サプライズ・モーニング・もふもふ(ペロペロつき)
さて、さっきまでは緊迫していた空気だったゆえ、(おそらく)希少な赤さんもふもふをじっくり観察する時間はなかった。
改めて観察してみると、体の色は白だろうか。真っ白い……まるで雪のようだ。
ここでちょっとまた余談を挟むと、この世界のもふもふ竜は、全体的には白色基調の体毛をお持ちなようだ。
しかし、この白色はただの白色じゃなくて、光の当たり方とか角度によって別の色に見えたりする。
ほら、宝石のダイヤモンドってさ、透明のイメージが強いけど、磨かれてカットされたら虹色に輝いて見えたりするじゃない? イメージとしてはあんな感じに近いかもしれない。
で、その光り輝き方が竜によってちょっと違う。
例えば絶賛赤さんペロペロ中のグリンダ嬢を例に出すと、地上近くから見ると真っ白に見えるが、飛んでいる時はもっとこう……ピンクとかオレンジとか果ては金色とか、とにかく暖色系にきらきら輝いて見えるのですな。
他に、バンデス氏担当竜のローリントくんちゃんの場合、基本は白だけど、色変わりは深みのある鮮やかな青色から、ちょっと緑がかった翡翠っぽい感じまで――要は寒色系の輝きを放つ。
だから最初に竜達が空を飛んでくるところが見た時は、色とりどりに見えたわけだね。
ちなみにもふっていると、当然体毛がとれたり時に羽が散ったりするのだけど、やっぱりそれらも白色基調で各個体によって違うグラデーションの輝きを放つ感じ。
私は何しろお触りメインなので、どうしても彼らの触覚的な素晴らしさにフォーカス向きがちだったが、この色の美しさも本当に何にも例えがたい。
さっきダイヤモンドのこと話題に出したけど、マジで宝石より綺麗だと思う。
よくファンタジーワールドだと竜の鱗とかって素材としてありがたがられたりする気がするけど、彼らの毛もなんかそんな扱いだったりしないのかな。このふわふわできらきらのもふもふ集めて毛玉ボール作ったら、すごい楽しそうな上にありがたみがパねえと思うんだけど……。
閑話休題。
グリンダ嬢がお城に連れてきた赤さんもふもふは、けれどまだちっちゃいのか、大人達のように角度によって色が変わるような体毛ではない。純粋に真っ白い。そしてお目々はくりんと黒い。可愛いねえ、マシュマロかわたがしみたいだねえ、ハアハア……はっ、いかんまた邪念が。
私はさっと口元をぬぐうが、そこでなんだか慌ただしい背後の状況に気がつく。
「お、お嬢様……お気を確かに!」
「う、ううーん……」
およ。野生の悪役令嬢ことエメリア嬢が、泡を吹いて倒れている。ご令嬢らしいといえばらしいが、どうしたんだろう、大変だ。
「大丈夫ですか、エメ……じゃなくて、ヘンフリー伯爵令嬢」
「あー、サヤちゃん、大丈夫だあ。それも割といつものことだから」
「また卒倒ですか……いやまあ、今回のは確かに、運が悪かったのかな……」
む、周りの竜騎士の皆さんはなんだか慣れた光景というご様子。
倒れている彼女の横に団長さんが膝をつき、ため息を吐く。
「驚いて気を失っただけだとは思うが……連れて行こう」
「いえ、殿下! 殿下のお手を煩わせるわけには参りません! 竜様がいらっしゃっていますし、そちら優先でしょう!」
お嬢様より大分話が通じそうな従者の女騎士さんは、団長さんを制して自分が彼女を抱きかかえる。おお……姫騎士の横抱き(しかも抱きかかえる方)……なんかまた偉いものを見させてもらってしまっていた。
あとめっちゃグッジョブ。お仕事だし仕方ないとはいえ、あのご令嬢を優しく抱っこする団長、あんま見たくないしな。
……んんー、サヤくん、きみは一体何を考えているのかなあ!? はい今の奴取り消しー! 私何も考えてないから! 何も悶々となんかしてませんから!!
「せっかく
「竜の威圧感にやられちゃうんですよね。逆に軽率に歩み寄って怒らせることもありますから、それよりは怯えて倒れちゃう方が被害少ないですけど」
「香水つけてると竜がいつもと違うことしたりもするし、アクセサリーはきらきらしてるからいたずらされたりもするし、その辺全部クリアしてくれても、今度は親御さんが常に事故の危険がある所に愛娘置きたくないって、殴り込みかけてきて泣くし……」
「本人の体調より竜優先ですからね……竜騎士の妻も女性竜騎士も、乗り越えなければならない物が多すぎます……」
なんかまたため息の音が聞こえてくる。
竜騎士の婚活事情も大変そうだ。
あと確かに、いくらあちらにとっての緊急事態でも、窓ガラス割って飛び込んでくる可能性のある巨大生物の世話するのって……大変だよなあ。むしろなんで私ここまでのほほんと軽率に歩み寄れるんだ? って気もしてきた。
……KAWAIIとMOFUMOFUは正義だからかな。もふみのためなら多少の怪我は名誉の勲章。でも怪我するのもさせるのも辛いだろうから、やっぱり相手はいざとなればこっちの首を刈れるのだってことは、ちゃんと心の隅に置いておかないとね。
さて、エメリア嬢は抱えられていった。なんか自然な流れで彼女も手当した方がいいのか? とか動きかけた私だったが、王城にはちゃんと人間のお医者さんだっているわけだし、お任せした方がいいよね。
というか……唐突な悪役令嬢登場からの修羅場とか、窓からこんにちはからの緊急事態とか、目の前のもふ奇跡とかで忙しかったから気がつかなかったけど……私もなんか、目が回ってきた、ような……?
「……? サヤ、大丈夫か――」
アカン、と思った時には視界が回っていた。
そう、全然それどころじゃなかったから、すっかり忘れていたのだけども。私そういえば今日、めっちゃめかしこんでるついでに限界まで腹を絞り上げていたのだわ。
そうか、ご令嬢がなんで卒倒するのか、そりゃ内臓ここまできゅってしてたらそうもなるわ――謎の納得感を覚えつつ、私はいったん意識を飛ばした。
「きゅう……きゅううう……!」
なんだろう。起きるのです、勇者よ……みたいなモーニングコールを感じる。あと私めっちゃペロペロされている気がする。おやめください、く、首はくすぐってえ、ひええ……。
圧に屈してうなされ気味に目を開けると、なんか顔の近くに真っ白なもふもふが。
「きゅっ♥」
気のせいかな? というか私まだ夢の中にいるな?
そうじゃないと、なぜか赤さんもふもふとともに同衾していたことになるっぽいのですが。
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