第12話 お飾りなだけなら......
「私の中に共感するものって……?」
透子は、湧き上がって来る感情を必死に抑えながら、荒田に尋ねた。
「もう、そんな隠さなくてもいいよ、透子。いつも一緒に仕事しているから、俺は分かってる。透子のは、ただ運動神経の良さに救われているだけで、まだsup遺伝子が覚醒してないって事を」
透子の反応を気にしつつも、荒田が常日頃から疑問視していた事を
「荒田さん……」
同じグループで常に同行している荒田に気付かれずにはいられないはずなど無いと、透子も覚悟していた。
が、その事をこの自分の一生が決まるかどうかの求婚時に、荒田から口にして欲しくなかった。
「このまま同じグループで活動している限り、俺がお前をカバーしていく事はいくらでも出来るだろうが、やはり他のメンバーや、後輩達にsup遺伝子が未覚醒と知られるのは、お前にとって屈辱的だろう? それでも、透子が超sup遺伝子所持者である限り、その遺伝子を持つ女性隊員を結婚相手に望む男性隊員からは引く手あまただ。今まで頑張って来た努力は十分認めているが、そろそろ引退を考えても良い頃合いなんじゃないか?」
荒田としては、透子のプライドを傷付けさせないという思いやりの気持ちが少なからず有った。
ところが、その言葉が余計に透子のプライドを逆撫でしていた。
「このまま……能力が目覚めない状態のままで、私は引退すべきと……?」
「幸い、透子は女でその抜群のルックスだし、未覚醒のままでも十分、今までは大和隊候補の訓練生や学生達に、地球防衛隊の広告塔として素晴らしい働きを見せてくれていた。透子に憧れて志しているうちに、能力が開花した奴らも多いだろうよ。そんな偉大な働きかけが出来たのは透子だからだ! ただし、sup遺伝子が覚醒していたならともかく、今のまま外見だけが取り柄という状態だったら、どうだ? 特に女の場合、どんどん新人も現れるし、限界が有るのを透子も感じてはいるだろう? 下り坂になる前の全盛期のうちに引退するのが、一番理想的だと思わないか?」
荒田の求婚は、透子の立場を守ると共に、その人気絶頂である状態の女性を射止めたという自身の偉業を誇りたいが為も有った。
「荒田さんの言わんとしている事は、よ~く理解しました! お気遣い大変ありがとうございます! 荒田さんが、そういうお気持ちなら、前言撤回して、これはお返しします!」
他人行儀な言葉遣いで、一度手の平に収めて見惚れた指輪を指にはめる事もせず、そのままケースを閉じて、荒田の手に戻した透子。
「透子……? どうしたんだ……?」
この時の為に何度も練ってきた自分の提案を拒絶されるとは、夢にも思わなかった荒田。
「私の事をただのお飾りとしてしか見て頂けないのでしたら、私は、もう荒田さんとは、お仕事以外でお会いする事も無いです!」
「おい、待てよ! 透子!」
荒田が引き留めようとする声も聴かず、透子は荒田の部屋のドアを閉め、廊下を走り去った。
荒田にとって、透子の反応が意外だったように、透子にとっても、荒田が自分に抱いていた思いは想定外だった。
sup遺伝子に目覚めていない透子を今迄は荒田なりにケアしてくれていた。
それは、日頃から透子も感じ取れていた。
が、荒田のその行為は、地球防衛隊にとって、透子が大切な広告塔であり、そんな透子のような女性を傍らに置く事で、荒田が自分の虚栄心を満たしているだけだった。
そんな周囲を魅了し続けた透子の魅力も、これから大和撫子隊に新人が入って来る事により、だんだん
透子がそんな惨めな状況になる前に、潮時を荒田が察知して、求婚という行動に出たのだった。
(私は、荒田さんにとって、ただの
自分は仕事上では荒田から信頼をされていると信じ、私生活では愛されていると信じ続けていた透子にとって、荒田の求婚と共に込められた思いには、屈辱を感じずにいられなかった。
荒田を信じ、想い続けていた自分が情けなくて哀れに感じ、手の甲で拭いても拭いても頬を伝う涙と、張り裂けそうな気持ちを抑える事は出来なかった。
運動場へ向かう時に、咲き乱れるバラの美しさと甘い香りに、いつも透子は癒されていたが、今日は透子の気持ちが乗り移ったかのように、どの花も萎れてしまっていた。
その様子に、荒田の宣告の言葉が痛いほど重なって来た。
(花の命は短い……私も、まもなくこのバラの花と同じ運命が待ち受けているの? 今までは、sup遺伝子が覚醒していなくても、周りからチヤホヤされて来た。でも、これからは、あの新人達の中に私に代わる存在がいて、私は御用済みになるって事なの? それを避ける為に、荒田さんが今、このタイミングでプロポーズをしてきた? だとしたら、そのプロポーズを受けると、私はただの負け犬になってしまう! 私は、広告塔としての現場からは離れるとしても、地球防衛隊の現場からは離れたくない! 私は、まだ自分を信じていたいから!!)
自分の可能性を諦めたくない思いで、運動場へ向かい、いつものようにトレーニングをしようとした。
ストイックさなら、自分の右に出る者はいないと自負していた透子。
いつもなら貸し切り状態の広い運動場に、今日は1人先客がいる事に気付いた。
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