ゴッド☆ハンド☆ジャスティス

 さて、我々は今、再び竜舎に戻ってきています。

 ……これなんかどっかで聞いたことあるフレーズだなって思ったけどあれか、リポーター定型句か。でもなんか今回は豪華ゲスト兼ギャラリーいるし、本当カメラとマイク向けられて実演してくださーいって言われてる気分よな。


 エメリア嬢の視線が熱いぜ。でもなんか随分距離が遠いぜ。


「そんな所にいて大丈夫ですかー? 私が何してるか見えなくないですかー?」

「だいじょーぶ! こっちは問題ねーから、手が必要な時は呼んでくれー!」


 このように、口に手を当てて声張り上げる距離感なのである。そして返してくれたのはバンデス氏である。

 エメリア嬢は女騎士さんの後ろに隠れようにしており、その女騎士さんはバンデス氏にくっついている。そんなに怖いかね、竜って……? いや私が異世界人だから、のほほんとしすぎているだけなのか。


「間近にいられても問題を起こしそうですから、彼らはいったんバンデスさんに任せましょう。さあ、再開です」


 というわけで、私の隣にはショウくんがアシスタントとして付き添ってくれるようだ。私は頷き、頬を叩いてからいつも通りにする。


「はーい、お待たせしました。次の方どうぞー」

「きゅっ」


 お、元気なお返事ですね、いいぞぉ。次のお客さんがのしのし歩いてきてリラックスモードになったのを確認してから、レッツ触診です!


 まずは軽く全身チェック。頭の先からしっぽの方まで、すすすーっと手を流して参りまして……こうすることで、全体像を把握し、どの部分を集中的に撫で回すべきかプランを練るのですな。


 ふむ、この方は……どうやら一番気にしてるのは、喉かな。やらかい場所だから優しくなでなでしましょう。


「へい、風邪ですかい、大将?」

「うきゅ」

「そうですか、竜もなかなか大変ですねえ。すっきりなーれ……」

「きゅん……」


 近頃はこのように話しかけがマイブームだ。

 彼らがこちらの言葉を理解していることは確かなのだが、相変わらずリアルタイム返答は適切な翻訳者がいないとわからない仕様であるため、会話が成立しているのかは謎だ。でも皆お返事してくれる子が多いから、可愛いんだよなあ……。


 よしよし、早速目がとろんとしてきたぞ。これなら順調、順調。


 仕事ってさ、午前の部、午後の部一、午後の部二みたいな感じで分割できますよね。九時十二時、十三時十五時、であと定時終わりの十七時まで、的な。今は午後の部二のお時間帯ですね。まったりのんびり、心穏やかに過ごせる時間……。


 まあ現代日本で働いてた頃は、金曜のこの時間に限ってASAP案件が舞い込んでくるとか、あるあるネタだったけどね。

 二十四時間働けますか!? 業務内容と報酬と補填がどうなるかによりますかねえ……。


 ゆるふわっとした元社畜トークはさておく。

 現代日本の頃は稼ぐために仕方なく社会人をやるのじゃ状態だったのですが、異世界来てから仕事のやりがいって物を知りましたよね。というか、仕事上にいついて帰りたくないって人の気持ちが今初めて理解できている。


 だって竜、本当にいつまでも見てられるし触ってられるもん……私の肉体に限界が来なければ。


 異世界補正をかけてもらって健康体になっている今でも、人体の限界からは外れられないのだ。睡眠時間を削れば撫で力も減るし、数をこなせば疲労は覚える。

 すまない、竜達……代わりに時間内に質を上げて満足度を向上させる方向に進化を試みているから……。


 さて雑念を思い浮かべつつも手は動かし続けている。喉を中心に、お胸周りもふっかふかにして、最後はこりやすい翼から背中周りで、この方はフィニッシュ!


「……はい、あっという間でしたが、お時間終了です。喉の調子よくなりました?」

「きゅん!」


 大体の竜は撫で回している間に寝落ちするので、終わったら起きてーの意を込めて軽くぽんぽんと叩く。

 うん、機嫌よさそうなお返事が戻ってきたし、オッケーそうだ! 次はどこをモフらせてくれるかな。翼かな、背中かな――。


 ……と、竜のもふみに集中していたため、今回は別件もある事を完全に忘れていた私。日が傾いてきて、ラスト一匹を気持ちよく送り返した後でふと顔を上げ、「そうだわ私今回なんか審査されてた感じのあれだったんだわ」と思い出す。


 エメリア嬢はなんというか……私のことを不思議な目で見ていた。少なくとも侮蔑の目ではないけど、親しみこもってる感じでもないね! なんか竜に向けてた目と似てる種類の視線だね!


「信じられませんわ……触れるどころか、竜をあのように手玉に取るなんて……これが竜使みつかいの力ですの……?」

「いや手玉に取るて。単に寝かせてるだけです」

「何が違いますの!?」

「んー。あの子達がこっちの言うこと聞いてくれるのは、その方が自分たちが気持ちよくなれるからって理解しているからであって。私が彼らを支配してるってのは、全然違いますよ」


 困惑のご様子のエメリア嬢、ついでに女騎士さんもなんかいまいち響いてなさそうな顔。一方、うんうんとめっちゃ頷いてくれている、バンデス氏とショウくん。


 むむむ……この間にある溝っぽいの、なんとかしたいなあ。エメリア嬢は竜を畏怖していて、私のことも今たぶん同じカテゴライズに分類してるっぽい。ちょっと違うんだよなー、そういうんじゃなくて……。


 私がぐぬぬとうなりつつ、どうやって離せばいいかなと頭を悩ませていると――この気配は、聞き覚えのあるもの! もはや羽音だけで誰なのかわかるようになってきた仲のあのお方!


「グリンダさ――」


 アポなし突撃に定評のあるお嬢さんが、また気分屋を発揮したという私の予想は合っていた。グリンダ嬢は来たいと思った時に来る。今のところ真夜中突撃はまだ未経験だが、閉店後に「大将、まだやってるよなあ!?」って閉店後の店のドアガラッとするぐらいは全然ありえることだ。


 ただ、今回の彼女の登場で、一つだけ予想外だったことがある。


「だ……団長ー!?」

「なんでそんなことに!?」


 私の代わりに絶叫してくれてありがとうございます、竜騎士各位。

 いや普段は颯爽と背中に乗ってるのに、口からぶら下げられての登場て。何がどうしてそうなった!?

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