お仕事終わりの竜をなで回すの巻

 バンデスさんのお出かけ中は、まったりお留守番組と詰め所を見て歩き、和やかに昼食をいただき、最終的には日頃使う道具のお手入れを手伝わせていただいた。


 お留守番組に割り振られたショウ君の挙動不審模様は心配だったが、バンデスさんが出て行くぐらいのタイミングで復活し、その後はいつもの彼に戻ってくれたようだ。


「大変お見苦しい所をお見せしました……」


 なんて恐縮して頭を下げられてしまったけど、うん、なんか……私の方こそごめん。いや、すっきりしたらしいんだけどね。


「身体が軽いです! こんな気持ちになったの、はじめてかも!」


 とか、君それ何かのフラグ立ててない? って心配になるほど元気になってたみたいだから、まあ、はい。終わりよければすべてよかろう!


 とまれ、居残り組の午後は備品チェックや使用道具の手入れに充てられた。

 穏やかに雑談しながら予備の鎧を磨いていたところ、何やらぞろぞろやってくる気配。


「おーっす……」

「お帰りなさいませ、バンデスさん!」


 お、やっと救援要請だとかに向かっていた皆様が帰ってきたぞ!

 留守番組でお出迎え。よかった、目に見える大きな負傷をしている人などはいなさそうだ。でもなんか、皆疲れた顔をしているような……?


「どうかしました? 危険度の高い魔物でも出ちゃいました?」

「まあ、ある意味で危険度の高い奴とぶち当たったわな……あ、今ここにいない奴らは後から来るから」


 特に、出て行くときはあんなにこの世の春! って風情だったバンデスさんが、なんかしおれているように見える。

 ショウ君が早速お茶の準備を……さすがプロの竜騎士見習い、早いな! 私もこれから彼と同じことするんだから見習おう……せめて入れることぐらいはせねば。いやだって本当、全身から大変なお仕事でしたって空気垂れ流してますもん。


「あー。あんがとな、サヤちゃん。ただ、わりーんだけど、よければ俺らじゃなくてさ、竜達のこと、見てやってくんねーか?」

「竜……えーと、また中庭……バルコニー……? あそこに行けばいいんですかね」

「そうそう。ま、俺らにけが人はいねーんだけど、ちょーっと気疲れする任務だったかもしれなくてよ」

「ちょうどいいですね。仕事をしてくれた竜には、お礼に竜の好物のお菓子をあげるんです。食べ物よりもとにかく今は眠たい! って竜達がなってる時は、翌日以降にお礼をするんですけど」


 説明上手のショウ先輩。なるほど、把握いたしました。そういうことであれば、また一肌脱いでみせまっせ!



 これで三度目になる例の場所。今回は時間帯が夕方だから、前の二日と違って西日ロケーションだ。ほう……夕焼けシルエットの竜も乙なものですねえ。輪郭が美しいんだもんな、彼ら。


「ローリント、こっち来いや。サヤがお前にご褒美くれるってよー」


 隣のバンデスさんが手を振ると、並んでいた竜のうちの一匹がくるりとこちらを向き、てしてしと歩いてくる。


 ……バンデスさんが名指しで呼んだってことは、たぶん彼の担当竜なのよな? ちょっと意外な方向性で来たな……。


 というのも、団長さんの担当竜グリンダ嬢は、正統派竜! って感じの、首もしっぽもすらっと長い竜だったのですが。


 バンデス氏が呼んだローリントという竜は、なんというかこう……丸い。全体的に、丸い。


 あれだよ、同じ鳥でもさ。鶴とかは細長いじゃん。でもなんか、冬の小鳥とか、首なくなるじゃん。いやあるけど、羽毛の下に埋もれてて見えないじゃん。あんな感じ……。


 グリンダちゃんも可愛い顔をしているのだが、彼女は凜々しい系にも分類されるだろう。

 ローリント……ちゃん? 君? は、完全にこう……お餅だね。もふもふの餅だね。つぶらな丸いお目々だしね。グリンダちゃんはもうちょっとこう、アーモンドアイ的なね、感じだったからね。


 今回はこういう方向の殺人毛玉なのか、異世界のもふ竜様マジパねえないいぞもっとやれ。


「…………」


 ローリントちゃんは私とバンデス氏を見比べ、そして首を傾げているらしい。


「あ、サヤ。そいつ慣れないうちはほぼ何考えてんのかわかんねーだろうけど、大丈夫だから。グリンダにやってくれたみたいなこと、お願いするわ」


 担当の竜騎士様がそうおっしゃるので、い、いざぁ……。


 おう。おう、おーう! 汚い喘ぎ声はNG。いやだってこの……グリンダちゃんはね、すべすべ感もある高級なもふもふだったけど、ローリントちゃん(仮)はまさしくふわふわもふもふ!


 優しい手触り……涅槃がここにある……可愛いと心地よいの暴力よ……。


 あ、大丈夫です、一瞬手触りのよさに昇天しかけましたが、一応まだ意識保ってるし手も動かしております。


 さて、反応をうかがいながら少しずつ部位や力加減の調整を……つぶらだねえ! でも何考えてるのか今ひとつわからないねえ! そこがいい!


「サヤ、なんかな。羽の付け根というか、背中の所をな、やってほしいんだそうだ」


 団長の時はグリンダ嬢ご本人がああしてこうしてと主張する御仁だったので竜騎士は見守り係でしたが、ローリントちゃんはじっと岩のように佇んで動かないので、バンデス氏の翻訳……通訳? がありがたい。


 背中ですね、よしきた! ……あ、でもちょっと手が届かないような……。


「ちょっと高いか?」

「そうですね、竜の皆さんって結構大きいから――」

「じゃー、乗るかあ」

「…………ん?」


 はい。

 事態を察知したときにはね、既にね。持ち上げられていたね。


 結構軽率に人のことひょいひょいするよね、竜騎士の皆さんって!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る