第55話 正しい判断

「素晴らしい!!」


 過ちを指摘されると思い、構えていた颯天は、芹田の声高の称賛に耳を疑った。


「えっ……?」


 キョトンとした颯天と透子。


「そのような判断を瞬時に下せるとは……! いや~、宇佐田君、君は見上げた若者だよ!」


 芹田の表情が一気に緩み出した。


「はぁ……?」


(なんだろう、芹田先生……? 急にめ殺しにかかってくるなんて……)


 芹田のコロコロ変わる対応に振り回され、頭が付いて行けない様子の颯天。


「新見君は、いや、黒龍の能力は単体でも十分、エイリアンを退治出来るほどの浄化の攻撃力を持っている! じゃが、あれだけの巨体エイリアンに対して、その攻撃を使用するには、かなりのエネルギーを消耗してしまうのだ。つまり、まだ変身したばかりの新見君には、荷が重過ぎるのじゃよ。その攻撃の途中でパワー不足になり、人間の身体に戻されてしまう危険性も有った。じゃから、この場合、宇佐田君がまず発火して相手を灰にさせ、新見君の負荷を出来る限り軽くしてあげたというのは、大正解なのじゃ! よくぞ、初めての応戦時だというのに、その正しい判断を取ってくれたな! 変身したての龍とは思えぬほど、立派じゃ!」


 芹田から褒め言葉を浴びせられ、やっと、自身の取った行動を非難されているわけではなく、認められていたと実感出来た颯天。


「そういう事だったのですね。私も、黒龍の力が、どこまで使えるのか分からない試行錯誤の状態でした……」


 芹田の言葉で、自身が先に黒龍の能力を使用せずにいた事は、正解だったと気付かされた透子。


「あ、ありがとうございます! それですが、あの~、芹田先生、実は、そんなよく考えての行動ではなく、あの時の僕は、それしか思いつかなくて……」


 自分は、まだそこまで称賛されるに値しないと思った颯天は、芹田に本当のところを伝えた。


「なんと、単に思い付いたまま取った行動だったというのか? まあ、それも白龍自身の本能から来ているものも有るやも知れぬ。 つまり、君は、白龍と意思疎通を早々に達成したという事じゃ! う~む、何とも、本当に君らは、待ちに待った最強のペアじゃな! そのような教え子達を輩出させられたわしも、鼻高々じゃよ!」


(僕らが、待ちに待った最強のペア! 僕と透子さんが……! どんなに自主訓練し続けても置いてきぼり組だった僕らが、まさか、こんな土壇場で、あんな巨大なエイリアンをも瞬殺してしまうような、最強の龍体ペアとなれていたとは! ああ、諦めないで、良かった~!!)


「ありがとうございます! 僕と新見さんが力を合わせたら、この先も、どんなエイリアンが飛来しようとも、地球を守れます! 殉死していった隊員達の分も、僕らは仇討ちをします! なので、さっきのエイリアンや、特殊フィールド内に残っているエイリアン達を駆逐してしまわないと!」


「ありがとうございます、芹田先生! 私も、黒龍の身体を随分、使いこなせるようになりました! 私と宇佐田君で力を合わせて、エイリアン達を退治しますから! 芹田先生は、危ないので、ここで待機していて下さい! さあ、宇佐田君、行きましょう!」


 透子も颯天と共に、エイリアン達を撲滅しに行く心意気を見せていた。


「宇佐田君、新見君、まだ話は終わってないぞ! そう慌てるでない!」


 芹田の声が、避難シェルター内で大きく響いた。


(話は、後からだって、いくらでも聞けるのに! それよりも、エイリアン達をやっつけるのが優先じゃないか! それなのに、芹田先生は、僕が有頂天になるような事を話してきたり、どうして、こうやって、何度も止めにかかって来るんだ?)


「……ですが、エイリアン達が好き勝手して、施設内を破壊し尽くします!」


「まずは、話を最後まで聞きなされ!」


 颯天の訴えも、芹田に全く通用しない。


(なんだって、こんな風に落ち着いているんだ? まさか……芹田先生は、あのエイリアンに身体を乗っ取られて、洗脳されてしまったのでは……? そういえば、さっきから、あんなしきりに、僕らをヨイショしてくるのも、何だか不自然だ! そうやって、僕らを油断させようというエイリアン達の魂胆なのかも知れない! だとしたら、芹田先生の話に従うのは、危険だ! けど、芹田先生自身の記憶も有しているような感じもする……元々、芹田先生は、あんな感じで掴みどころの無いような性格をしていたのだから、少しくらい違和感が有っても、それが本人のものなのか、エイリアンに憑依されたせいか、よく分からないし……こういう時には、どうやって、確かめたらいい……?)


 芹田の言動に対し疑問を抱いているのは、透子も同じ様子で、白龍と顔を見合わせた黒龍。

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