第48話 みなぎる闘志

「グガー!」


「ウガー!」


 エイリアン達による轟音が自分達の潜む辺りまで接近した事で、透子とのキスの余韻から醒めたと同時に、闘志をみなぎらせた颯天。


「透子さん、ありがとうございます! 僕には、これでもう思い残す事は何も有りません! だけど、透子さんには、これから先もずっと、その明るい笑い声を響かせて笑顔で生きていて欲しいです!」


「そんな事は言わないで! 私は……宇佐田君にも隣で、それを見ていて欲しいから、絶対に死んだりしないで!」


 今にも、エイリアン達の羽根の威力により崩壊しそうな壁の内側で、戦い抜く覚悟を決めようとする二人。


(透子さん、隣で見ていて欲しいって、言っていた……それって、僕の想いへの答えだろうか? だったら、死にたくない! 死なないで、透子さんとの未来を描きたい! だけど、こんな自分みたいな能力から見放されている人間には、最初っから、太刀打ち出来るわけなんかないって、分かりきっている。自分だって、本当は死にたくないけど、やっぱり、せめて透子さんだけでも生きていて欲しいから……)


 壁が破られ、巨大なエイリアンの身体の一部が隙間から見えた瞬間、颯天は傍に有った銃を片手に取ると、その隙間から飛び出した。

 エイリアンは二体とも、颯天と比較にならないほど巨大で、20メートルほどの大きさで宙を浮いていた。


(半端じゃないほど大き過ぎる……! 僕なんかが着地して、銃を振り回したところで、奴らにとっては何の脅威にもならない! これほどの巨大な敵達を目の前にして、僕はただの無力な虫けらも同然だ! だとしても、こんな僕でも、少しの時間稼ぎくらいは出来るはず……)


 宙を浮く事が出来ない颯天だったが、取り敢えず、銃を振り回し、エイリアン達を威嚇しているようにしてみせた。

 その動きにより、エイリアン達の注意を引くという意図だけは可能となった。

 エイリアン二体は収納庫から離れ、颯天に向けて、翼をバタつかせ、強風を発生させた。

 銃もろとも颯天は、いとも容易く、その場から飛ばされ転倒した。


「グガア~~~!」


「ウガア~~~!」


 相手を負かしたという得意気な様子で小刻みに羽ばたきながら、それまでとは違う響き方の声をあげたエイリアン達。


 しばらく高揚感に酔い痴れていたようだったが、エイリアン達は、また透子が残っている収納庫に気付き、向きを変え襲い掛かっていた。


(ああ~っ! 僕は、どうして、こんなに情けないんだ! 自分の大好きな人を守る事も出来ないなんて! このままじゃあ、本当に透子さんの方が危ない! 何とかしなくては!)


 随分離れた場所まで強風で飛ばされていた颯天が、走って収納庫の方へ向かい、エイリアンの身体を銃で突いた。

 エイリアン達は、最初は羽を少し動かして対応してしたが、それくらいの風では、吹っ飛ばされなかった颯天は、尚も突きまくった。


(そうか、この程度の羽根の動きで済むなら、僕は飛ばされない。さっきのような本気の羽ばたきになる前に、透子さんがどこかに逃げ切れるくらいまでは、エイリアン達の気を引いておかないと!)


 突かれ続ける事に堪えられなかった様子で、エイリアン達は、収納扉の方から離れ、颯天に向き直った。


「グガー」


「ウガー」


 その様子を壊された収納扉から、恐る恐る顔を覗かせて見ていた透子。


(透子さんだ! 頼むから、銃を持って、この隙に逃げられる所まで、逃げて欲しい! エイリアン達の視線は、僕が集めておくから)


 暴風でも、颯天はまたこの場へ戻って来る事を考えたのか、エイリアン達は、羽ばたきを止め、地球の鳥類よりずっとずんぐりとしたその足で、着地した。


(このエイリアン達は、地面も歩けるんだな……という事は、こんな風に構えていたら大変だ! 逃げないと踏み潰される! いや、逃げたら、ターゲットが透子さんに移ってしまう! 僕は逃げてはいけないんだ! やられるギリギリまで、この銃で何とか気を引き続けないと!)


 颯天の必死の挑みを無駄にしてはいけないと思った透子は、銃を持参し、収納庫から飛び降りた。


(透子さん、あそこから出られた! 良かった、エイリアン達には気付かれていない! 透子さんさえ無事だったら、僕はどうなっても構わない!)


 颯天は、エイリアンの視線を自分に向けさせたまま、銃をブンブンと振り回し、エイリアンの足を避けるだけの移動を繰り返した。


(何だか、まるでドッジボールでもしている気分だ。ただし、ボールは1つじゃなくて2つあるけど……)


 しばらくそうしているうちに、逃げまくる事に疲れた颯天は、次第に足の進み具合が鈍くなっていた。

 その時、エイリアンの大きな足が、頭上に迫っているのが、颯天の視界に入った。


(この状態だと上手く逃げ切れたところで、もう一体のエイリアンに踏まれてしまう! 透子さんは、逃げ延びてくれたかな? 僕は、もうこれでおしまいなのかも知れない……ああ~っ、大好きな透子さん、さようなら、お幸せに! お父さん、お母さん、先逝く息子をお許し下さい)

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