マッチョメン竜騎士が教育係になりました(詰め所の大掃除編)

 先日、竜騎士団長アーロン氏から竜の世話しないかいってお話しをいただき、有能メイドマイアさんによって労働条件の提示が求められた。


 すごいね、好きなことしてお金までもらえるなんてを自分が言う日が来るなんてな……感慨深いよな……。


 とにかく、改めて私の業務内容を確認した。

 将来的に目指す所は、モフ竜様の癒やし手――竜医という唯一無二のお仕事らしい。

 ちなみに竜医は希少って話があったけど、現在正式にこの役職を名乗れる人はいないのだそう。竜の癒やし手適性と好感度と、まあとにかくなれる人がめちゃくちゃ限られるらしいのでね! 私、ワクワクしてきたぞぉ。


 で、竜医を目指すに辺り、まずはモフ竜様世話係から始めてみようかってことになった。

 もっと具体的に言えば、竜騎士見習いみたいなものだ。美少年ショウ君はちょうど見習い真っ最中らしいので、彼の後輩ってことになりますね!


 当初、責任感の強い団長氏は、なんとご本人が私に竜騎士のあれこれを教える係になる意思を示していた。


 が、横で話を聞いていたバンデス氏が呆れ顔になり、


「いや、あんた自分が団長だし、領主でもあるってことを思い出せ。な?」


 竜騎士団長だし、王子様だし、そして領主様……NEW!

 おっふ、マジか。この人元々雰囲気あるから、絶対社会的地位高い人! ってのはすぐにわかるけど、全然自分でその辺のこと言わないんだもんな……。


 そんな偉くてすごく忙しそうな人なのに、結構な時間私に割いていただいていたと。嬉しいけど、申し訳ないなって思うよね……。


「俺はもともとサヤの警護に割り当てられてるし、一緒に行動共にするなら、ついでに面倒見るよ」

「お前、個人的にサヤと話す機会を増やしたいだけでは……?」


 団長氏はため息を吐きつつも、しかし色々既に肩書きのある自分が四六時中私に構うのは限界がある、という現実も思い出したらしい。


「バンデスなら、能力は充分あるだろう。が……ショウ、お前もサヤのことをよく見て、色々教えてやりなさい」

「は、はい!」


 団長氏はバンデス一人だとちょっと不安、という風情で、見習い美少年騎士にも声をかけた。

 バンデスさんは気さくなお方って感じだが、気さくというかガサツ……みたいな気配もしているので、その点ショウ君がいればバランスが取れるってことなのだろう。



 そんなわけで、本日からしばらくは、この蛮族風……もといワイルド系竜騎士のバンデス氏が、私の護衛兼教育係になる。


「うーし。そんじゃ、サヤ。出発すっぞー」

「はい、よろしくお願い致します、バンデスさん!」


 我々は今、城内の竜騎士詰め所に来ています。

 まずは竜騎士の皆さんに改めてご紹介と、仕事場の案内。


 竜騎士の皆さんは、傭兵呼ばわりするには品がある(あと顔もいい)が、顔採用で立っていることが仕事の近衛騎士よりは一般的兵士に近い……総合してみると、そんな印象だ。


 改めて顔を合わせてみれば、年も身分も結構バラバラである。


「色んな人がいらっしゃいますね……」

「まあな。竜騎士名乗るからには竜との相性が必要だが、竜は別に年や身分で人間選ばねえからなあ」


 そういえば竜騎士の皆さんはイケメン揃い、裏を返せば女性の姿は見られない。……ちょっと聞いてみようか。


「女性は竜騎士にはなれないのですか?」

「いんやあ? 昔は男の仕事だーって時代もあったらしいがな、今は別にな。団長だってあんな人だからさ、性別で採用弾くなんてことはない。竜も別に性別で人をはじきはしない。ただなあ、騎士になるからには一通りの訓練はやってもらうことになるし、実際竜と接すると……まあ、なかなか難しいっつーか。王都とかだと、女騎士も普通にいるらしいがなあ」


 バンデスさんが鼻をかきながら答えてくれる。


 ほむん……まだなり手が少数派って感じなのかなー。


「あ、サヤに俺らの仕事の説明はするが、そこまでがっつり騎士訓練をするつもりはないから、安心してくれ」


 なんだろ。グラウンド十周的な? ショウ君みたいにちゃんとした見習いなら、そういうこともやるのかな。まあ私はやれと言われたらブーブー心の中で言いながら普通にこなすタイプなので、割り振っていただいても大丈夫なのですが。


 とにかく私は、色々試験的にやってみようの先鋒役ということなのですね。お互いまだ探り探りという感じだけど、ちゃんと溶け込んでいこう。


「皆様、改めまして、今後よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします、訪問者様」

「あ、よろしければ名前の方で呼んでいただければ……姓のイシイでも、名前のサヤでも、お好きな方で構いませんので……」

「で、では……サヤ様……」


 今日詰め所にいる竜騎士の皆さんと、お互いにぺこりと頭を下げ合う。

 うむ。“訪問者様”と敬ってもらうのはありがたいけど、なんだかそう呼ばれていたらいつまでも距離が縮まらない気がする。


 将来的にはモフ竜様のQOL向上係就任を目指す身としては、モフ竜様に最も身近な彼らとは、ちゃんと親睦深めておかないとね! 純粋に興味もあるし。


「……で、まあこんな感じだが。見習いなら、この部屋の掃除とかから始めていったりするんだがな……」

「あ、やりますよ、掃除。むしろやらせてください。私も色々覚えたいので!」


 ピシッと手を上げて主張。グラウンド十周は体力的に厳しいだろうけど、雑務なら全然、現代日本でも大体任されるポジでしたゆえ。


「お、じゃあやるかぁ」

「僕、いつもやっていることなので。お教えしますね!」

「なんだなんだ。掃除するのか」

「俺らもやるかあ」


 珍しく先輩ロールができてやる気を出しているらしいショウ君の他にも、わらわら竜騎士の皆さんが集まってくる。


 ……いつの間にかこれ、詰め所の大掃除が始まりそうですね?

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