美少年は掃除の姿も麗しいよね

 異世界でも、上から下に向かう掃除の基本は変わらない。

 はたきから始まり、ほうきで塵を集め、そして雑巾やモップで仕上げ。

 若干アナログ式とは言え、この辺も現代日本と一緒。


 ……ただし、異世界の掃除道具は、時々人の手を離れて空を飛ぶ。すごいね。ファンタジーだね。アニメで見たアレ! って、私今めっちゃ感動している。


 最初、机やら椅子の移動させる所などは、他の騎士達も手伝っていた。しかし障害物がなくなってからは、完全にショウ君の独壇場が始まっている。


 美少年は大体何をしても絵になるものだが、見よ、この見事な指揮者っぷり。格好は騎士見習いだし、操作しているのは音楽部隊ではなく掃除道具達なのだが、実に様になっていて芸術的だ。


 少し前、美少年は手の届かない所にはたきを操ってポンポンし、私を感心させた。今は広くなったフロアを贅沢な舞台とし、複数のほうき達を一斉に規律正しく動かしている。

 私もほうきを持って、魔法操作では手が届きにくいらしい端っこ部分を担当させていただいている。


「ショウ君、本当に器用ですね……」


 それにしてもふと振り返った時のフロアの自動ほうき部隊の美しさよ。

 私の素直な称賛に、少年は恥ずかしそうな顔をする。


「僕の得意な魔法って、こういうのばっかりで……。皿洗いとか、洗濯とか。地味だし、かっこよくないですよね」

「いやいや、素晴らしいじゃないですか。水仕事大変ですし、めちゃくちゃかっこいいですよ、今のショウ君」


 お、顔が赤くなった。初々しいのう。

 団長さんとか大人の男性相手だとね、こっちもあまり軽率にかっこいいとか、本人の顔見て言えないんですが。特にイケメン相手だとな! 自明の理わざわざ口にして何言ってんだ常識だろ感漂うじゃない。


 その点、ショウ君は十代の若人だからなあ。かっこいいというより可愛い方が印象強いけど、こうやって真剣になっている横顔なんかは凜々しい。


 一言でまとめると若人尊いね。素直で元気な若者ってそれだけで国宝だと思うの。本人は背伸びして大人の仲間入り果たしたいムーブをちょいちょいかましてくるところがまた、こう……エモーショナル……。


「うーし。お前ら、並べー」


 ショウ君のほうきがけが終わると、バンデスさんが声をかけ、竜騎士の皆さんが各々雑巾を手に並ぶ。

 ……これは、もしや。


「えー、位置について……よーい、どん!」


 ショウ君の合図で各自一斉にスタートダッシュを切った! やっぱり期待に違わず雑巾がけレースだ!


「っしゃああああああ!」


 そして猛然と突き進んだバンデス氏があっという間に勝利をもぎ取っていった模様。パワータイプって素早さとセットだったりするよね。筋肉あればその分速く動けるのだろうし。


「サヤ! 俺が勝ったぜ!」

「え。あ。おめでとうございます……?」


 なんかガッツポーズを決めているバンデス氏に呼ばれた。とりあえず祝っておくと、彼は真っ白な歯を見せる。


 先ほど大人の男性云々って話をした気がするが、バンデス氏は見た目は間違いなく大人だが、ショウ君よかよっぽど無邪気な表情を浮かべている。

 竜騎士の皆さんは見たところ、団長にしろショウ君にしろ真面目な人が多そうだから、こういう肩の力を抜いた感じの人がいてくれると、いい具合に根を詰めすぎずに済むのかもしれない。


「ちなみに今日はバンデスさんとその他大勢がやりたがったのでこうなっていますが、ほうきがけの後はモップがけまでが、普段の清掃です。大掃除の時は、もっと床の頑固な汚れとかと戦ったりします」

「なるほど」


 さらっと解説してくれるショウ君。

 そういえば、雑巾がけなんていかにも新入りが任されそうなイメージがするもんなあ。だけどショウ君が号令係なんてやってたのは、このレースが先輩方のご要望によるイレギュラーケースだったから、と……。


「あ、でもバンデスさんは雑巾の絞り方が雑で床がびしゃびしゃなので、滑らないようにから拭きしておきますね」


 竜騎士達がわいのわいの言いながら雑巾を洗いに行った間に、乾いたモップをすすっと操るショウ君。できる後輩だあ。


 私、もちろん男性らしい軍人さんにはシンプルにどきっとしてしまいますけど、こういう風にかゆいところに手が届く立ち振る舞いができる存在こそ、組織には必要なんじゃないかなって思います。


 総合的に言うと、美少年、めちゃくちゃ将来有望。


「あー、いい仕事したわあ。茶でも入れるかあ」


 机と椅子なども元通りにした後で、騎士達は一休憩入れることにしたらしい。私もご相伴だ。


 ちなみに意外にも自称お茶入れの名人のバンデスさんが準備をしてくれた。実際、雑っぽいイメージがつきがちなバンデス氏からふるまわれたとは思えないほど、上品なお茶の味がする。気がした。……まあ私、大体のお茶はおいしく感じてしまう貧乏舌だしな!


 何にせよ、やはり労働後の一杯は格別。


「っ、はああ~……」


 ショウ君もよいリアクションをしている。一番肉体労働させられがちな若手で見習いってこともあるだろうけど、やっぱり彼が一際よく動いていたような気がするな。しかもその合間に、新入りの私にご教示もいただいたし。


「ショウ君、お疲れ様でした。よろしければ、肩でも叩きましょうか?」

「サヤさん……?」

「色々教えていただいたお礼です」


 感謝と労いを表現したくなった私の提案に、美少年は目を丸くする。ふふふ、実は私、ストレッチや筋トレに始まって最終的にはマッサージなども、現代日本で趣味で囓ってたことがあるのだよ。普通の竜騎士相手だといきなり「大丈夫? 筋肉揉もうか?」とか言いがたいが、このタイミングかつ相手がショウ君ということで、向こうが嫌がらなければちょっといいかな? とふと思ったのだ。


 美少年はささっと周囲を見回したが、各々己のお茶の時間と歓談の時間に夢中らしく、殊更こちらに注意を払っている人はいなさそうだ。


「じゃ、じゃあ……少しだけ、お願いしても……?」


 オーケー、ボーイ。任せな。

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