第56話 芹田の計らい

「僕らは、やっぱり見過す事は出来ません!」


 龍体でいられるうちに、敵を一掃したいという気持ちが強い颯天と透子は、何度も止めにかかる芹田の言葉に疑問を感じ、自分達の使命に従おうとした。


「待てと言っておるのじゃ!!」


 龍体となった颯天達の1/10にも満たない姿だが、その芹田の怒涛のような声は、避難シェルター中に響き渡った。


「分かりました、引き止めるわけを話して下さい、芹田先生!」


 龍体を身体をUターンさせた透子が尋ねた。


「透子さん……」


(この芹田先生は、エイリアンに身体を乗っ取られた偽物かも知れないのに、透子さんは、どうして……?)


 芹田に引き止められても、黒龍と二体で立ち向かうつもりでいた颯天は、透子の反応に面食らった。


「流石は慎重派の新見君だな。龍体に変身してからの行動は、大変大きな損害をこうむる可能性だって有るのじゃよ。宇佐田君も、その点をもう少し考慮した上で、的確な行動を取るようにせんとな!」


「はい……」


 さんざん持ち上げられてから、急にけなされ、不服そうに白龍の身体を芹田に向き直らせた颯天。


「そもそもだね、君らは、えらく勘違いしておるのじゃよ。なぜに、そんな発想になったのか分からんが……よく聞きたまえ、我らの隊員達は、誰も殉死などしておらん!」


 芹田の言葉に、二人は愕然となった。


「誰も……殉死していない……?」


「皆、無事なんですね!!」


 自分達の勘違いを指摘され、驚いている颯天と、安心して気が緩んだ様子の透子。


「だって、この避難用のシェルター内に、エイリアン達が入り込んで来たから、てっきりそういう事かと……」


「隊員達が全滅してしまって、そのせいで、エイリアン達がここまで入り込んで来たと勘違いしたのじゃな、ハッハッハ! 実は、あれらは、本物のエイリアンではなく、今まで最強だったエイリアンを模して作った、戦闘訓練用のロポットなんじゃよ」


「戦闘訓練用の……」


「ロボット……!?」


 その時、背中を向けて退散していたエイリアンが、器用に身体を半回転させ、ホバリングして、こっちに合図を送って来た。

 芹田は、手の平を縦に向けて、数回ブラブラと降った。

 すると、エイリアンは瞬く間に姿をくらませた。


(あれが……エイリアンではなかったのか! 透子さんと二人で、殉死するかも知れない可能性も考えて、無我夢中で戦って来たエイリアンが……実は、ただの戦闘訓練用のロボットだった……? という事は、ここのエイリアン達だけでなく、特殊フィールド内のも……?)


「戦闘訓練用のロボットって……もしかして、特殊フィールド内にいたエイリアン達も、ロボットだったという事ですか?」


「そうじゃよ! なかなかよく出来ていたであろう、ハッハッハ!」


 まるで自作のロボットだったかのような口調の芹田。


「まだsup遺伝子も開花前の僕達なのに、そんな苦境に追い込むなんて、芹田先生、ヒドイです!」


 愉快そうに笑っている芹田を前に、だんだんと怒りまで込み上げて来た颯天。


「いやいや、宇佐田君、考えてもみたまえ。確かに、いささか荒療治過ぎたかも知れんがのう。特殊な能力というのは、危機に面した時になって、初めて発動される事が多いのじゃ。このようなシチュエーションにでも置かれない限り、諸君ら訓練生達が、真剣に命の危険を感じて、変身を果たせないじゃろう?」


「それは、そうかも知れないですが……」


 芹田にそう言われると認めざるを得ないものの、騙されていた事に対し、まだ不満が残る颯天。


「今回の作戦が功を成し、ここに残った君らの訓練生達が皆、龍体に変身出来たのは、既に伝えていたのじゃが、それどころか、ここから逃げて行った訓練生達も皆、晴れて、龍体に変身する事が出来たのじゃよ! あっぱれよのう!!」


「逃げて行った訓練生達も皆って……もしかして、あの玉の輿願望が強そうな、僕と同じ開花前だった幕井さんまで、変身出来たんですか?」


 同じくsup遺伝子が開花していない者同士という事で、寧子の事が気がかりだった颯天。


(諦めの悪い僕と違って、割り切って、ここに残っているのは、ただの腰かけ程度にしか考えてなくて、努力の微塵みじんも感じられなかった、あの幕井さんでさえも、ちゃんと龍体に変身出来ていたのか……?)


「ああ、幕井君かね。他のsup遺伝子開花組の者達に比べると、ちょいと難儀なようじゃったが、あの優秀な矢野川君のサポートが効いていたようで、すんなりと変身しおったよ」


「雅、いえ矢野川が……?」


 寧子を変身に導いたのは、雅人だったというのが、かなり意外に感じられた颯天。


(幕井さんも変身出来たのは予想外だったけど、雅人は『寧子ちゃん』呼びしていたし、満更じゃない気持ちで、丁寧にサポートしたのかも知れない)


 そんな颯天の心の内を読んでか、ニヤリとしながら芹田は続けた。


「君と新見君のように、龍体同士でも、相性の良い個体と相性の良くない個体がいるから、多分、彼らは前者だったのじゃろう!」


(龍体同士にも、合う合わないの相性が有るのか……? そういう関係性が有るのは、てっきり、対となっている白龍と黒龍だけだと思っていた! そうだった! 僕は、役得にも、透子さんと龍体同士の時の相性が良いんだ~! けど、それって、龍体としての関係性だけなのかな……?)


 龍体として存在している時以外での透子との相性も、気になって仕方ない颯天。

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