第45話 重い沈黙

 颯天の告白により、透子が駆られていた恐怖心から解放されていたが、エイリアン達の強打音も、気付くと聴こえなくなっていた。


「何だか、妙なくらい静かになったわね……」


「諦めて帰ったとかですか?」


 そんな生温くないとは思いつつ、口に出していた颯天。


「一時的に退散して、他のエイリアン仲間達と策を練っているのかも知れないわ。ここまで来て、獲物が残っていると勘付きながら、そうやすやすと引き下がるようには思えないもの」


「そうですね、まだ、その辺にいて、帰ったと見せかけて油断させて、僕達を出て来させようという魂胆かも知れないですし……」


「今、ここから出るのは危険だわ。窮屈だけど我慢しましょう」


(この窮屈な状況が幸せだと、僕は言ったのに……幸せなのは僕だけで、やっぱり、透子さんにとっては、ガマンするという心境なんだ。まあ、そんな風に思われていても当然といえば、当然だけど……この場に及んで、透子さんの方からも、僕に何か、希望を持たせてもらえるような言動が有ったらな、少しはまだ見込み有るかも知れないのに……)


 そんな颯天の気持ちには、気付いたのか気付かなかったのか、透子は自分が先輩である自覚を保っているようで、平常通りでいた。


「宇佐美君、もしも、疲れていたり、眠かったら、遠慮無く休んでいてね。私一人でも、しっかり聴き耳立てておくから」


「僕は大丈夫です。新見さんこそ、良かったら、休んで下さい。女の人は、男と違って、どうしても体調が優れない時が有ると思うので……」


 月経の期間だとしたら、男相手になかなか言い難い内容も有るかも知れないと気遣った颯天。


「さっきから、何だか色々気遣ってもらって、ありがとう。でも、私は、元気だから、もう気を遣わなくて平気よ」


「あっ、はい、良かったです……」


(僕の告白も、もしかして、透子さんを気遣って、そういう話を振ったと思われているのかな? そればっかりというわけでも、なかったんだけどな……)


 その後、しばらく二人の間に沈黙が流れた。


(あっ、もしかして、僕が話す事は、余計な事に感じられている……? エイリアン達の動きに聴き耳立てなきゃならないって時なのに、さっきから僕ばかり、この状況に見合わないような事を口にしているから……)


 そう考え出すと、颯天は口をつぐまずにいられなかった。


(さっきからずっと、僕一人が空回りしていたピエロのような感じだったんだな……そもそも、僕なんかが、透子さんを元気付けようとしていた事自体、すごくおこがましいのかも知れない……こんな話してばかりだったら、透子さんに、ただの口先だけの男と思われて、嫌われておしまいなのかも知れない……)


 これまで自分が取って来た言動を振り返り、急に恥ずかしくなった颯天。


「何だか静か過ぎると、ボーッとなって、眠気が襲ってきそうになるわね……でも、二人して眠ってしまったら大変だから、何か話しましょうか?」


 しばらくの沈黙が続いた後、透子の方から沈黙を破った。


「はい、賛成です。どんな事を話しますか?」


(良かった~! いつまでこんな沈黙が続けたらいいのか不安だったし、思わずウトウトしそうになっていた! だけど、どんな話を振られるのだろう……?)


 ドキドキしながら、透子の言葉を待った颯天。


「宇佐美君が、地球防衛隊に志願しようとしたきっかけって、何?」


 尋ねられた内容が、わりとありきたりな事で、颯天はホッとした反面、少し物足りなさも感じた。


「僕の場合、両親がsup遺伝子所持者で、僕も所持してるのを知っていたので。小さい時から、テレビやスクリーンを見て、地球防衛隊に入るのを夢見て来ました」


「そうか、宇佐美君って、意外だったけど、実はサラブレッドさんなのね~。それじゃあ、周りの期待も大きかったでしょう?」


(意外だったのか……確かに、sup遺伝子を所持しているだけで開花もしてない置いてきぼり組だからな……)


 透子の反応に、少し意気消沈させられた颯天。


「はい。でも、僕の場合、中等部、高等部と進む毎に、周囲の期待外れ感がどんどん膨らむ感じでした。特に、高等部に上がってからは、ルームメイトの雅人、あっ、矢野川が、あの通り、ずば抜けて優秀だったので、余計に劣等感だらけでした……」


 雅人との件は、以前も透子の前で話していたが、またその流れになってしまうのを止められなかった颯天。


「ルームメイトの相手が、既に超sup遺伝子も開花済みの矢野川君だったなら、その差は歴然と感じさせられても仕方ないわね」


「あっ、そうそう、新見さんに聞きたかったんです。研修生の浅谷さんが勝手に、矢野川と彼女がペアのように思い込んでいた、古典の龍体文字の詩の中に有った色の事についてです。新見さんは、もう見ているから知ってますよね? 矢野川は何色の龍なんですか? 浅谷さんの言う通り、陰陽の白が、矢野川だったんですか?」


 龍体に変身した雅人の色が気になり、千加子の予想と一致しているか、確かめておきたかった。


(常に僕なんかはもちろん、同期の男達に対しても、何歩もリードし続けて来た雅人なんだから、僕らの中では一番、白龍の可能性が高いに違いない! だけど、雅人が白龍だとしたら……同期の女性の中ではずば抜けている浅谷さんは、いったい何色の龍だったのだろう? やっぱり、優れている者同士で陰陽になっていて、浅谷さんが黒龍という事だろうか?)

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