悪役令嬢の知られざる正体に迫らんとす(※話聞いてるだけ)
「えっ……エメリア嬢って、ショウくんの親戚さんなんですか!?」
「はい。なんでも祖父母の代には姉弟だったらしく」
「はとこかまたいとこって奴だな」
問題を解決するには、まず現状を正確に把握することから!
というわけで、わたしはまず改めてショウ君から、悪役令嬢――もといエメリア嬢についてのあれこれを聞き出している。
まずはさっくりと、まさかの血縁関係情報を得たり。
「さすが貴族世界……大体皆親戚関係って本当だったんだなあ」
「……あれ? ぼく、サヤさんに家名名乗ったことありましたっけ……?」
「え? いや、たぶん正式なフルネームは未だに知らないですね。でも、明らかに良家のご子息の所作ですし」
「
「どういう意味ですか!?」
そういえば、竜騎士の皆さんって最初めちゃくちゃ簡素な名乗りしかしないから、後々で「実は団長兼王子兼辺境伯だよ」とか発覚したりしがちなんだよね。主に今例に挙げた人のせいでできてる気風だと思う。
まあ本人的には「ドラゴンをモフモフする仲間に身分の情報とかいるの?」的な感じなんだろうけど……察しはできても察した以上のVIPだったりするのが恐ろしいところなんだよなあ。
ここで私はふとあることに気がついた。この場のあと一人にふと視線を向けてみる。
バンデスさんは色黒の筋肉男だ。彼もまたマッチョ系イケメンおじさんである。というか竜騎士の皆さんは、俳優さん達の集まりかなってぐらい総じて顔がいい。
目と目が合う瞬間。別に恋は始まらないけどちょっと緊張は走った。
「……バンデスさんも、実はやんごとなき隠し球をお持ちな方だったりします?」
「うんにゃ。俺ァフッツーに、なんの血統書もついてない田舎村出身者だから安心しろ」
「ですよね、よかったです!」
「おう! ……ん? ま、いっか!」
気持ちのいい返事をしてくれた後、「あれ? 今のってちょっぴり貶す方の意味合い入ってないか?」と一瞬思ったけど、やっぱり気にしないことにしたらしい。ネチネチしてない人っていいよね!
あと個人的には、ストレート庶民の存在はありがたや。いや団長さんやショウくんが悪いとは言わないよ!? ただちょっと、彼らといる時は背伸びしたくなる感じ、バンデスさんは等身大が許される感じというか……そんな感じです、はい。
さて、じゃれ合いを挟みつつ、本題は悪役令嬢イズ何者という件である。再びスピーカーはショウくんへ。
「ええと……そもそも今、ぼくたちがいる場所は、エルステリア王国北東の辺境領です。エルステリア王国は、大陸で最も北に存在する国の一つ。エメリアの国は、エルステリア王国から見ると西に位置します」
「……ってことは彼女、この辺境領に来るために、王国を横断した、と?」
「あの厄介な嬢ちゃんをみっけたのはチューリアルの森、辺境領じゃ南の方にある。森は辺境領と隣の領を隔てる役割も兼ねてるんだ。普通はちゃんと整備された街道を通るんだが、たまーにショートカット移動しようとする奴が森に入って思った以上に強い魔物にパニクって、で結果俺らが出動することになるんだな」
そういえば、エメリア嬢が来るちょっと前、森で遭難者が出たとかなんだとかでバンデスさん達がお出かけしてたような。あの後からちょっと団長さんの姿を見かけなくなったり、竜騎士の皆さんが全体的にげっそりしだしたりして……なるほどなあ、色々事情がわかってきたぞぉ。なんか勉強の復習してるみたいでちょっと楽しい。
「エメリア様は、どうして森に入ったんです? やっぱり辺境領を目指していらっしゃったんですか? 団長さんに会いに?」
「そ、そうですね……」
途端に目を泳がせるショウくん。なんか……全く知らない人のあれこれは所詮他人事ですけど、身内のやらかしっていたたまれないですよね。そんな感じなのかな。
「んーと。エメリア様って、たぶん団長さんが初恋の人なんですよね? わざわざ会いに来るなんて情熱的だなあ。でもちょっと間が悪いというか、逆にいいって言うべきなのか……どうしてこのタイミングだったんでしょうね?」
いったん自分の中での認識を整理して言語化してみると、ついでにずっともやーっとなんとなく心にあったものが言葉にできてすっきりした。
そうそう、タイミング。それが気になってたのよ。
私が辺境領に落ちてきたのと、エメリア嬢辺境領の森に入ったのってほとんど同時期だ。
どうも団長や竜騎士の皆さんの反応見てるに、それって大分珍しいことみたい。少なくとも、前にも経験あるので対処可能ですって雰囲気では全然なかったよね。
久しぶりに異世界からやってきた私の情報は、結構な重要事項ゆえ取り扱い慎重案件。なのに、これまた別ベクトルで取り扱い注意なエメリア嬢がバッティングしたって……。
これが例えば意味のあることなんだとしたら、結構不穏な話じゃない?
彼女のファーストミーティングの印象は、なんかこう良くも悪くも素直なお嬢さんなのかなって感じだったけど。でも腹芸は貴族の得意分野だし、彼女自身はただ団長さんに会いたかっただけだけど、別の思惑のある誰かに仕組まれた、とか……。
「あー。えーっと。そのぉ……」
「んー。あのな、サヤ。あー……」
なんか露骨に竜騎士二人が冷や汗をかいてそうな顔になったぞ。
そう、彼らのこの態度もまた、私に不穏を感じさせる要素の一つである。
「私相手だと開示できない情報ってことなら、察して聞かなかったことにしますんで」
「えっと、そうではなく……なんていうか……」
「よし、ショウ。俺が言うぞ」
咳払いするバンデス氏。なんかちょっと物々しくて怖いぞ。いったいあの悪役令嬢は何を隠し持っていると言うのだね。
「実はな、あのエメリアの嬢ちゃんは……」
「はい」
「……お告げを聞いたらしいんだ」
「はい。……はい?」
デジャビュー。おい私さっきもこのアクションした覚えあるぞ。
そしてさっきは宇宙が見えたが、今度は一瞬の宇宙の後、なんか猛烈にテンションが爆上がりしそうだぞ。
だってこれ……現代日本で見た奴!
もしかしてあの悪役令嬢殿、聖女属性持ちの人なのかい? 髪の毛金色ドリルだったのに!?
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