いつの時代も。

天の座標

血と憎しみの争い

いつの時代も争いが絶えることはない。

2人が出会ったのがこの時代だから、ということではなく

もし10年前に、いや、100年前に出会ったとしていても、大なり小なり争い事に踊らされていたであろう。


……………


(兵士A)「おい!そっちはどうだ!?」

(兵士B)「準備いいぞ…よし!いまだ!」


迸(ほとばし)る血潮を月の明かりが無残にも美しく照らし出している。

まだほんのりと暖かい、10月の夜、源の提案を策とし、清盛率いる武士たちが夜襲をかけた。


(敵兵士C)「こんな数じゃ無理だ!引き上げろ!」


兵士の数からみても、圧倒的有利であった平軍はたった1日で勝敗をつけた。

敵兵を捕らえ、拘束し、順に跪かせる。まるで今から競りに出される魚の様に。清盛がその前をゆっくりと歩く。


後尾の方へ足を進めると、そこには実の叔父、忠正の姿があった。

清盛は目を落とすと冷淡に言葉を放つ。


清盛「対立してるとはいえ、身内の顔を見るのは感極まりますよ、叔父様。」

忠正「貴様の顔を下から眺めることになろうとは。」

清盛「ふん。我らの上に立っている者達が兄弟で争っているのだから、叔父甥のやり合いはまだ易かろう。」

忠正「我の前から失せろ。両手が塞がっていようともこの口で貴様の喉を食いちぎることはできるぞ。」

清盛「ははは。そう急かさなくともこれを置いたらすぐに立ち去りますぞ。」


(清盛はシクラメンの花をそっと置く)


清盛「甥から最期の餞(はなむけ)、ですよ。はっはっは」

忠正「畜生が。」


シクラメン…

ヨーロッパでは『別れ』を意味する花である。清盛は真っ白なシクラメンを置いていった。その花弁が忠正の血で真っ赤に染まることを暗示しているかのように。


―保元の乱。

ひとつ時代を終えたその後の処理は惨たらしいものであった。100年をもの沈黙を破り死刑制度が復活し、斬首刑が執行された。

清盛の叔父、忠正もその対象の一人で、身内であろうと関係なく、首切りの刑は執行されたのである。


戦後処理も終わり、新たな時代の幕開けだ、と意気込んでいると、

物陰でちょこまかと動いている人物がいる。信西だ。

知略に長け、頭脳明晰で秀才ではあったが、身分がものを言うこの時代で出世ができず右往左往していたところに、保元の乱。そして、後白河天皇の即位が決まった。

信西の妻の藤原朝子が後白河天皇の乳母であり、その立場上、信西も後白河天皇政権下で強い影響力を持つようになったのである。



信西「よき風景ですのう。」

義朝「おぬしが思い描いた風景はどうだ、信西。後白河天皇の即位後、身分の壁で権力など持てなかったおぬしが今じゃこうだ。居心地のよかろう。」

信西「何をいいます。ここにわたくしがいられるのは偏(ひとえ)に源家の皆様のおかげでありますぞ。それは過去も、現在も変わりませぬ。」

義朝「ほぉ。よぅ言うわい。血と憎しみの末路が見え見えよ。あの斬首刑の話を出したのもおぬしの鶴の一声だったそうだが。」

信西「はて、その結果に納得がいかない、そういいたいのでしょうか。義朝様。」

義朝「その結果、ではなく現在のことを言うておる。清盛よりもわしの方が主戦力であったろうに。今じゃ平家の裏の立ち回りとな。おぬしの魂胆が透けすぎて怖いくらいだぞ。」

信西「ほっほっほ。何をそんなにしかめっ面になっておりますか。これから先のことなんてわたくしもまだ何も見えてませんぞ。そう深く考えなさるな。」


信西と義朝がピリつくなか、話に上がっていた当の本人清盛は、というと ―…


清盛「なんとまぁ、清々しいことか。今まで日の目を見ず、武力のみを磨いてきたこのわしが。皇位継承の引き金となるとはな。とても清々しいぞ!世界が澄んで見える!」

頼朝「清々しい、確かにそうですね。清盛様。」

清盛「おいおい、2人きりのときにそんなにかしこまるなと言ったはずだ。」

頼朝「ですが…つい、癖で。」

保元の乱の後、頼朝は清盛にとても可愛がられていた。

幼いころから高い教育を受けて育ち、まさにエリートコースまっしぐらの頼朝には清盛がとても輝いて見えた。武士の家柄からここまで権力を持つことになると、誰が思い描いていただろうか。そんなことを清盛の横顔をじっと眺め、考えを巡らせていると、


清盛「わしはな、権力をもち、生きやすい世界を作りたいんだ。」

頼朝「生きやすい、世界…ですか。」

清盛「そうだ。兄弟同士、肉親同士で戦って何がおもしろい。なぜ、この世界には争い事が溢れておるのだ。武力も必要だし、知識も必要。しかし、それ以前に家柄という不平等に与えられたただの肩書きで成し遂げられないことがある。愛人の子だから継がせない、正妻の子だから優位だ、なんだと。自分のおかした過去の過ちを反省することもなく、いけしゃあしゃあと文句垂れておる。そんな世界で生きていても楽しくなかろう、なぁ頼朝よ。」


頼朝「…はい。しかし、わたくしめには、清盛様のようなお強い考えが無きに等しいですので…。こう…なんといいますか…知識を得ることに必死になっておりますゆえ、人の愛がどうこう…というものは少し苦手でございます」

清盛「わしは頼朝のことを一番に考えておるぞ」

頼朝「えっ!?」

清盛「何をそんなに驚いておる。わしの愛が伝わっておらんかったのかの。」




…次話へ続く




※源平合戦のフィクションと思って読んでいただければ幸いです🙇‍♀️






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