第54話 止められた攻撃

「宇佐田君、待たれよ!」


 白龍姿の颯天の耳に、聞き覚えの有る声が響いてきた。

 声の方へ視点を動かすと、避難シェルターの入り口付近に、芹田が両手を振り上げて合図していた。


「芹田先生!! 無事だったんですか?」


「何だね、宇佐田君、たまげたような声を出して。はっはっは! わしが、奴らにやられたとでも思っていたのかね? 」


 エイリアンに攻撃されて負傷したどころか、いつも通りピンピンしている芹田の様子に、唖然となった颯天。

 芹田は、白龍に変身した颯天を目にしても、別段驚いた様子は無かった。


「良かったです、芹田先生が無事でいてくれて!」


「何を言っておるのじゃ! 良かったというのは、わしの事より、君らじゃよ! いや~、二人とも見事に龍体への変身を果たしたのじゃな! おめでとう、宇佐田君、新見君!」


 黒龍に変身した透子を認め、嬉しそうに首を頷かせた芹田。


「芹田先生、ありがとうございます!」


「ありがとうございます! 芹田先生、それは嬉しいですが、その前にまずは、あのもう一体のエイリアンを仕留めて来ます!」


 颯天が、退散しようとしているエイリアンを追った。


「いやいや、宇佐田君。だから、それは待てと言っておるのじゃ!」

 

 退散する姿勢のエイリアンに、追い付こうとした颯天を止めた芹田。


「えっ……? どういう事ですか?」


「今、攻撃しなくても、何か、芹田先生に良い作戦が有るという事ですか?」


 透子も、芹田に止められた意味が飲み込めず、何か策が有るのかと期待した。


(どうして、ここで、芹田先生に止められる事になるんだ……? 今、エイリアン達に仇討ちしておかないと、僕と透子さんだって、いつまでも、龍体でいられないかも分からないし……人間に戻ってしまったら、今度はまた、僕らが危ないというのに!)


 次なる悲劇を生まないよう、ここで、エイリアンを撲滅させようとしているのを止められ、解せない様子の颯天。


「まず、君らの話を聞かせたまえ。もう一体のビースト型エイリアンは、どうしたのかね?」


 軟弱そうな個体しか見当たらないのを確認し、姿を消したエイリアンについて尋ねた芹田。


「それは……その、僕が燃やして、透……あの~、新見さんが浄化しましたが……」


(思わず、透子さんって言ってしまいそうになった! エイリアンを倒した事について、今更、芹田先生に聞かれるとは……このやり方で完璧だと思っていたのに……あっ、もしかしたら、この手順ではダメだったという事だろうか?)


 自慢できるほどの手柄と思っていた事に対し、急に打ち砕かれそうな不安を感じ出した颯天。


(確かに、冷静に考えたら、もっと他にも方法が有ったのかも知れない。最強の黒龍の能力を引き継いでいる透子さんも、ここにいるのだから……僕が先に、エイリアンを燃やしてしまう必要は無かったのだろうか……? 透子さんの能力は、透明化と、透過、それに、浄化だから……そうか、僕が燃やすまでもなく、一気に、透子さんがエイリアンの姿ごと、そのまま闇に葬り去る事が出来たのでは……? 無駄に発火してしまったのか……?)


 いざ、黒龍の能力を熟知している芹田に指摘されると、自身の取った行動に自信が持てなくなっていった颯天。


「この避難シェルター内で、発火は禁じられていましたか?」


 透子が、シェルターの造りを見渡してから尋ねた。


「いざという時は止むを得ず、ここでの発火も認められるのじゃが……そうか、あれだけのエイリアンを端微塵ぱみじんにしてしまったのだね、宇佐田君?」


 芹田に念を押されて、恐縮しまくった颯天。


「あっ、はい……」


(やっぱり、これは、あまり良くない状況なのだろうか……? いきなり変身したばかりの僕が、自分の判断で、勝手にこんな行動に出てしまったから……? 何か、事前に、登録とか手続きとか済ませてからでないと、龍体の技を使ってはいけなかったとか……? けど、こんな一刻を争うような一大事だから、そんな手順なんて必要無いはず! 人命救助が最優先なのだから! こうして、透子さんと僕が生き残れたのは、この白龍の能力を最大限に発揮したおかげなんだ!)


 白龍に変身したばかりの自身の判断は、単純だったかも知れないが、間違ってはいなかったと信じたい颯天。


「私達は、あの時に出来る最善を尽くしたと思っています!」


 颯天を庇うように、透子も声を添えた。

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