第57話 相性

「あの~、芹田先生に聞きたいのですが、龍体同士の相性って、その本人達自身の相性と関連性が有るんですか?」


「宇佐田君……!?」


 聞き難そうな表情のわりに単刀直入に尋ねた颯天に対し、まさかそんな事を尋ねると思わなかった透子が、赤面して制した。


「ハッハッハ、確かにそれは、宇佐田君にとっての気になるところだな~! 龍体同士の相性は、わしが知っている限り、当の本人達の相性とは比例してなかったのじゃよ。というのも、大和隊員に対し、変身を成し遂げている大和撫子隊員は、ごく少数じゃからな」


 芹田の説明をすぐに飲み込めない颯天。


(相性が比例してない……? という事は、僕と透子さん自体の相性は、龍体の時と比べて良くないという事だろうか……? それだったら、残念過ぎるし、そんな事は知らないでおいた方が良かったけど……あっ、そうか、それまでは、透子さんも、淡島さんも、まだ変身出来ていなかったんだ! 和野田さんレベルの大和撫子隊員が相手だと、男性側も相当な強者じゃないと釣り合わないから、そういう女性を私生活でのパートナーとしては、選びたくない気持ちになっていたのかも知れない。けど、これからは、透子さんや幕井さんや浅谷さんも加わるから、事情がガラリと変わって行きそうだ!)


「今までは、そんな傾向であったのじゃが、それもこれからは変わるやも知れぬ。というのも、幕井君は矢野川君によって変身を遂げた事で、すっかり彼に傾倒しているようなのじゃよ。青龍と赤龍だから、まあ色的にも磁石のように、自然と引き合うものやも知れぬな」


「えっ、そうなんですか? そういえば、幕井さんは元々、雅、いや矢野川狙いで、最初に彼女からプロポーズしたようです!」


「プロポーズ……!? まだ訓練生なのに……?」


 女性からという事もだが、何よりも、まだ訓練生の身で、雅人にプロポーズしていたという件に驚きを隠せない透子。


「ほうほう、それは随分とまあ積極的なんじゃな~、幕井君は!」


「雅人にプロポーズを断られてからは、他の訓練生達に手当たり次第、猛アタックしていたようなんです。僕も含めてですが……でも、彼女自身が変身出来たからには、自信が芽生えて、原点の雅人に戻ったのかも知れないです」


「まあ、幕井君はあの通り、甘え上手で、非常に愛らしい見た目をしているからのう! 矢野川君とて、頼られたら、断れぬやも知れぬな。そうなると、あの浅谷君も、黙っておらんかも知れぬが。ハッハッハ!」


 他人事のように笑っている芹田と、その話題で盛り上がっている颯天の様子に、痺れを切らしそうな透子。

 自分と颯天は、他の隊員達の殉死を勘違いさせられるほど、決死の思いでエイリアン達と奮闘していたというのに、他の隊員達は、いとも容易く成し遂げたり、色恋沙汰まで発展していた事が、透子にとって腑に落ちなかった。


「他の人達は、隊員達が無事を知っている状態なまま変身したのに、どうして、私達だけ、こんなふうに隊員達が全身殉死したと思い違えるほど酷い逆境に置かれて、神経をすり減らす様な絶望感まで体験させられたんですか? 何だか余計な心配までさせられて、私達だけ損した感じで、他の隊員達は緩い状況のまま、そんなのってズルイです!」


「透、新見さん……?」


 最初は颯天も芹田に対し、怒りの矛先を向けていたが、親友の雅人が無事でいたという喜びで、いつの間にかその感情も吹っ飛んでいた。


「それはじゃな、まあ幕井君は例外としてじゃが、他の隊員達と違って、君らがsup遺伝子が開花してなかったからじゃよ。それにも増して、君らのように遅延組は往々して、重大な役割を任されている立場という事が多いのじゃ」


(重大な役割……僕と、透子さんだけが、他の隊員達とは違っている……芹田先生には、千里眼のような能力も有ると、透子さんが言っていた。芹田先生には、最初っから、目星が付いていたのかも知れない。僕と透子さんが、白龍と黒龍に変身するであろう事を……)


「君らのパワーというのは、他の龍体に比べ計り知れぬほどなのじゃ。しかも、君らの龍体は、対となっておる。他の龍体達は、ただ追い詰められた状況で、自分が死にたくないという気持ちか、エイリアン達に立ち向かって地球を守れるように自分が出来る事をしたいという強い意志さえ有れば、さほど難無く変身出来るが、君らは、そうではなかったんじゃ」


(他の龍体達は、追い詰められた状況で、自分が死にたくなかったらとか、エイリアン達に立ち向かう強い意志さえあれば、変身出来ていたんだ……だけど、僕らは……?)


「さっきも言ったが、君らは対だ。つまり、他の龍体達と違って、その状況だけでは変身出来ないのじゃ。君らに必要なのは、更に、互いを思いやる気持ちじゃった」


(僕と透子さんが、お互いを思いやる気持ち……確かに、僕らは、無力な時からずっと、片方を置いて逃げたりせず、相手を助ける事を考え戦って来た!)


 芹田の説明により、自分達が置かれた状況の理由をやっと理解出来た颯天と透子。


「それで、他の隊員達とは別の空間にて、君ら二人が協力し合って変身を成し遂げ、君らに宿った能力を正確に調べられる状況を用意する必要が有った。その為に、最強だったビースト風エイリアンを模したロボットが、呆気あっけ無く一体犠牲にしてしまったのじゃが……」


 最強ロボットを一体失った事で、名残惜しそうな口調になった芹田。


「そうとは知らずに、燃やしてしまって、すみません……」


 損害の大きさを考え、謝罪した颯天。


「私も、その灰を片付けてしまい、申し訳ありませんでした」


 怒りをあらわにしていた透子も、芹田の説明で気持ちを静め、深々と頭を下げた。


「二人とも何を言っているのじゃ! 君らは、全くもって当然の事をしたまでだ! 君らのような最強の能力が備わっている二体の龍体で、あのロボットに勝てなかった時の方が、よっぽど問題なのじゃ! あの最強だったエイリアンの本体は、まだ赤龍も登場していない時期に、緑龍と全青龍が力を合わせ、やっと退治出来たものと同じ強さを長時間に渡り維持出来る仕様となっていた。つまり、君らは、その最強の力を存続させるエイリアンをも、容易く退治出来る能力を持つ、地球上で最強の龍体ペアと言えるのだ!!」


 龍体としての二人を称える芹田の言葉に、胸が熱くなった颯天と透子。 

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