第49話 透子の挑み
決死の覚悟で臨んでいた颯天の耳に、銃声が二発
「ウウウガー!」
弾は一発ずつ、それぞれのエイリアンの身体に命中したようで、いっそう大きな奇声が上がった。
「こっちよ! 追い付いてみたら、どう?」
今にも颯天を踏み潰そうとしていたエイリアンの足は、急に方向を転換した。
(透子さん、そんな風にしてエイリアン達の気を引いたら、すぐに追い付かれて狙われてしまうのに……!)
透子の挑発に乗り、エイリアン達が二体とも透子を目指して移動し出した。
「透子さん、ダメです! そんな銃では、奴らを仕留める事は出来ないですから!」
颯天もエイリアン達の後ろから、透子を追った。
「それでも、宇佐田君を見殺しにする事なんて出来ないわ!」
(透子さん、潜んでいた時にはあんなに震えていたのに、逃げないで僕を助けようとして、あんな巨体のエイリアン達に立ち向かってくれている……なんて優しくて勇気溢れる人なんだろう! こんな透子さんだから、僕は好きにならずになんていられないんだ! そして、どんなに勝ち目なんかなくても、透子さんを守りたくなる!!)
飛ぶ時の翼ほどではなかったが、エイリアン達の頑丈な足は、颯天のそれより何倍も早く透子の方へと目指していた。
「ほら、ビースト達、私はこっちよ!」
銃でエイリアン達を牽制しながら、場所を移動する透子。
(そんな風に、発砲した上、エイリアン達の気持ちを逆撫でしたら、あいつら、本気で透子さんに襲い掛かってしまう! そんなにまでして、僕の命を守ってくれるなんて、嬉し過ぎて泣けてきそうだ!……よーし、決めた! 僕と透子さんが万が一、ここから無事に脱出出来たら、絶対、透子さんに交際を申し込もう! 地球防衛隊員達も全滅で、もう僕らしかいないんだ。キスする事も叶ったし、この勢いに乗って、今なら何でも出来そうな気がする!)
エイリアン達にどんどん引き離されながらも、頭の中では、楽観的に透子と一緒にいる未来ばかり想像していた颯天。
「ググガ―!」
「ウウガー!」
エイリアン達はついに透子に追い付き、先刻の颯天にしていたように踏み潰そうととしていた。
「透子さん、危ない!!」
颯天も、透子のようにエイリアン達に銃弾を放とうとしたが、銃の操作方法が分からない。
(どうして、今まで、こういう実践的な事を訓練させてもらってなかったんだ! こんな土壇場で、銃も扱えないなんて! 透子さんを助けたいのに、銃は何にも役に立たないし、僕は透子さんにとって足手まといにしかなってない。ホントに僕は、情けないくらい、ただのポンコツじゃないか!)
エイリアン二体に攻撃されている透子が視界に入っていながら、まごつくしか出来ない自身に、苛立ちを覚えた颯天。
「グガー」
「ウガー」
透子は日頃の鍛錬の成果が見られ、俊敏な動作でエイリアン達の間をくぐり抜け続けていた。
(すごいな~、透子さん! こんな巨体を相手に、ビビる事も無く、身体をかわし続けているなんて! ただ、僕と違い、身体能力の高い透子さんでも、いい加減、疲れてくるかも知れない。エイリアン達は、さっきだって、僕と動いていたんだから、奴らの方から根を上げたらいいのに……いつまで経っても疲れひとつ見せない。なんてタフな生き物なんだ! このままだと、透子さんの方が、もう限界になってしまう! いや、透子さんだけじゃなく、僕だって、もう限界スレスレだ……)
やっとの事でエイリアン達の所まで追い付いた颯天だが、それまでの疲れで息切れしていた。
エイリアン達の気を引きたいところだが、透子から自分にターゲットが移ると、瞬殺されそうな気がして、先刻のように、銃でエイリアン達の身体を突くのも
そうしているうちにも、透子の動作に最初ほどの俊敏さが感じられなくなった事に気付いた颯天。
(ダメだ! 透子さんが、エイリアンの足を避け切れなくなってしまう! 僕の方に関心を向けさせるんだ! この
「お~い! 力しか取り柄の無いビースト達、獲物はこっちだ!」
エイリアンの足首を決死の覚悟で、銃で突いた颯天。
「宇佐田君、ダメよ! 何、やっているの? 早く、逃げて!」
颯天の行動に、顔をしかめて叫んだ透子。
「イヤです! 透子さんは僕が守ります!」
何度もエイリアン二体の足を突いていたが、エイリアン達は颯天を一
(ダメだ、僕の方には向かって来ない! 透子さんの方が、エイリアン達を怒らせてしまったからだ! これじゃあ、透子さんが殺されてしまう! そんな事は有ってはならないんだ! 僕だって、これでも地球防衛隊の訓練生なんだ! たった一人の大好きな人を救えなくて、どうやって地球を救えるんだ! 自覚を持って、しっかりと向き合わなくては! そうだ、僕は、
「おい、分からず屋のビースト達、こっちだって言っているだろ!! こっちに向かって来い!!」
出せる限りの大音量でエイリアン達を突きながら叫ぶと、やっと、二体が颯天の方を向き、大きく翼を動かそうとした。
(やった! こっちに注意を引けた! それはいいけど、問題はここからだ! このままだと、僕も透子さんも強風で吹き飛ばされるだけだ)
その時、颯天の手に握り締めていた銃が、音を立てて床に落ちた。
(えっ……嘘だろう? この
絶望感に襲われた颯天。
その颯天の目に映ったのは、それまで知っていた自分の手ではなかった。
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