第59話 元の身体へ

「ところでじゃ、わしは年じゃて、この見上げる体勢をずっと続けるのは、そろそろしんどいわけじゃから……」


 芹田が何を言わんとしているか、飲み込めずにいた颯天。


「そうですね、私もずっと気になっていました。変身を解除した方がいいんですよね、失礼しました!」


 透子は、すぐに察知し、元の姿に戻るべきと判断した。


(あっ、そうか! 僕は、いつの間にか、そのまま違和感無く過ごしていたけど、龍体に変身したままだったんだ!)


「いやいや、わしも、君らが龍体でいられる持続時間を知りたかったから、別に失礼な事などは無かったのじゃよ」


「この姿での持続時間というのは、どれくらいなんですか?」


 興味津々に尋ねた颯天。


「それは、個人差が有るのじゃよ。あとは、各自がその時に使用した技の大きさにも関係しておる。君らの場合は、ついで存在している事で、エネルギーが他の龍体達よりも増強されているようじゃし」


「僕らが対でいる時に、エネルギーが増強されているという事は、一体しかいない環境だと、あまり変身は長持ちしないという事ですか?」


「多分、今回のような揃っての持続時間よりは、半減くらいするじゃろうな。しかも、君らの技は他の龍体よりも威力が強く、エネルギーを消費するのじゃよ。単体でいる時に、沢山の技を使った場合は急減してしまい、途中で元の姿に戻ってしまう可能性も有るぞ! 今後、おのおのの技を使用する時は、二体が揃っているか確認して行うと良い」


 エイリアンとの戦いの途中で、元の姿に戻った時には、かなりの致命傷になると想像し、ゾッとなった颯天。


「はい、分かりました!」


(そうか……僕が単体で変身しても、かなり不利になってしまうんだな。という事は、これは、必然的に、透子さんと一緒にいられる時間が増えるって事だ! やった~! 神様、僕を白龍に変身させてくれて、ありがとうございます!)


 委縮した後からの楽観的発想で、一人、幸せを感じている颯天。


「ところで、芹田先生、質問ですが……どうしたら、僕らは人間の姿に戻れるのですか?」


 技を使用した時のように、頭に思い描き、心に念じた透子だったが、一向に姿が黒龍のままだった。


「放っておけば、じきに元の姿に戻るじゃろ、ハッハッハ!」


 愉快そうに軽く言い放った芹田の言葉に、思わず絶句した二人。


「……という事は、自然に戻るまで、このままで居続けるという事なんですか、僕達は……?」


「まあ、最も簡単なのは、その方法じゃが、他にも、手段が無いわけでも無い」


 他にも元に戻る手段が有る事に、二人は安堵した。


「どうやったら、元に戻れるんですか?」


「わしが、教えるよりは、まずは君らが考えてみる事じゃ!」


 芹田は授業中のように、わざともったいぶったような態度に出た。


(あ~、出たよ~! 意地悪な感じの芹田先生が~!)


 この状態の芹田は、なかなか種明かしに出ようとしないのは、颯天も知っていた。


「そんな~、芹田先生、教えて下さいよ~!」


(こんな姿でいる時に、他の隊員達が現れたら、元に戻れないでいるニブイ奴だって思われて、何だか情けない! でも、まあ、一緒に龍体でいるのが、透子さんだから、僕としてはまだ救われるけど……)


 そう思いつつ、黒龍の姿の透子へ視線を移そうとすると、自身と同類と思っていた透子が、いつの間にか、人間の姿に戻ってしまっていた。


「えっ、透、……新見さん! 元に戻れたんですか~!」


「あっ、ホントに……? 私、戻れている!」


 颯天に言われるまで、元の姿に戻った自覚が無かった透子。


「スゴイです、新見さん! 一体、どうやって、戻れたんですか?」


(透子さんが戻ってしまったという事は、僕だけが、このデカい図体の龍体でいる状態なんて……これは、恥ずかしい! 早く、解除法を教えて欲しい! 透子さんなら、芹田先生と違って、じらさないで教えてくれるかな?)


 透子が元に戻れた事で、急に焦り出した颯天。


「技を使うような感じでは、戻れなかったから、私は、まず想像してみたの。このまま元に戻ってしまったら、危ないんじゃないかって……」


 透子に言われて、龍体の自分が今、宙を浮いている事に改めて気付かされた颯天。


「確かに、こんな浮いたままなのに、元に戻ったら、大怪我をします! そうか、まずは、地面に着地しないと……」


 颯天は、イメージしながら心で念じ、その大きな龍体の身体を床に横たわらせた。

 着地した事を確かめ、元の身体に戻るようイメージし念じた。


(これで、元に戻っているのかな……?)


 戻った事を確認しようと、首を動かそうとすると、身体の重さや動かし難さから、まだ龍体のままな事に気付いた。


「元に戻りません! どうして、僕だけが……? 透子さん、何か秘訣が有るんですか?」


 芹田の前で、透子を名前呼びした事にも気付けないほど、かなりアップセットしていた颯天。


「え~とね、この方法が正しいのか分からないから、教えるのが、ちょっと恥ずかしいのだけど……」


(透子さんまで、芹田先生にならったように、じらしてくるなんて~!)


 透子が単刀直入に明かさない事で、なおさら焦り出した颯天。

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