第52話 陰陽の存在

「あっ、でも……この事が宇佐田君の役に立つか分からないけど、また浅谷さんの言葉を思い出したの」


 浅谷の話題になると、いつもそうなるように、含み笑い声で透子が話し出した。


「浅谷さんのくらいの万能な記憶力が、僕にも備わっていたらな……緊急時だって、スラスラ暗唱出来るんだから! 本当に、彼女の記憶力には頭が上がらないです」


「私が想い出したのは、残念ながら、古典の龍体文字の文章ではないの。あの時は、思わず笑ってしまったけど、もしかしたら、彼女の解釈は間違っていないのかも知れないわ」


「グガー」


「ウガー」


 位置が随分離れていたはずのエイリアン二体が、颯天に追い付こうとしていた。

 エイリアン達は、もはや視界に入らない黒龍を攻撃する事はなく、二体揃って白龍を狙った。


「解釈って……? もしかして、雅人、いえ矢野川とのついとか、ツイン何とかみたいな言葉の事ですか?」


 透子との会話を続けながら、俊敏に攻撃をかわし続けた颯天。


「該当する人物自体は間違っているとしても、そのついとか、ツインレイっていう解釈は、当てはまっているのかも……」


「という事は、白龍と黒龍が陰陽って事ですよね。ああ、確かに……古典授業の時、芹田先生も、浅谷さんの陰陽についての発言は、認めていたよう感じでした」


「黒龍が癒しと浄化という事は、陰陽の陰で『月』のような存在、対となる白龍は『太陽』という事だから、何かそこから技を思い出せない?」


 透子の声の響きが、颯天の耳から脳に働きかけているような感覚に包まれた。

 それによって、脳がうごめくような感覚になり、忘れていたはずの記憶が、蘇りそうな気配を感じた颯天。


「『太陽』、お日様といえば、つまり『日』……あっ、そうか、『日』は『火』に変換されるって事……そうです、白龍の事、思い出しました! 『白は日のごとく燃やし、万物を灰と化す』です!」


「そうね、確かに、日はだわ! 白龍は、あらゆる物を燃やし尽くすパワーを持っているはずよ!」


(あの古典の授業が、こんな風に実践に繋がっていたとは……! あの使えない銃なんかより、よっぽど凄い! 思い出せたのは、透子さんの声の響きが、僕の脳に影響を与えてくれたからなんだ! この今まで無理そうだった事が、不思議なくらいにどんどん可能になっていくっていうのも、ここに、対である存在がいるからなのかも知れない! だとしたら、確かに、僕らは二人揃えば最強の存在になれる!!)


「グガー」


「ウガー」


 二人が龍体のまま、答えを導き出した頃、二体のエイリアン達が至近距離まで接近して来た。


「透子さん、僕らは、いつまで、この姿で存在出来るんですか? タイムリミットとかって、この身体には有るんですか?」


「それは、分からない……少なくとも、戦いの最中に、龍体から人間の身体に戻った隊員を見た事は無かったわ。でも、もしかしたら、地球防衛隊の人々は、いつも変身している間に敵を片付けていたから、タイムリミットなんて無いように思っていただけかも知れない」


 確信が持てないような透子の言葉を受け、颯天は覚悟を決めた。


「だとしたら、人間の身体に戻ってしまう前に、白龍の技をここで実行してみるしかないです! 多分、それも頭でイメージして心で念じてみると出来そうな気がしますが、初めてなので、上手く行かないかも知れないです。透子さんは、姿は透明なままでも危険ですから、出来るだけ、僕から離れていて下さい!」


「分かったわ! だけど、無理しないで! すぐに実行出来ないようだったら、取り敢えず、退散するようにしてね!」


 イメージし、念じている間は、白龍は無防備になる。

 そこを二体のエイリアンで攻撃されたら、致命的になると思い、注意するように促した透子。


「はい! 奴らにまた挟み撃ちにされないように、気を付けながら挑戦してみます!」


 深呼吸して、まずは心を落ち着かせようとした颯天。

 そうしようとしても、透子と対で怖いもの無し感覚からの興奮状態と、目の前に迫る敵からの危機感が、心の多くを占めて離れない。


(白龍は、口から炎を出す! その炎は、エイリアンを包み込み、瞬く間に灰とさせる! )


 颯天の頭でイメージし、心に強く念じると、胸のあたりが熱くなるのをまず感じられた。

 

「グガー」


「ウガー」


「宇佐田君、危ない!!」


 念じ続けて微動だにしない颯天に向かって、透子が叫んだ。


「あっ! はい!」


(ダメだ! 雑念が多過ぎるせいか、思い描くように早く炎が口から出て来ない! このままだと、奴らに挟み潰されてしまう!)


 挟み撃ちにしようとするエイリアン達を二体同時に狙う事は、不可能だと判断した颯天。

 まず、自分により接近していた大き目の「グガー」鳴きの方に狙いを定めた。


(大丈夫だ、落ち着け! 僕は強い白龍という存在なんだ! 僕の口から出た炎は、まず、このエイリアンを包み込む!)


 大きく開いた白龍の口をそのエイリアンの方へと向けた。


(今だ、白龍! 炎を口から吐くんだ!!)


 心をその事だけに集中し、強く念じ続けた。

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