第50話 二人で挑む
拳銃を落としたのは、颯天のせいではなく不可抗力だった。
颯天が見慣れていた右手は、その形状を留めず、美しい白い羽毛に包まれた片翼となっていた。
「宇佐田君……!」
颯天の全体像を視界に入っている透子が驚いて叫んだ瞬間、気配を感じたエイリアン二体が、颯天の方へ向いて
「グガグガグガ~!」
「ウガウガウガ~!」
(エイリアン達が、急に威嚇を始めた! 僕に対して……? どうして……? あっ、待てよ……この翼のようなのは、もしかして、いや、もしかしなくても、僕の手なのか……? これは、夢じゃないのか……? だとしたら、僕も彼らや龍体の隊員達のように、空を飛べる……?)
そんな疑問が愚問で有るかのように、気付いた時には既に、颯天の身体は、宙に浮かんでいた。
(無意識のまま、浮く事が出来ている!! こんな事って……? 僕は、僕の身体は、もしかして、変身している……? まさかと思うけど、これは……龍体に変身出来ているって事なのだろうか……?)
颯天は、何とか少しだけ頭部を
(体の上には、光るたてがみが有る……白い鱗に覆われた長い体……これが、今の僕の姿……? 間違いない、龍だ!! 僕は、白龍だったんだ!!)
失命の窮地に追い込まれた時になって、やっと念願だったsup遺伝子の開花させたどころか、超sup遺伝子の開花、
その龍体となった自己の姿を目で確かめた後も、まだ疑問が拭い切れずにいた。
(この僕が……他の訓練生達に遅れをとっていて、sup遺伝子すら思うように開花出来てなかった、この僕が、いきなり飛び級で、超sup遺伝子を開花させた上、重要な役割を持っている白龍だったなんて、本当に信じてもいいのか……?)
「宇佐田君が、白龍だったのね!!」
透子の言葉によって、自分だけの思い違いでも、見間違いでもなかった事を確認させられた。
(こんなのって、にわかには信じられないけど……だけど、確かに、今、僕は、その白龍の姿でいるんだ! その事実をしっかり受け入れて、エイリアン達に挑まないと! 白龍となった僕には、もう怖い物なんて無いはずなんだから!)
白龍に変身している事を自覚し、透子を救出する意思を決めた颯天。
(それはそうとして、白龍の技というのは……? 白龍になった僕には、どんな技を使えるのだろう? 古典の授業の時、あの龍体文字で、どんな事を書いてあった……? ああ~っ、僕が、浅谷さんのような記憶力の持ち主だったら、どんなにか良かったのに……)
宙に身体を浮かせたまま、思い出そうとしていた颯天。
「宇佐田君、危ない!!」
変身出来た時点で、既に勝利を約束されたような心持ちで、能天気に構えていた颯天を二体のエイリアン達が挟み撃ちしようとしていた。
(わっ、エイリアン達! 奴ら、いつの間に飛んでいたんだ? このままでは、奴らに両側から押し潰されてしまう! せっかく、龍体に変身出来たというのに、それだったら、人間のまま、足で踏み潰されるのと何の進歩も無いじゃないか! どうして、この白龍は、僕の意思を汲み取って動いてくれないんだ! どうやったら、方向転換が出来る、この長過ぎる身体の動かし方が分からない……)
颯天が、何とか少し動かす事の出来る頭部だけを左右に振り続け、身体の方向を変えようとしたが、身体の筋肉が思うように連動してくれない。
(白龍に変身出来たのに、透子さんを助けたり、地球の為に戦うどころか、このままじゃあ、人間の時と同じで、
颯天が、エイリアン二体に押し潰されかけようとし、思わず目を
(あれっ……? もう、とっくに潰されていたはずが、何かも感じない? 龍体の身体での痛みは、自分には感じないのかな? もしかして、龍体に変身出来たつもりでいたのは、単なる僕の妄想だったとか……? 本当は、僕はもうとっくに、この世を去っていたから、痛みを感じていないとか……?)
湧き上がる疑問を確かめようと、潰される衝撃に堪える為に
その颯天の目に映っていたのは、その身体ごとエイリアン達に割り込ませて来て、颯天が潰されるのを防いだ、ツヤツヤと黒光りする鱗で覆われた存在だった。
(痛みを感じないと思ったら、僕はまだ潰されてなかったんだ。だけど、僕を助けてくれたのは……この黒くて長い姿は……?)
「もしかして、 黒龍……?」
「宇佐田君、大丈夫?」
(その声は、透子さん……? 透子さんが、黒龍だったなんて!!)
押し潰されずに済んだ事と、透子が黒龍となり、自分を救ってくれた事で、二重の喜びに満たされ、生還を果たしたような晴れ晴れとした気持ちにさせられた颯天。
「はい、大丈夫です! だけど、この身体、どう動かせばいいのか分からなくて……とりあえず、救ってもらって、ありがとうございます!」
「ううん、私の方こそ、何度も助けようとしてくれて、ありがとう! 宇佐田君にとって、変身は初めてだもの、身体を上手く動かせなくても、仕方ないわ」
「でも、透子さんにとっても初めてなのに、こんなに意のまま動かせて、スゴイです!」
「私は、そういうの聴いた事が有ったから……」
………………
数分前
透子は、黒龍に変身すると同時に、以前の会話内容を思い出していた。
『龍体の、あんなに大きな身体をどうやってスムーズに動かせているの?』
『慣れたら簡単なんです。頭でイメージして、心で念じるだけですから』
その言葉を疑う事なく実践し、すぐに颯天の救助に向かった透子。
…………………
「どうしたら、僕にも動かせるようになるんですか?」
黒龍となった透子の身体に甘え、いつまでもエイリアン達に挟まれたままでいる事に恐縮し、一刻も早く、この状況から脱出したかった颯天。
「人間の身体と違って、頭で考えるだけでは、龍体には通じないの。頭で自分のしたい動作をイメージしてから、心で念じてみるのよ」
(頭でイメージして、心で念じる……?)
透子に言われた通り、龍体である自分の身体が、このエイリアンの挟み撃ちから、容易に抜け出せる事をイメージし、心に念じてみた。
すると、自分が想像していたよりもずっと容易く、しなやかに身体を彼らから解放される事が出来た。
(スゴイ! この龍体の動きは、僕の頭に思い描くままなんだ! それよりも、透子さんだ! 僕を救おうとして、代わりにエイリアンに潰されてはいないだろうか?)
黒龍に変身した透子の姿を探すと、エイリアンの付近には見当たらなかった。
(えっ、透子さん……? いなくなっている……? 龍体に変身出来ても、地球防衛隊の他の龍体達だって全滅させられたんだから、黒龍の力が尽きて、潰されてしまう可能性だって有るんだ……どうしよう? 僕を助けてくれる為に、黒龍に変身出来たというのに、今ここで、透子さんを失ってしまったら、本末転倒だ!)
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