第58話 引退予定の芹田

「は~、それにしても、新見君と、今回の訓練生達全員を変身させる事が出来て、わしは大満足じゃよ! これで、思い残す事も無く、引退出来そうじゃ!」


 晴れ晴れとした表情で胸を張っている芹田。


「えっ、芹田先生、引退するんですか?」


「芹田先生が引退するなんて、イヤです!」


 芹田の表情とは、対照的な面持ちで驚く颯天と、反論した透子。


「わしも、ここに長年勤務し、もう十分役割を果たしたのじゃよ。わしの知識も能力も、すっかり君らに引き継ぐ事が出来たのじゃから、ここには、わしがいる必要なんてないじゃろう?」


(芹田先生が、引退してしまう……僕は、龍体に変身した隊員達を目の当たりにして、怖気おじけ付いて逃げようとした時、芹田先生が引き留めてくれなかったら、今の僕は、無かったんだ! あの、古典の眠たい授業だって、そりゃあ苦痛だったけど、あれが有ったからこそ、僕も突然の変身後、上手く戦う事が出来たんだ! 芹田先生のおかげで、僕がこうして白龍に変身する事が出来たというのに……その芹田先生がいなくなってしまうなんて……!)


 颯天以上に、芹田を恩師として尊敬している透子は、引退を認めたくない様子。


「いいえ、そんな事ないです! 私は、黒龍としての心構えや、これからの戦い方などを芹田先生から是非、教わりたいです!」


「わしの時代は、今とは違うんじゃ。他には、龍体の仲間などいない環境で、孤軍奮闘するしかなかった。じゃが、君らは違う! こうして、頼れる仲間達が沢山いるのじゃからな! 時代遅れなわしの教えなどは、参考にはならぬよ」


 透子に依頼され、頭をカリカリと搔きながら答えた芹田。


「参考にならないなんて事は無いです! 昔から、龍体の戦い方に関しては、第一人者の芹田先生ですから!」


 芹田を引き留めようと、必死な透子。


「僕も、龍体になり立てで試行錯誤しながら戦ったりしたら、無駄な動きとか、気付かないで色々やってしまっていると思います! だから、芹田先生にアドバイスとかしてもらいたいです!」


「君らに、そうやって頼られるのは正直、悪い気がしないのう……おう、そうじゃ! これを伝えておかねばな! わしは、この職は引退する事になるが、このエリア内には残ろうと思っておるのじゃ!」


 芹田は、二人から強く要求されているうちに、伝え忘れている事を思い出し、慌てて付け加えた。


「このエリア内に残られるのですか? 場所は、どちらの予定ですか?」


 透子が嬉しそうな声を上げた。


(透子さん、妙に嬉しそうだな……僕としても、芹田先生がエリア内に残ってくれるのは嬉しいけど。僕以上の年月を芹田先生と過ごしているせいか、もっと、その気持ちが強く感じられる。もしかしたら、透子さんの片想いの相手というのは……芹田先生? いや、そんなわけはないかな……?)


「わしは、地球防衛隊の棟を引退するが、このエリア内には、気になっておる所が有るのでな、新見君もたまに担当する事が有るだろう? ほら、昨夜も行っていたようじゃないか? あのシニア施設じゃ!」


「シニア施設ですか……」


「シニア施設……?」


 ピンと来ない様子の颯天と、思い当たる節の有る様子の透子。


「わしも、いずれは世話になる身やも知れぬからな。今のうちに、あそこの環境を改善しておかないとと思い、移動を願い出たのじゃ」


(シニア用の施設なんて、このエリア内に有ったのか? 芹田先生が、そのうち入居するかも知れないという……? 透子さんは、そういう所の見回りも担当していたのか……)


「でしたら、そこへ行くと、芹田先生がいらっしゃるんですね! 芹田先生が、そこの住人になるのは、まだまだ有り得無さそうですが……確かに、あのシニア施設は入居者側の立場では、あまり良い環境ではないです。私も気になってはいました」


「入居者側だけでなく、働く側の勤務条件の見直しも必要そうじゃ。やはり、わしに権限が有るうちに、色々とてこ入れが必要じゃろう。君らも安心して従事出来るように……とはいえ、新見君は、もう変身を果たしたのじゃから、シニア施設へ向かう仕事は無くなってしまうかね?」


「仕事が無くても、芹田先生がいらっしゃるなら、喜んで向かいます!」


 そう言い切った透子の真意が、芹田への想いに繋がるのか、気になって仕方のない颯天。


(何だか、透子さんが、そんなに芹田先生に、執着するのって、ただの師弟愛とかを超えていそうな感じにも思えるけど……透子さん、本当に、芹田先生の事を好きなんだろうか……?)

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