赤さんもふもふ……だとぅ……?(未知との遭遇)

 説明しよう! 我々が修羅場を繰り広げていた場所は、城内の応接室(ファンタジー世界換算だと謁見の間って言った方がいいんですかね?)まあ、要は城主が外部からの客人を迎える明るい場所だ。


 絶賛ニート生活を送らせていただいている城は、元は辺境の守備のために建てられた、がっつり防衛目的の建物である。


 でも先代訪問者の皆様が色々頑張ってくれた結果、近年は太平に恵まれている。そうなると、機能性優先で殺風景な辺境の城にも多少は宮殿っぽい改装など施されるわけで。


 私が割り当てられているゲストルームなんか、その最たるものなのだそうだ。

 要は「せっかく訪問者様が来てくれたのに、ちゃんとした宮殿に住まわせてあげられなくて申し訳ない」みたいな感じでマイアさんから説明されたわけだが。


 現代日本の一人暮らし用ワンルーム生活に慣れている人間だと、「おほーい寝室と食堂と台所が別にあるー!」というだけでも大分テンション爆上がりなんだけどね。

「人が幸福に住める広さの家じゃない(意訳)」って海外から評価されたとかされてないとか言われるミニマリスト国家の民だからな、こちとら。


 何LDKなのか目測不可能な建物は、皆すごいカウントされるだけだから、城か宮殿かなんて些細な違いでがっかりなんかしないよ……。どちらかといえば、広くて部屋数が多いので、迷子の方が心配かな。それも私の場合、部屋から出る時は誰かと一緒に行動するから、問題ナシ!


 で、話を戻すとだ。今いる応接室は、まあたぶん改装して宮殿っぽく寄せた感じのお部屋で、全体的に明るくちょっときらきらしてるんですが。その理由の一つとして、お部屋に結構大きな窓がいくつかあって、そこから贅沢に採光しているのですな。


 派手な音を立てて、その窓の一つが割れた。何者かが無理矢理そこから室内に押し入り――。


「グリンダ!?」


 私を抱えて迎撃姿勢に入っていたアーロン氏が、驚きの声を上げた。


 あ、本当だ。グリンダ嬢だ。敵襲かと思いきやまさかの知り合いの犯行。っていうか、ガラス大丈夫ですかね、彼女!?


 うむ。なんか大丈夫そうだ。ぶんぶん首を振ったらパラパラ破片が落ちるのが見えた。全くのノーダメージに見受けられる。あのもっふもふ、鎧の役割も果たしてんのかな……。


「ぴきー!」


 ……グリンダ嬢の鳴き声とはちょっと違うような? というか彼女、よく見たら何か口にくわえているな。おう、目が合った。ど、どうもこんにちは。どうしてそんなダイナミックお邪魔しますなんてしているのかな……?


「きゅう」

「ぴーきゅー!」

「わあっ!?」

「きゃーっ!」


 阿鼻叫喚応接間。


 グリンダ嬢が何かをこちらに放り投げてよこし、私を庇うような位置にいた団長氏が無言でそれをキャッチする。(※悲鳴はギャラリーのものです。本当クールね、団長さん……)


 もふ竜が持ち込まれたものの正体を確かめようとしてみると……。


「鳥……? いやこれ、ちっちゃい竜だ……!?」


 思わず声に出してしまう私。

 最初はばたつくふわふわの翼が見えた。次に角のない丸い頭が見えたけど、くちばしはないし、顔はなんというかこう……イヌっぽい……?


 で、足が四つあることに気がついてから、「そうかこれはグリンダ嬢やローリントちゃんくんのミニマイズ版だ」と気がつくに至り。


 ま、まさか……これはまさか……!?


「……まだ名付けも終わっていない赤子を、どうして連れてきたんだ」


 ぴーきゅー泣きわめいているミニ竜を両手に抱え、団長氏がグリンダ嬢を見据える。

 グリンダ嬢はじっと彼を見てから、私をみて、「きゅうん」。すると団長氏は私の方に振り返った。


「サヤ、緊急事態らしい。きみの力で、この竜を見てもらえないか」

「――――! は、はいっ!」


 なんかよくわからないけど、グリンダ嬢が窓を破ってまでお届けしたということは、結構重大案件なのだということは私にも容易に察せられる。


 緊張しながら、ミニ竜をよく観察しようとするけど……。


 ど、どうしよう。今までの大きな竜達は、そこまで深刻な症状を抱えてそうな子達ではなかった。


 要は、ちょっとした肩こりをマッサージに来ていたようなものだと思う。私も気楽に、固いところもみほぐしますねー程度だった。


 でも今回のは、お腹が痛い子がお医者さんに駆け込んでくるようなもの。

 そうだ……私、竜医を目指そうってなってたんだ。なんとなく今までの事例的に、竜ってファンタジー生物だし基本元気で、私は彼らをなでなでしてあげればいいんだなーぐらいに楽観視していた。


 だけど、竜でも不調になることはあるし、そのとき彼らが頼りに来る人間……それが竜医なんだ……。

 お腹がきゅっとする。今更ながら、自分が気軽な気持ちで手を上げた職位の重責がずんと来た。

 怖じ気づいている暇なんかない。私がなんとかしないと。でも、なんとかなんてなるの? 私、訪問者様なんて言われても、ただの日本人なのに。


 ――ちゃんとやらなくちゃ。ちゃんとってなんだっけ。手が震える。あ、やばい。これ、前も経験ある。深呼吸しなきゃ。あれ? 息を吸うって、どうやっ――。


「サヤ」


 そのとき、優しい声がかけられた。ぎゅっと唇をかみしめ、もはやにらみつける勢いだった私は、はっと顔を上げる。


「サヤ、大丈夫だ。きみならできる」


 ――なぜだろう。団長さん……いやアーロン殿下の言葉は、すうっと入ってくる。


 うん。大丈夫だ。体の震えが止まった。深呼吸。大きく吸って、吐く。


 そうだ。見るだけじゃなくて、手をかざしてみる。

 今まで、なんか変だなって所は、手の感覚でつかんできた。


 もふ竜様の泣き声は痛々しくて心に来るけど、平常心。この子の他と違うところは……。


 あった、ここだ! 首周り……?


 私は無言で手を伸ばす。首の後ろ辺りをそっと、一撫で、二撫で。痛いの痛いの、飛んでいけ……。


 すると、急に赤子竜が咳き込み始めた。団長氏が抱え直すと――。


「けふっ!」


 ぽろり。


 ミニ竜はぺっと、口から何か吐き出した。

 これは……リンゴか? しかもまるごとのように見えるが?


「……なるほど。まだ小さいくせに食い意地を張った結果、喉に詰まらせた、と」


 団長氏がそう呟く。


 なるほど、そういうことかあ! 赤ちゃんの誤飲はね、目を離すともう本当すぐにやるし、早急に処置しないと危ないからね。ファンタジー動物でもそういうことあるんだな……すぐに吐き出せて、本当によかった!


 気持ち悪いのが治ったおかげか、本人はぴーきゅーずっと泣いてたのが嘘のように黙り込んで、びっくりしたように目を丸くしている。

 おお……こうして見るとローリント氏を思い出す丸み。でもこの子はグリンダ嬢に近いシルエットかな?


「まったく……大事なかったからよかったものを」

「きゅう」


 団長氏がグリンダ嬢に言うと、彼女はちょっとふてくされたようにそっぽを向いた。

 そして赤さん竜のそばにてしてしとやってくると、ぺろぺろ舐め始め……。


 て、てえてえ……。もふもふがもふもふをぺろぺろしてる絵ってどうしてこんなにてえてえんだろうな……!


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