第11話 待ち望んでいたプロポーズが......
昼下がりの隊員食堂、昼食をする隊員達でピークの混み具合になっていた。
雅人の隣には、地球防衛隊の棟に研修にやって来た颯天の姿も有った。
「見て、矢野川君が笑っている。同期と一緒の時には、あんな笑顔するのね」
ちょうど斜め対角線上に見えている雅人の表情が、研修時との違いをかなり感じさせられ、隣の席で食事をしている荒田に伝えた透子。
「確かにな。同期と一緒にいると、緊張感が
昼休憩時の透子の視線が、自分では無く、新人の雅人に注がれている事が不本意そうな荒田。
「いい笑顔してるね。彼らは、きっと矢野川君にとって、気の置けない仲間達なのね」
「そんなに気にしてるとは、もしかして透子は、矢野川がお気に入りなのか? 奴は、近年稀にみるスーパー新人って言われてるしな」
透子の口から自分以外の男性隊員の名前が出て来る事など、今まで滅多に無かっただけに、荒田は矢野川に対する嫉妬心が芽生えていた。
「まさか! ただ、すごく注目されている新人だから、どんな感じなのか、少し気になるだけよ」
「それならいいが。あっ、そうそう、知ってるか、透子? 矢野川の隣にいる奴は、矢野川とは天地の差と言われるほど出来損ないだって。そんな奴がどうして超sup遺伝子所持者なのか疑わしいが。名前は、え~と、なんだっけ、宇佐田だったかな?」
荒田は、よく噂を耳にしていた颯天の名前を出した。
「あの、日焼けした訓練生の事? 出来損ない……?」
荒田の蔑んだ言い方に反感を抱く透子。
「訓練生のくせに、まだsup遺伝子すら覚醒してない役立たずだってさ」
「そんなの……まだ訓練生なんだから、仕方ないと思うわ。今までだって、そういう訓練生が何人もいたじゃない」
「けど、仲良さそうな友人同士でありながら、トップとドベっていう組み合わせなんて、
荒田の言葉に、沈んだ様子で伏し目がちになる透子。
「それ言ったら、私と荒田さんだって……」
「透子は、違う! 十分頑張っている! それくらい、俺が分かっているから!」
その時、午後の活動の予鈴が鳴った。
「今日、仕事が終わったら、ゆっくり俺の部屋で話そう」
気が進まないまま、コクリと頷いた透子。
透子は大和撫子隊に入隊する以前の訓練生時代から、荒田に憧れ続けていた。
透子に限らず、大和撫子隊や女性訓練生の大半が、この容姿端麗で戦闘力が突出している荒田に釘付け状態となっている。
そんな中、大和撫子隊に入隊し、しかも運に味方され、競争率がトップである荒田のグループに加わる事となり、透子にとって願ったり叶ったりとなった。
荒田の方も、アイドル級の美しさで努力家な新隊員の透子を傍から見て、独り占めしたいほどの執着ぶりを見せるようになっていた。
公私ともに接する機会が増え、いつしか2人は公認の仲に発展していった。
透子も含め、周囲の誰もが、2人の結婚は秒読み態勢に入ったと思っていた。
ところが、いつの頃からか、透子は荒田と行動を共にする事が増えるほど、劣等感が込み上げて来る事に気付かされた。
仕事面でも当然ながら、私生活面でも、荒田といる時には、自分が惨めな心境になるのを止められずにいた。
荒田の部屋を訪れる事は何度か有ったが、その度に、内心ビクビクしていた。
そんな透子の心の内に気付き、荒田が言及してくるかも知れない事を。
今夜もそんな不安と、何か大事な話が有りそうな様子に期待を抱きながら、荒田の部屋へ向かった。
「遅かったな、透子。すっかり待ちくたびれたよ」
「ごめんなさい、汗を流したくて……」
「ここの浴室を使ってくれても、別に良かったんだけどな」
地球防衛隊の宿舎の個室には、バスルームも完備されていた。
「シャンプーとか自分のじゃないとイヤなの」
「この部屋の浴室は広いし、置いといたら?」
隊長である荒田の個室は、部屋もバスルームも透子のものより広かった。
「その必要が有る時に考えるわ」
やんわりと荒田の言わんとしている事を先延ばしにしようとしていた透子。
「今が、もうその時だって、心づもりでいて欲しい」
「えっ……?」
荒田の言葉を即時に解せず、何度か頭の中で
「つまり、荒田透子にならないかって事だけど」
透子が頭の中で辿り着いた答えとほぼ同時くらいに、プラチナの指輪の入った小さなケースを透子の手の平に乗せ、求婚した荒田。
「私が荒田さんと……?」
訓練生の時から、必死に努力し続けながら、いつの日か、荒田と結婚するのをずっと夢見てきた透子。
荒田透子……大和撫子隊の隊員達と雑談している時などに何度となく、ふざけてその名を語っていたりもしていた。
が、いざ、荒田本人から直接プロポーズの言葉と共に、エンゲージリングを手渡されると、その一大事に、頭と気持ちが追い付けなくなっていた。
「透子が新人で入って来た時から、俺の結婚相手は、透子しかいないって決めていたんだ!」
「私も、荒田さんと結婚するのを訓練生の時からずっと、夢に見続けて来た……」
願いが叶い、つい先刻まで感じていた劣等感もどこかへ消え去った様子で、感激している透子。
「つまり、OKって事だよね?」
「それはモチロン、私には断る理由なんて無いけど……でも、どうして、このタイミングなの?」
舞い上がってはいたが、透子にとっては、それが何より疑問だった。
今までも、何度か求婚されても良さそうな気配の機会は有ったはずだったが、その時はことごとくスルーされ、ドキドキしながら期待して来た透子にとって期待損となっていた。
「それは、つまり……新人も入って来て、透子の関心を奪っているようだから、悪い虫が付かないうちにと思って」
昼間の隊員専用食堂での会話が、荒田からのプロポーズの導火線となっていたと知り、神妙そうな顔になった透子。
「新人なんて、どんなに優秀だとしても、あなたが気にするような存在ではないでしょう?」
「まあ、そうなんだけどね。問題は、もう一人のあの出来損ない訓練生の方さ。透子の中に何か共感するものが有りそうだから」
その言葉が、透子の逆鱗に触れていたのを荒田はまだ気付けずにいた。
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