第61話 繋がれた手
透子と交際する上での、目下のライバルは芹田と目星を付けた颯天。
芹田と透子が揃っているうちに、芹田に対する透子の態度を観察したり、芹田の透子への感情を探ろうとしていた。
その時、颯天にとって聞き馴染みのある声が、避難シェルター内に響いた。
「颯天、変身出来たって、おめでとう!! 新見さんも、おめでとうございます!」
振り返ると、雅人が寧子を連れて現れた。
「雅人!! それに、幕井さん……!」
二人が一緒に現れた事にも驚かされたが、二人の手が繋がれている事により驚かされた颯天。
(ちょうど噂をしていたところに、早速、雅人と幕井さんが手を繋いで現れるとは! 恋人繋ぎではないようだけど、この二人の様子だと時間の問題かな? 幕井さんは、あの通り恋愛面では、かなり積極的過ぎるくらいだし。雅人も満更でも無さそうな感じだし。あ~あ、透子さんも、幕井さんタイプの人だったら、僕の気持ち知っているんだから、もっとトントン拍子に僕らの仲も進展してそうなのにな~)
透子との仲を思うように進展させるのがなかなか難しい颯天は、人前でも仲良さそうな雰囲気でいられる雅人達が羨ましかった。
「幕井さんも変身出来て、おめでとう!」
颯天が声をかけると、寧子は雅人にわざとらしいくらいピッタリと寄り添った。
「ありがとう、宇佐田君! こんな落ちこぼれの私が、無事に変身出来たのは、全て雅人君のおかげなの! 雅人君の指導が最高だったから、ねっ?」
雅人を熱い視線で見上げ、相槌を求める寧子。
「いや、俺の指導というより、そもそも寧子ちゃんが頑張ったからだよ!」
興奮気味の寧子に、穏やかな声で返した雅人。
(雅人も満更でもないどころか……何だかもう、二人のラブラブオーラが強烈過ぎて、あてられてしまう! 雅人の憧れの淡島さんは、荒田さんとくっ付いてしまったし、龍体での相性も良いらしい幕井さんに、手っ取り早く乗り換える事にしたのかな?)
好奇心から、二人の進展度を確認しておきたくなった颯天。
「あのさ、雅人、聞いても良いかな? もしかして、二人は、もう付き合い始めたような感じなのか?」
「おっ、颯天からは、そういう風に見えていたのか? だとしたら、大成功だな!」
ドヤ顔で言った雅人に、寧子以外は唖然となった。
「えっ、どういう事なんだ?」
「浅谷さんからのアプローチ対策として、寧子ちゃんに協力してもらう事にしたんだ。俺には、寧子ちゃんくらいしか頼める人がいなかったから」
すっかり二人の雰囲気にあてられていた一同だったが、雅人の弁解は、すんなりと納得出来た。
「な~んだ、そういう事だったのか! 二人とも、てっきり付き合っていても不思議は無いくらい仲良さげに見えてたけど、ただのフェイクだったとは! 確かに、浅谷さんは、かなり手強いからな~! 付き合っている相手がいて、これくらいイチャついて見せないと、簡単に引き下がってもらえなさそうかも知れない!」
周囲の反応に、一人不服そうなのは寧子だった。
「あ~あ、私は、演技じゃなくてもいいのに! 雅人君となら、お付き合いでも、結婚でも、何でも有りなんだけど!」
「ハッハッハ! そこまで、この可愛らしい幕井君に言わせたのだから、矢野川君も男たるもの、責任を取らないといかんのではないかね?」
開いている方の雅人の腕を小突いてきた、芹田。
「まあ、そうしたいところですが。生憎と自分には、親同士が決めた婚約者がいるので……」
雅人に婚約者がいた事について初耳だった颯天は、驚かずにいられなかった。
「えっ、雅人! お前、婚約者がいたのか?」
「あれっ、颯天に言ってなかったか? 別に、改めて言うほどの事でもないから、言ってなかったのかも知れないな」
親友だと思っていた雅人から、婚約者の存在を知らせてもらっていなかった事に苛立ちを感じた颯天。
(こっちは、何年も同室だったり、今だって親友のつもりでいるのに! 改めて言うほどの事でもないって、何だよ? 結婚相手がもう決まっているなんて、すごく大事な事じゃないか! それとも、さっきの幕井さんとの事のように、これも、浅谷さんへのカムフラージュの後も、しつこくアプローチしてきそうな幕井さんの求愛から、逃れる為のでっち上げって事なのか? だとしたら、その意図を汲み取って、雅人の邪魔してはいけないのかな……?)
「ほう、そうかね、親同士が決めた婚約者か……今時、恋愛もままならぬとは、御曹司も大変よのう!」
同情の言葉をかけた芹田。
「婚約者がいても、どうせまだ結婚はしないんだから、それまでの相手は必要でしょ? だから、私がこうして名乗りを上げているのに~!」
駄々をこねるような口調の寧子。
「気持ちは嬉しいけど、寧子ちゃんは、もう少し自分を大切にしなよ」
寧子を傷付けないように、やんわりと断った雅人。
(婚約者というより、雅人にとって大変というのは、むしろ幕井さんの方かも知れない。浅谷さん
自分と透子の事よりも、今度は、雅人と寧子の関係が気になり出した颯天。
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