第46話 雅人の色は……

 龍体に変身後の雅人の色を確認しようとし尋ねると、また笑い出した透子。


「あの~、新見さん……?」


「ごめんなさい、あの時の……浅谷さんの妄想のスゴイ勢いをつい思い出してしまって……」


(こんな時でも、透子さんは、本当に笑い上戸なんだな。ストイックな行動もする反面、あまりにマイペース過ぎて驚かされるけど、透子さんの笑い声を聴くと、僕も緊張がほぐれて、楽しい気持ちにさせられる!)


 やっと、透子の笑い声が収まり、そろそろ本題になりそうな声音に変わりそうな気がして、注意深く耳を傾けた颯天。


「矢野川君の色は……浅谷さんにとっては、かなり残念かも知れないけど、赤なのよ」


「えっ、赤……ですか?」


(雅人が赤い龍だった! てっきり、雅人は白龍だとばかり思っていたのに! 本当だろうか……? 意外だけど、透子さんが今、この状況下で嘘をつくようには思えない……)


「ええ、彼は赤龍よ。神社とかで見られる、あの鮮やかな朱色をして、とてもしなやかな神々しい動きをするの。何度も私は見ているから、間違いないわ」


(神社のような朱色をしているんだ、雅人は……赤龍ということは、確か、古典で習った時の特徴は、赤はで、は石のせきだったような……?)


「赤龍って、石化ですか?」


「そう、龍体文字の詩で『赤は石に通じ、万物を石に変ふ』って習った通り、矢野川君の技は、狙った相手の石化よ。それはもう、地球防衛隊の中では特に重宝される技能だから、彼が加わってからは、その目覚ましい活躍ぶりで、いっそう地球防衛隊が強化された感じよ」


(雅人は、さすがだ! 透子さんに、こんなに褒められるなんて羨ましい! いいな~、雅人は! 僕も雅人のような能力を持った立場だったら、透子さんに交際を申し込んだとしても、相手として不服無さそうなのに……どうして、僕は、雅人じゃなくて、こんな能力的にカスのような僕なんだろう……)


 白龍ではなかったものの、地球防衛隊の中で既に一目を集めている雅人に嫉妬し、自分を卑下せずにいられない颯天。


(だったら、浅谷さんは……? 浅谷さんが黒龍に変身していたとしたら、彼女がペアを組む相手は、雅人じゃなくてショックを受けただろうな……)


「それで、浅谷さんは自分の予測通り、黒龍に変身出来たのですか?」


(もし、白龍に変身した隊員がいないとしたら、黒龍かも知れない浅谷さんの相手は、もしかしたら、これから変身するかも知れない僕の可能性も有るのか……僕が白龍なんてわけないだろうけど、もしも、浅谷さんがペアを組む相手だとしたら、僕には荷が重過ぎるな……)


「気になるところだけど、訓練生達が変身を遂げたのを私は見届けないうちに、この避難シェルターに移動したから、彼女の色は分からないわ。彼女自身が望んでいた、黒龍である可能性も有るけど、どちらにしても、念願の矢野川君とはペアになれなかったわね」


 千加子の話となると、また思い出して含み笑いをしている透子。


「そうだったんですか。浅谷さんが黒龍だとしたら、対となる白龍の男の人は大変そうですよね」


「あのペースに合わせるのは、普通の人ではキツイかも知れないわね。でも、まだ訓練生の中に、白龍は現れてなかったとしたら、宇佐田君の可能性だってあるわよ」


 千加子の思い込みの激しさを思い出し、笑いながら話した透子。


「いや、僕には無理です。彼女と対等に話せるくらいの勢いの有る男性隊員じゃないと、白龍は無理ですよ。あ~っ、そうだ。浅谷さんの事より、新見さんは、どうして地球防衛隊を志したのですか?」


 透子のきっかけも、彼女の口から、是が非でも聴いておきたかった颯天。


「私の家は、母親だけsup遺伝子所持者で、遺伝子的にはあまり有利では無かったわ。でも、私は幼い時からお転婆で、男の子が見るような、ヒーローもののテレビや動画ばかり観ていたの。そうしているうちに、いつの間にか、その主役に自分を重ねて観るようになっていた。気付いた時には、すっかり私にも出来るんじゃないかって信じ切っていて、地球防衛隊入りを夢見るようになっていたわ」


 透子の話しぶりに、幼少期の透子の姿が浮かぶような気がして、彼女の過去の様子を知り、嬉しくなった颯天。


(透子さん、きっと小さい時から可愛かったんだろうな~! いかにも、男勝りな美少女って感じで、透子さんのそんな時代にも出逢っていたかったな~! そうしていたら、僕だって、もっと能力を発揮出来ていたかも知れなかったのに……)


「何だか、新見さんの話を聴いていると、小さい時の新見さんが思い浮かぶ感じがします。新見さんが、そんなにお転婆さんのようには見えなかったですが、ヒーローに自分がなりたいと憧れるくらいだから、相当なお転婆さんだったのですか?」


「小さい時の私を知っていたら、宇佐田君は、怖がって、こんな風に、今、話しかけてなかったかも。そんな小さい時からの夢を見続けていたのだから、人より遅れても、いつか叶うといいんだけど……」


(いつも、そう願っている時の透子さんは、声のトーンが落ちてしまう。最初は、きっと、誰よりも強く出来ると信じて進んでいたはずなのに……そんな、透子さんが自信を取り戻して、叶うまでずっと突き進んでもらいたい!)


「きっと、叶います。 芹田先生だって、太鼓判を押してくれたのですよね? 僕もずっとずっと応援してます」


 それまでも暗闇の中で、手の甲同士が当たっていたが、思わず勢いのまま、どさくさに紛れて、透子の手を両手で強く握った颯天。

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