢野川君の頼みなら、気が進まないけど仕方ないわね。まあ、一緒に過ごすうちに、その人より私の方がずっと優れていると気付かされるはずだしね!」
負け惜しみのような発言と共に、妬まし気な千加子の視線を感じた寧子。
そんな千加子を見送りながら、安堵の溜息を洩らした雅人。
「あ~、疲れた~! それにしても、浅谷さんのあの自信って、どこから湧き上がって来るのかしらね?」
「颯天から聞いていた通り、扱い難そうな人だけど、取り敢えず、納得してくれたようで、安心したよ。ありがとう、寧子ちゃん」
「ううん、まだまだよ! あれくらいで、浅谷さんは諦めるような感じじゃないから。私はこのままいつだって、雅人君のそばにいるつもりよ!」
雅人と腕を組みながら、微笑みを浮かべた寧子。
寧子は、このカムフラージュ作戦を続けて行くうちに、雅人の正式な恋人の位置付けになるのを期待していた。
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