第47話 再び接近時に……

「ありがとう、宇佐美君。ホントに、いつも後輩に励まされてばかりで、頼りない先輩で情けないけど……自分もまだ諦めたくないし、応援してくれる後輩もいるんだから、これからもずっと頑張るわ」


 重ねられていた颯天の手を少し気にしながらも、そのまま話し続けた透子。


(あっ……思わず衝動的に、透子さんの手を握ってしまっていたけど、振り払われなていない! ……って事は、嫌がられてはいないんだ! 良かった~!)


 その時、また複数体のビースト型エイリアン達が接近している声が響き、ビクッとなる二人。


「グググガー」


「ウウウガー」


「エイリアン達は、やっぱり、諦めて帰ったわけではなかったんですね」


 再び接近中のエイリアンに驚き、小刻みに震え出す透子の手をいっそう強く握り締めた颯天。


「グガー」


「ウガー」


 エイリアン達の声は次第に近付きつつ有るのが、二人にも分かった。


「静かにしていた間に、もしかしたら、私達の居場所の手がかりを掴んだのかも知れない。こっちに近付いて来ているから……」


「やっぱり、複数いる感じですね。近付いてるのは、また2体のエイリアンかな?」


 聴き耳を立て、鳴き声の様子から、少し前に来ていたのと同じ2体が近付いているように思えた颯天。


「グガー」


「ウガー」


「鳴き声の様子から、ここに向かっているのは2体ね。多分、さっきのエイリアン達と同じだと思うわ。ここに隠れている事に気付かれたのかも知れない……」


 前回と異なり、壁を叩くという動作をしていない事から、相手側は、おおよその目星が付いている状態かも知れないと睨んだ透子。


「僕らが、ここにいる事に気付かれただけでも、ヤバそうですけど、ここの壁だけが薄い事が尚更……」


 透子の不安を掻き立てまいと、それ以上を口に出来ない颯天。

 

「命取りになりかねないわ……」


 颯天の言葉を繫げ、その覚悟で臨もうとしていた透子。


「万が一の時、僕は、透子さんがやられるのを見るのは無理です。僕が、ここに有る銃を持って、エイリアン達の気を引きますから、その間に透子さんは逃げて下さい」


「さっきも言ったけど、銃の使い方を知っているのは私よ。それに……大体、もう逃げ場なんて無いわ……」


「銃は、振り回すだけでも、十分にエイリアン達の気を引けます。弾があたったところで、それくらいで、エイリアン達を倒せるなら、こうなる前に地球防衛隊の人達がとっくに倒してましたから。多分、銃を扱えても太刀打ち出来ないと思います」


「確かに、悔しいけど、宇佐田君の言う通りかも知れない……」


 結局、銃を扱えたところで、エイリアン達への攻撃には役に立たない事に気付かされ、肩を落とした透子。


「グガー」


「ウガー」


 壁を隔て、至近距離に迫るエイリアン達の声。


「もう、エイリアン達に見付かるのは時間の問題です……こんな時に、こんな事をお願いするのは、とても無作法で、ふてぶてしい事だって分かっていますが……これが最後かも知れないので、新見さんに、お願いが有るんです。もし叶えてくれるなら、僕は、残された時間で精一杯頑張りますし、どうなっても、もう未練も無いですから」


「どんな事……? 今の私に出来る事なら、協力するわ」


(協力……って、その言葉が、こんなに近くにいるのに、急にまた透子さんとの距離を遠くに感じさせられる。そう言った透子さんに、悪気は無いって分かっているけど……それでも……もしも、僕の願いを叶えてもらえるなら、僕は、今まで生きて来た甲斐が有ったって気持ちになって、最後まで頑張れる気がする!)


「僕は……恥ずかしながら、今まで交際した事が無いんです。このまま、死んでしまうのは、ただ情けないので……大好きな新見さんに、図々しくて嫌われても仕方の無い覚悟でお願いしますが……つまり、その~、キスして欲しいんです……」


「キス……?」


 唐突な颯天の言葉に、驚かずにいられない透子。


「あっ、あの、その~、別に、そんな、口にじゃなくて、おでことか、ほっぺとかで構わないです。それだけで、僕の気持ちは報われますし、僕が生きている間は、透子さんには手出しさせないで、頑張り抜きますから!」


 思わず、透子の苗字ではなく名前の方で呼んでいた颯天。


「グガー」


「ウガー」


 突然、二人が隠れている場所に近い壁を強く叩き出したエイリアン達。


(ヤバイ! これじゃあ、透子さんの返答を待つ前に、壁を壊されてしまいそうだ!)


「いいわよ」


 エイリアン達の動きに危険を感じた透子が、やっと返答し、颯天の唇に、そっと自分の唇を合わせた。

 表面が触れるか触れないかという程度で、時間的には1秒にも満たないような短さだったが、それは十分に颯天の心を昇天させるに足るものだった。


(えっ、唇に……! 一瞬だったけど、間違いなく、触れたのは唇だった! 夢みたいだ~! 僕が透子さんとキス出来たなんて、しかも唇に! もしかして、僕の想いは、叶う見込み有りってことかな? それとも、彼女なりの優しさで、死に行く僕へのはなむけのつもりだったのかな……?)


 エイリアン達が迫っているにも関わらず、透子とのキスですっかり夢見心地になっていた颯天。

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