ゴッド☆ハンド(まさかの対人有効説)
まずはタオルをかけていただいて、その上から肩のラインをなぞる。美少年ってこのラインまで麗しいな。
そして肩のこり具合は……そんな酷くはなさそうだけど、少し疲れてるかも? って感じかなあ。身体って固すぎても柔らかすぎても問題起こすものなのですが、ショウ君はバランスのいいしなやかさが保たれている感じ。あと、触ってみると意外としっかりしているというか、もうちょい華奢かと思ってたら着痩せなさるタイプでしたか、的な。
ではまずは全体をほぐしていきましょう。いざ!
「強さはどうです? 痛かったり物足りなかったりしたら教えてくださいね」
「あ、ちょうどいい……と思います」
……これ、私が触ってるせいで、緊張して固くなってるとかじゃないですよね。本末転倒じゃないか。まあ、力加減はちょうどってことだから、大丈夫なのかな。
「――っ」
「あ、痛かったです?」
「い、いいえ!」
ビクッ! と美少年の肩が跳ね、私は一度手を離す。なんか指が痛いところにでも入っちゃったかな。
「このぐらいにしておきましょうか」
「えっ……」
あるぇ? でもやめようとしたら、めちゃくちゃ残念そうな顔で見られる。そんな……今まさに捨てられそうになっている子犬の命乞いみたいな目……。わ、わかったよう、もうちょっとだけね!
「……あっ。ふぅっ……」
「大丈夫です……?」
「だ、大丈夫……続けてください……」
いやあの、気持ちいいんだよね、それは気持ちいいってことでいいんだよね!? 君ねえ、ただでさえ銀髪の美少年って見た目なのに、そんな悩ましげな吐息上げられると、私がめちゃくちゃいかがわしいことしてる気分になってくるじゃないか! 悪代官ちゃうもん!!
「お、なんだよショウ。羨ましいことしてもらってんじゃねーの。掃除は一番うまいもんな」
手を動かせば喘ぐ、でも手を離せばこの世の終わりのようなショック顔をするショウ君相手に完全に「どうすんだこれ」状態になっていた私だったが、そこに現れたるはマッチョメン騎士バンデスさん。
「サヤちゃん。俺、さっき雑巾がけレース一位だぜ? 労ってもらえたら嬉しいんだけどな~」
状況によってはセクハラみを感じないでもないお言葉だが、ビクンビクンするショウ君を持て余し気味だった私にはナイスアシストと言える。
「あ、でしたらお次はバンデスさんの肩こりをほぐさせていただきますね!」
「おう。よろしく」
軽く肩をポンポンして、最後しゅしゅっと流したら、ショウ君は終わり! なんか虚脱状態になってないかって気がするけど、コメントするのが怖いからいったん見なかったことにしよう。次はバンデスさんだ!
「おう、いい筋肉……」
「だろ?」
バンデスさんはがっしりした体格だし、当然肩周りもしっかりがっつりしていた。まさに大人の男! って感じの惚れ惚れする肉模様だが……ふーむ、ちょっと張り気味かな?
「バンデスさん、最近夜更かししました? それか深酒」
「おー、よくわかったなあ。昨日知り合いと呑みに行ってよ、そうしたら盛り上がっちゃってさあ」
団長辺りなら苦言を呈しそうな遊び方だ。まあなんか本当、イメージ通りの明るいおじさ……お兄さ……どっちなんだろ、私より年上だが四十路までは行ってないと見ているけど。
そして団長さんはバンデスさんよりは若い気がするけど、まだ二十代後半とかだと私の方が上になるな。あの大人びて落ち着いた団長より年上か。ふ、複雑な気分になる……せめて同い年、願わくばちょっと上ぐらいでいてほしいな!
何にせよ、バンデスさんは本日普通にお仕事出てきてますし、雑巾がけでは一位まで取ってるわけですし、昨日ちょっとはっちゃけたとしても問題ないと思いますね。パワフルな人が人生楽しんでる感じ、こっちまで元気をもらえるからいいと思います。
「おおー……上手だなあ、サヤちゃん。めちゃくちゃ気持ちいいわ、これ」
「気に入っていただけたなら何よりです」
バンデスさんは、こちらがこうなってくれたら嬉しいなーと想像していた通りの、適度に気持ちよさそうな反応を返してくれた。
まあ彼は、ちょっとやんちゃ感はあるけど割と大人でもありそうだからね。社交辞令なのかもしれないが、嬉しいのでありがたく素直に受け取っておこう。
「いやあ、本当、すげーすっきりした。飯食って運動して風呂入ってよく寝た時の感覚だわ、これ」
肩もみが終わったバンデス氏は、ぐるぐると腕を回しながらそんな風に言う。
その表現まで行くとちとオーバーなのではないかい? ま、まあ痛かったとか微妙だったよりは、なんか錯覚でもいい気分になれたってことならいいんですけども。
「さーて、しっかり休憩も取ったし、次は見回りにでも行くかあ。ほれ、ショウ、いい加減起きろ――」
「速報! 救援要請です!」
ゆるゆるしている空気を一括し、次のお仕事を始めようとしたバンデスさんだったが、その時誰かが叫びながら部屋に入ってきた。ただごとならぬ雰囲気に、竜騎士達がばっと一斉に立ち上がる。
「場所と内容」
「チューリアルの森で、魔物に遭遇したと。防衛魔法の起動には成功したそうですが、けが人がいるため動けないそうです」
「ほーん。最近じゃ珍しいな。誰ぞ無謀な風来坊が、街道外れて近道しようとでもしたのかねえ」
おお……仕事モードのバンデスさんのパリッと感よ。しゃべり方は相変わらずどこか軽めの所もあるけれど、テキパキ出動する人とお留守番に割り振って、簡潔に指示を出していく。
「つーわけで、サヤ。悪いけど俺ら、ちょっと出てくるわ。後のことは留守番の連中に任せたから」
「了解です。行ってらっしゃいませ!」
ピシッと敬礼すると、バンデスさんはにっかり笑って手を振り、詰め所を出て行った。
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