悪役令嬢が再び現れた!

「エメリアはその……自分が神様の言葉を聞けるようになったと言っているんです」

「つまり聖女様って奴ですね!?」

「お、おう。話が早いな、サヤ……」


 やったぜ! 私のときめく予感は当たった! お約束万歳。

 思わずガッツポーズする私。ひっそり引く竜騎士二名。

 よせやい、引くなよぉ。寂しいから自分で紅茶足そ。いや本当おいしいわ、筋肉茶。筋肉茶って言うと微妙だな? よしこの表現は封印指定だ。


 でも一息ついて考えたのだが、これって私の知ってるお約束通りに進むとなると、転移者が世界の存亡をかけて悪役令嬢と張り合わないといけないのかい? 追放されましたが、真の聖女は私です! ってアレかい?

 そいつぁちょっと、すっかり異世界イージーモードに慣れきった私には穏やかじゃない話だなあ!


「私、竜の声もまともに受信できない人間ですので、真の聖女の座はお譲りしますよ? あと追放するなら、自分マジ異世界最弱の自信あるので、せめて最低保証はお願いできませんか!? というか竜からは離れないお慈悲を!」

「お、おう。追放はないと思うし、竜使みつかいを竜から遠ざけるとか、罰当たりにも程があるから心配しなくていいぞ。つかそんなことしたら、たぶん竜騎士おれらが血を見るわ。ローリントに潰されるわ」

「真の聖女……? えっと、サヤさんの世界の常識ではどうなってるかわかりませんが。この世界だと、神様のお告げを聞く人のことを、聖人あるいは聖女と呼ぶんです。なので、聖人様、聖女様が複数名いることもありますよ」


 オーケー、ボーイズ。クールになるわ。

 聖女って響きから思い浮かべる大体のイメージは合っていたけど、そんな権力闘争ドロドロみたいなことはとりあえずしないでいいと思ってよろしいか。


 ……でもなあ。なんか、私を妙に敵視してるエメリア嬢だからなあ。

 それで二人もなんか、説明しづれーわって顔してるのかな。


「ところでそのお告げって、未来予知みたいなものです? 洪水が起こるから避難しなさいとか、干ばつが来るからちゃんと備えておきなさいとか。前に言っていた天文協会は、聖人聖女様の集まりなんですか?」

「うーんと、未来の危機回避をメッセージとして受け取る人もいるそうですが、個人差があるらしくて。あと、天文協会の人は一般人です。彼らは空の様子を見て、計算で予知をするらしいので」


 へー。あれかな、コンピューターで計算するようなことを多人数でやるのが天文協会、オカルティックにビビッと受信するのが聖人聖女様みたいな。結果は同じでも、過程が違うのね。


「エメリア嬢ちゃんの場合はなあ。『竜と騎士達を手玉に取る悪女がやって参りますのよ!』ってなあ、本人が――」

「バンデスさん、無神経ですよ!」

「あ。すまんついそのまま言っちまったわ、気にすんな」


 ははは、言っちまったもんはもう引っ込められないししゃーないね!


 まあうん。なるほど。それは……まあそりゃ私に向ける視線が微妙なもんになるのも致し方ないよね! 聖女様に悪女呼ばわりされてるのかあ、そっかあ……。


「えっと……私、基本的には全力でこの異世界に貢献したい所存なのですが、もしかして存在するだけでよろしくなかったりします……?」

「うんにゃ? 訪問者は世界の歪みを正しに来てくれる客人、むしろ存在するだけでいい影響がある。まあいるだけで周りに影響与えるって意味なら、そういうのはあるのかもしれねーけどよ」

「あのですね、サヤさん……これはその、僕の推測になるのですが。おそらくエメリアの本当の使命は、サヤさんのフォローをすることだと思うんです」

「え? でも彼女、私がよろしくないお告げとやらを聞いたせいで、この時期この場所に突撃してきたってことなんですよね」


 だって今のところ、私から彼女への印象はともかく、彼女から私への印象ってたぶん最悪のままだろう。それってお告げとやらのせいなんじゃないの? だとしたら、私に対する悪いお告げが出たんだろうなって考えるのが自然な気がするが、違うのかな。


 もじもじするショウくん。茶をつぎ足すバンデス氏。

 うむ、ええよ。話の途中でも遠慮せず飲むがいいぞ。考えがまとまるかもしれないしね。私も飲むわ。というかお茶菓子をいただくわ。おいしいんだわこれがまた、サクサクとあまじょっぱいクッキーよ……。


「その、サヤさんに対するエメリアの印象って、たぶん団長のことがあるせいで大分偏見が入っていて……おそらく彼女が受けている本来のお告げは、『久々の訪問者に会いに行って助けろ』だと思うんです」

「つーか実際、団長が根気よく聞き出してみたらよ。お告げではサヤを排除しろとは、神様全く言ってないらしいんだわ。排除したいのは本人の私情なんだよなあ」


 あ……あー、そういうことか!


 団長さん、全然顔見かけない間はエメリア嬢の相手してたりするんだろうなーってのはわかってた。正直面白くなかったよね!


 でも、エメリア嬢が聖女を名乗り、しかも私が竜や騎士に害をなすと主張するならば、真偽を確かめないわけにはいかないもんね。


 それにエメリア嬢は、実際私がやってきたのとほとんど変わらない時期に辺境領に乗り込んできた。実は天文協会からの情報を得ましたとかじゃなく、その神様のお告げとやらで動いた結果の迅速な到着なのだろう。


 まあつまり、エメリア嬢を偽聖女と一蹴することもできないが、かといってじゃあ私がエメリア嬢の言うような人物にも見えず。ではエメリア嬢の予知内容が何かしら認識齟齬が出ていると踏んで、地道な聞き込み調査を……。


 はー。それでかあ。別に若い女の子と楽しんでたわけじゃないんだね。いやまあ、元から全然楽しんでる風情ではなかったけども。


 私、ないがしろにされてたわけじゃなくて、慎重に扱われてたんだなあ。そっかあ。


 い、いやでもまあたぶん、あの人は竜に対する影響をすべてに優先させただけなのでしょうけどね!

 でもなんか、ちょっとだけ気分が軽くなったぞ。うふふ。なんでやねん。自分でもわからん、これだから人間の感情というのは度しがたい――。


「ここに! いるのでしょう、訪問者!」


 そのとき、バアーン! と勢いよく開く扉の音。及び超聞き覚えのある声。

 我々が振り返れば、果たしてそこに! 見事な金髪ドリルが!

 そういえばあれ天然ものなのかな、セットしてるんならどうやってるんだろ。魔法使ってるのかな。思わず私も自分の髪いじってくるくるしたくなっちゃう。


「見つけましたわっ! 今日こそ貴女の――」


 ビシッと私に突きつけられる指。

 うむ。私から彼女への敵対心は、ショウくん(とついでにバンデス氏)からの説明でなおさらなくなっているのだが、これは本当にどうしたもんか――。


「――貴女の真価を見極めてやりますのよ!」


 んっ。

 これはもしや……ファーストミーティングの時から、流れが変わったのか……?

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