第51話 名前の言霊

 自分のせいで、透子を犠牲にしたと思い、目の前に存在しているエイリアン達よりも、その事に心を持って行かれる颯天。


(透子さんが、僕の大好きな透子さんが……)


 涙で、エイリアン達が歪んで見えていた。

 エイリアン達もまた、そばにいた透子の方に関心を持って行かれている様子で、颯天の方は向いていなかった。


「ググガー」


「ウウガー」


(でも、それにしては、エイリアン達の反応が、あまり得意気に聴こえて来ない。……という事は、透子さんは、まだ生きている可能性も有る!)

 

「透子さ~ん! 透子さ~ん!」


 涙で鼻声になりながら、しきりに叫んだ颯天。


「そんな不安そうな声を出さなくても、私なら、背後にいるわ!」


 笑いながら颯天の呼びかけに応じた透子。


(透子さん、良かった~! エイリアン達に潰されたわけではなかったんだ! それにしても、エイリアン達の目にも止まらない速さで移動したとは、透子さん凄過ぎる!)


 その声で、エイリアン達も透子が逃げた事にやっと気付き、二体の龍体に対し、声を上げながら追って来た。


「グガー」


「ウガー」


 エイリアン達に追い付かれないよう飛び交いながら会話を続ける二人。


「透子さんは、人間の姿でも、俊敏さが有りましたけど、龍体になっても人間の時の俊敏さを維持出来ているんですね!」


 感心している颯天の声に、また笑い出した透子。

 姿は黒龍に変わっても、透子の笑い上戸な様子と変わらない笑い声に、安堵を覚えた颯天。


(やっぱり、黒龍になっても、俊敏さも笑い声も変わらない透子さんのままなんだな~!)


「ううん、違うと思うわ。多分、これは、黒龍の能力のひとつよ!」


「黒龍の能力……?」


(あ~、この期に及んで、何も思い出せない自分が情けない! あんな居眠りのような態度で、古典の授業を聴いていたからだ。あの時、もっとしっかり学んでおけばよかった……)


「私も、普段は忘れていた内容だったけど、浅谷さんが黒龍の話をしていた時に、大笑いしてしまったのが印象強過ぎて、おかげで覚えられたわ。『黒は月のごとく癒し、万物を浄化す』というのが黒龍の役割よ」


(黒龍の役割は、癒しとか浄化か……あの時、確かに、浅谷さんが自分の事のように自慢気に声高らかに語っていたな。でも、その黒龍の能力というか、透子さんのは、それだけじゃないような気がする……そういえば、古典の授業の時に、芹田先生が何か言っていたじゃないか! え~と、何だったっけ?……そうだ、言霊だ!!)


 やっと、引っかかっていた事を思い出せて、スッキリした颯天。


「透子さんのその能力は、黒龍の能力だけではないです! 多分、透子さんの名前の言霊も、生かされているんです!」


「言霊……? あっ、そういうのも前に習った事が有ったけど……名前の言霊って、私の場合だったら、って事なのかな?」


はもちろんですが、それなら、も出来るかも知れないです!」


 颯天に言われて、心でイメージし、透明化を念じた透子。


「宇佐田君、どう? 私は、見えている?」


 透子の声がする方に頭部を向けたが、透明化に成功した様子で、黒龍の姿は消えていた。


「見えないです! 透子さん、スゴイです! 自分の能力をフル活用出来てるなんて!」


「宇佐田君も、試してみるといいわよ!」


「あっ、はい! 僕の名前の場合は、颯天だから……言霊は、え~と、もしかして、〝疾風の如く、天を舞う〟……みたいな?」


 誰よりもスピーディに宙を動く白龍の様子を頭に思い描き、心で念じた颯天。

 すると、エイリアンの目にも止まらないほどの速度で、空間を移動出来ている自身を認めた。


 あまりの速さに付いて行けなかったエイリアン達のどよめきの声が、遠くから聞こえた。


「グガガ~」


「ウガガ~」


(これが、僕の名前の言霊の成せる技……? こんな大きくて重々しい白龍が、こんな超高速で動く事が出来るなんて……)


「すごいわ、宇佐田君! その速度、今まで見てきた他のどんなに速い地球防衛隊員の龍体よりも素早いわ!」


「まさか、僕の名前に、そんな重要な意味が込められていたなんて! お父さん、お母さん、ありがとう! あっ、でも、僕はまだ、白龍の役割を思い出せていないんです……」


 見えない黒龍の透子を相手に、恥ずかしそうに言った颯天。


「白龍の役割は、ごめんなさい。私、トレーニングで疲れていて、いつも古典の授業は、居眠りの常習犯だったから、覚えていないの……」


 颯天以上に、恥ずかしそうな声音が、黒龍が存在しているはずの空間から聴こえて来た。


(透子さんも、居眠りしていたんだ! ちょっと、なんか透子さんのイメージと違うけど、あれだけ毎日、熱心にトレーニングしているんだから仕方ないか……でも、透子さんも知らないとなると、どうやって白龍の役割を思い出したらいいんだ? こんな風に、いつまでもエイリアン達といたちごっこを続けていられないし。龍体に変身してからのタイムリミットとかだって、有るのかも知れないし……早いとこ、白龍の技を思い出して、地球防衛隊の龍体達の敵討ちをしなくては!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る