第43話 これが最期かも知れないから
双方に分かれ、聴き耳を立てていた
しばらく何も手応えが無く、思わず
そんな颯天をどこからか見ていて、
「今のは……?」
声を潜ませて、透子に尋ねた。
「多分、エイリアン達がこの壁を叩いている音だと思う……」
「僕らは、見つかってしまったんですか?」
相手側からは透視されていたのかと思い、ビクッとなった颯天。
「でも、叩いている壁は、ここからそんなに近くないような感じに聴こえるの」
「確かに……」
透子の右側の方が、より大きく聴こえてはいたが、それでも、この近くの壁を叩いているような様子はないのが分かった。
「多分、この避難用シェルターを破壊しようとして、強度を観ているのかも知れない」
「このシェルターは、シェルターというくらいだから、かなり頑丈に出来ている壁なんですよね?」
今、エイリアン達に壁を破壊されたら、隠れている自分達には逃げ場が残っていないと思い、透子に確認した颯天。
「ええ、かなりの衝撃への耐久性は有るのだけど……ただ、私達が隠れているこの部分だけは、武器を取り出す時の開閉しやすさを優先させているから、他の壁と同じ仕様になっていなくて、かなり薄くされているの。だから、ここにいる事を嗅ぎつかれないようにしないと……」
(ここだけが、他より強度が低い……武器の収納部分だから、そういう構造でも仕方ないのか……ああ、どうか、奴らに見付かりませんように!)
「ここから離れた壁を叩いているという事は、今の時点では、僕らは見付かっていないんですよね?」
「多分……そう信じていたいわ」
希望的憶測を込めて言った透子。
「だけど、エイリアン達は、少しずつ近付いているような気がします……」
「ええ……まだ、気付いているわけではないかも知れないけど……」
叩いている金属音の鳴る位置が近付いている事に、透子もまた気付いている様子で、微かに声が震えていた。
(僕の言葉のせいで、また透子さんを余計に不安にさせてしまったのかも知れない! こんな時、透子さんと一緒にいるのが僕なんかじゃなくて、荒木さんや目白さんのように頼れる存在だったら、透子さんを安心させる事が出来たはずなのに……透子さんの横にいるのが、僕なんかで気の毒でしかない……)
エイリアン達が叩く金属音が強く響くにつれて、透子の身体も小刻みに震えているように感じ取った颯天。
(この震えは、僕……? いや、僕ではなく、透子さんの方だ。後輩の前だから、強がって弱味を見せないように頑張っているのかも知れないけど、内心は僕よりも怯えているのかも知れない……透子さんを守ってあげたい気持ちは強いのに、強いのは気持ちだけで、僕には実力が伴わない……それでも、もう、この場には、透子さんの他には、もう僕しかいないんだ! 僕がもっとしっかりして、透子さんを不安がらせないようにしないと!)
頭では分かっているつもりだが、得体の知れないエイリアンが接近しているこの状態で、颯天はどうやって自分を保っていいのか分からなかった。
(荒木さんや目白さんだったら、こういう時は、どんな風に言って、透子さんを落ち着かせるのだろう? いや、そんな強い人達の真似なんか、僕がしようとしたって、中身が伴わないんだから、ただの道化になってしまう。だったら、自分を無理して強く見せなくてもいいのかも知れない……)
「これが、もしも、自分の最期だとしたら……」
「えっ? 宇佐田君、そんな縁起でも無い事を言うのは止めて!」
颯天の言いかけた言葉に対し、驚きながら制しようとしていた透子。
「いいえ、楽観的に考えようとしても、僕には無理なんです! それなら、いっそ覚悟を決めておいた方が、ずっとラクかもと思うんです!」
「諦めるのは、最後になってからで良いと思うわ! まだ希望を捨ててはいけない!」
颯天の意見に賛同しかねた透子。
「でも、話をさせて下さい。昔、よくこんな質問を友達としませんでしたか? 無人島に何かひとつだけ持って行けるとしたら何がいい? ……って。その質問をされた時、僕は、どんな物よりも、大好きな人と一緒がいいなって、ずっと頭の中で思っていました。だから、こんな時にこんな事を言うのは、すごく不謹慎かも知れないですが、それは分かっているんですが、でも、言わせて下さい。僕は……今、この新見さんと一緒にいられる状態が、今までの僕の人生の中で、一番幸せなんです」
今、この場で言うべき内容か、最初は疑問に感じていたが、もしも、これが最期かも知れないのだったら、胸の内を透子へ向かって吐き出しておきたかった。
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