おい、モフりに行こうぜ(口説き文句)
真価 とは。
本当の値打ちのことである。まる。
……いやそういう単純な単語の意味じゃなくて、どういう意図が発言に込められているのかが重要なのよな。
というわけで、詰め所の一室の紅茶会メンバーに悪役令嬢エメリア様が加わった。
いや悪役令嬢って勝手に呼んでるのは私だけなんだけども。でもマジで見事な金髪ドリルロールなんだもの。あとなんか言動もそれっぽいのだもの。私の中ではむしろ敬称よ、悪役令嬢。本物とエンカウントできてる!? って感動してる。
これはいわば、推しのアイドルと会ったヲタクの心境よ。まあ私もっぱら純二次元担当だったんで、現代日本でマジヲタだった頃は推しとエンカウントする機会なんてついぞなかったよね。強いて言うなら原画展での邂逅……なんか悲しくなってきたからこの辺でやめよう! 陰の者トークは用法用量を守ってしようね。
何にせよ、ヘイトを集めているのが私自身でなければ、マジで問題はないのだ。
で、前は「泥棒猫」だったけど、今回は「訪問者」に格上げ(?)されている。
これはたぶん好機ぞ。なんで心境に変化あったかは、私特に何かした記憶がないからちょっと謎なんだけども。
その辺も語ってくれないかな……バンデスさんの紅茶で。全力の他力本願だけど、私本人がなんかするより第三者が介入した方がマイナスの刺激を与えないかなって意味で、たぶん有効手だと思うのよな。
おお……それにしてもお紅茶を飲む姿、堂に入っていらっしゃる。凜々しいなあ。美しいなあ。その状態が保てていれば、団長さんの態度ももうちょっと軟化……するかは保証できないね。あの人竜がらみ以外の突破口、今のところ全然わかんねえからな!
「お嬢様……」
さて、私は余計な着火をしないように黙っており、他の竜騎士二人はアイコンタクトで「お前がなんとかしろよ」「ええ……?」みたいにモジモジしあっており、エメリア嬢は無言で紅茶をすすっており――。
というこの気まずい状況を小声で打破せんと試みたのは、エメリア嬢お付きの女騎士さんだった。
あの方はなんか、常識人かつ苦労人っぽい感じしてたんですよね! 今もアシストありがたや。
あとなんで部屋が狭くなったように思ったのかわかったわ。そりゃ四人席の環境に五人いるんだもんね、狭くもなるわ。
ちなみに立っているのは女騎士さんである。なんか……すみませんね、そういうポジションに押しのけてしまって……。
さて、お付きの方に促されたエメリア嬢はコホンと咳払いし、私をキッとにらみつけてくる。
「その……わ、
「はい」
「…………うう」
「ファイトです、お嬢様。素直な子はよい子です」
顔を真っ赤にして口ごもるエメリア嬢に、なおも後ろからアシストの囁き声。
そういえば、私がエメリア嬢にいまいちそんな強い印象持たなかったの、この女騎士さんの存在があったからかもなー。
なんてことを思いつつ、お嬢様の一言を待つ。
「妾、断じてあなたのことを認めたわけではありませんのよ!」
悪役令嬢の第一投! ピッチャー投げた! バッターは……え、これどういう球種? なんかやっぱり確実に前より歩み寄ってきてくれてそうな気はするんだけど、気持ちよく言葉のキャッチボールを打ち返すには我々の距離感まだ縮められてないような気がするんだよな!
「……ん? あ、はい」
「お嬢様っ」
「だってだって……確かに、あの恐ろしい竜達に触れられたり、おごることなく騎士の皆さんとお仕事していたりとは、見聞きしていますけれども!」
迷った結果曖昧なリアクションになる私、なんか言いたそうな女騎士様、そしてエメリア嬢再び。
ああ……そういえば彼女、グリンダ嬢の乱入見た時、泡吹いて倒れちゃったんだっけ。しかし……。
「恐ろしい竜達……?」
「恐くて当然でしょう!? あんなに大きくて牙と爪が鋭い野獣ですのに!」
「いやあ……まあそりゃ、質量の差を思い出す時とか、背中に上った後空中を感じる時とか、『フッ私死んだな』って虚無に至る瞬間はありましたが……そういうのって大体は一瞬なので、基本的にはモフモフがメインというか……」
「モフ……モフ……?」
「え……モフモフしてますよね、竜って……?」
「訪問者様。僭越ながらお嬢様の名誉のために申し上げさせていただきますが、竜を撫でることのできる可愛い物として見られるのは、大分特殊な方の人です……この世界の人間の竜に対する標準印象は、恐るべき異形の物なのです……」
囁ける女騎士。
へー。普段竜好きな騎士の皆さん(特に団長)としか接しないから、人間は皆竜をモフモフしたい業を背負いし類人猿だと思ってたけど、これって実は大分特殊性癖だったのかあ。だから竜騎士の皆さん、「女騎士がいない」とか「嫁ができない」とか嘆いてたんだね!
それで私に対する評価が変わったのか、なるほど……。
でもなんかやっぱりこれって、イメージ改善まではなってないね!? 泥棒猫呼ばわりできるような相手から、やべー生き物に嬉々として触れに行くやべー相手に変わっただけっぽいよね!?
も、もうちょっとこう……なんとかならないでしょうか。
「えっと……エメリア様……その、竜は基本的に可愛いですよ……?」
「可愛い!?」
「それともエメリア様は、過去竜に襲われたことがあるのですか?」
「ありませんわ! だって怖くて近づけないのだもの!」
「んー……まあ無理強いはできませんけど……必要以上に怖がる必要はないというか……」
「わかりましたわっ。では、わたくしに
なんかわからねえが、とりあえずこの悪役令嬢をモフみに開眼させれば、この場の全員幸せになるってことだな!
よっしゃ任せろい!
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