巨もふ様はとんでもない爆弾を残していきました(白目)
所変わって城内、応接室。
私は一度、竜舎から自室に戻って身支度を整えてきた。ついでにかるーく、朝ご飯をつまませてもらった。
ちょっと落ち着きたかったのと、一回引っ込んでから出ていったら、団長はじめとする竜騎士の皆さんの物々しい雰囲気が消えるかなと期待したのだ。ほら、パソコン再起動する要領でさ。困ったらとりあえず電源オフして見なかったことにしてから立ち上げたら、大体の問題は解決するじゃない?
結果ですか? 全然そんなことはなかったね。これ電子機器じゃなくて、人間関係だしね。
くっそう、マイアさんはそんなに態度変わらなかったから、竜騎士の皆さんもいつも通りになるかなと思ったのに。でも考えてみれば、あのハイスペックメイドさんは、元々距離感わきまえてます系丁寧対応がデフォだった。ぶれない女性って素敵ですよね。白目。
一方でさ、私が引っ込んでる間に、応接室に私用の上座が用意されていたの、マジでどういうことなの。
こわあ……案内された椅子が普通の奴じゃなくて、玉座っぽい奴になってる、こわあ……。白砂に引っ立てられてお叱りを受けた方が、まだ気分的に楽な気がするんだけど。
私の人生史上、最高に身の置き所がない。胃が痛い。怒られたり下手に扱われる方がまだ気持ちが楽な気がしてきたよ。なんだこの……何、この上級者待遇、やっぱり私この後なんかの儀式でハートキャッチ物理とかが待ってるんじゃないのかな……。
「えっと……アーロン団長? その、何が何やら……みつかいさま とは……?」
「確かに、今代の
ようやく一言発せそうというタイミングを見計らい、めっちゃかしこまってる団長相手に、恐る恐る声をかけてみる。
さて、団長曰く――。
ドラゴン社会はシンプルに年功序列制である。
そんなに厳格なヒエラルキーが存在するわけではないが、異なる性質を持つ個が群れをなす知的社会性生物である以上、頭ポジションが必要になってくることもあるわけだ。
まあ普段は別にそんな上下とかないが、何か事が起こった場合には、大体その場の一番年を取ってる竜が、とりまとめ役なり決定権を持つ御仁なりに割り振られる。
なんで年寄りが偉いのか。理由はシンプル。
長生きすればするほど、竜の体は大きく育ち、体内の保有魔力も増していく。当然経験だって豊富である。
ざっくり言えば、老竜は総じてでかくて強いのだ。彼らの社会では、年の降順は実力順とほぼほぼ同義になる。
ちなみに竜って、寿命直前まではピンピンしてるらしい。衰えが見えだしたら死期の合図って、なんだか仏教界の天人みたいですよね。地球に本当に天人って種族が存在しているのか、知らんけども。
ともあれ、二十過ぎれば老いという劣化との戦いとなる我々短命種と違い、竜の皆さんは老いれば老いるほど強化されるってことなんだな。
あともう一つ、竜の老いによる変化傾向に関する余談。
彼ら、若い時にはカッカしやすい性格してても、おじいちゃんおばあちゃんになると総じて丸くなるらしい。
……というより、凶暴な性格が治らない個体は、手に負えなくなる前に淘汰対象となる運命なのだそうだ。同種にとっても異種にとっても脅威となるから。
老竜とは、普段は温厚でのほほんとして傍観者に徹しているが、ひとたび世界の危機に瀕すれば立ち上がり、調停者となって導く――そういう存在らしい。
ここまで来たところで、諸君は「あれ?」と思ったかもしれない。
私も思った。だから神妙な顔で解説してくれている団長アーロン氏に、そっと手を上げて口を挟ませてもらった。
「あの……ということは、私が好き勝手なで回し――いえ、精一杯ご奉仕させていただいたお方は、」
「かの竜神様は御年数千年、最古の竜であらせられる。普段は竜の谷で、昼夜問わずのんびりとうたた寝をしていると聞く。人里に降りてくることは滅多になく、まして加護を授けていくなどと……」
りゅーじんさま。さいこのりゅー。
この辺の時点で「老いれば老いるほど偉い」ルールを聞かされた直後ゆえパンチがでかいのだが、もう一つ聞き逃せなかった単語がある。
「あの、加護って……?」
「前にも軽くご説明したが、竜には真名が存在する。我々竜騎士は、彼らの背に乗り、呼び名をつけることを許されている。呼び名で呼ぼうと、拘束力が発生するわけではない。――だが、真名は違う。真名には拘束力がある。呼べば必ず対象ははせ参じ、その力を行使する。竜から真名を教えられること、それすなわち竜の加護を得ること」
あーはいはい、なんとなーくおぼろげに心当たりがあるあれかー。
つまり、ざっくりまとめると? 超高位竜の召喚呪文唱えられるのが私的なね。ただ竜とお友達関係な竜騎士と違って、竜を一方的に呼び出し可能? な権限があるから、
アホかー! 一応、頭でなんとなく理解はしてるけど、話が壮大すぎてついていけてないわー! 表情がただの真顔から動いてないのは、どう考えても私の手に負えない案件を意図せず握ってしまっているらしい、この状況が完全に許容外だからだよ!
「えっと……つかぬことをお伺いしますが」
「何だろうか」
「団長さんは……グリンダちゃんの真名は……」
「知らないな。グリンダはグリンダの都合で私に付き合ってくれているだけに過ぎない」
「その……
「そうだな。竜騎士は知識を蓄え、訓練を重ねれば目指すことの出来る存在だが、少なくとも
「なるほど……」
私、そして沈黙。
どうすんだこれ? どうにもならなくないか、これ!?
あのめちゃくちゃ親切だけど浮世離れした御仁に、「私、知らないうちにあなたの加護授かったらしいんですけど、あなたの上で不敬にまみれながらなで回してただけですし、ちょっとしたお礼返しにしては釣り合ってなさすぎじゃないですかね!?」って問い詰めたくても、この場にもういないし!
何なら今、「普段は竜の谷に」って言ったってことは、あの人滅多に出てこないどころか、もう会えない可能性まであるし!
なぜ……皆様がドン引きの目をなさっていたのか、改めて身に染みました……。私も私に引いているよ。なんということをしてくれたのだ。
ど、どうするサヤ。考えろサヤ。団長さんの目も、控えていらっしゃる竜騎士の皆さんの目も、めちゃくちゃ辛い。どうすればいい、この場を切り抜けるには――。
「あの、僭越ながら、団長さん」
「はい」
「
「……換えのきかないお方ですので」
「…………。
「……………………。最大限、努力はいたしましょう」
今、「ん? 何でもするって言ったよね?」トラップを回避しようとしたけど、でも諸々考えるにノーとも言えねえ、みたいな葛藤の時間があったな。
「そうですか。その……実は、お願いしたいことがあるのですが」
私の言葉に団長さんも身を固くしたし、竜騎士の皆さんも顔をこわばらせたのがわかる。
久方ぶりの異世界訪問者、プラス、最古竜の竜神様の加護持ち。まあなんていうか、たぶん私、やりたい放題やろうと思えばできるんだろうな。虎ならぬ竜の威を借ることによって。
しかし、ちょっと心が痛いのですが、これだけは……この謎の
「――この物々しい特別扱いをやめて、元の訪問者兼竜騎士見習い扱いに戻していただくことって、できないんですかね?」
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