ふわふわもちもちもっふもふ(呪文か?)

「ちょっ、バンデスさん!?」

「ほれ、はよせい。それともこのままやるかい」


 私、サヤ。今、マッチョメン騎士から不意打ちリフトを食らっているの。


 そして突きつけられる二択。

 ふわふわもふもふのお背中によじ登りますか?

 マッチョメン騎士にたかいたかーい! されたまま、もふもふを続行しますか?


 ……うおおおおお、アラサーなんだぞ、後者が選べるわけないだろうが、絵面がえげつないわ!!


「うぐ、ご、ごめんなさ、ローリントさん、ぐおおお……」

「…………」


 やはり筋トレは必要。這い上がるのって結構力いるんだね。

 ばたついてしまって非常に申し訳なく感じたのだが、ローリントちゃんは相変わらず不動だった。

 これ、起きてる? 寝てない? 背中に登ったから、もう目が開いてるかわからないなあ。


「礼はいいぞー。そのうち自分で登れるようになれなー」

「なんっ……あ、ありがとうございます……!?」


 どちらかというと罵倒する所なのでは? とも思ったが、まあ、ローリントちゃんが背中の羽の付け根をよろしくと言っている以上はね。登る必要はあったから、お礼は言うけれど……。


「心臓に悪いので、次からはせめて予告してから持ち上げてください」

「おー」


 なんとなく、次はもうやめてね! と言っても聞かないんじゃないのこのマッチョメン? という気がしたので、現実的なラインで念押しはしておく。


「はっ……破廉恥ですよ、バンデスさん!」

「あ? どこがよ」


 いいぞショウ君、もっと言って!


 ……さて、無事位置取りも完了したことですし、気を取り直してローリントちゃんのお手入れに戻ろう。

 羽の付け根とな。ふむ……なんかちょっと、右? の方がざらついている気がするな。他の所に比べて手に違和感がある部分を、そっと撫で撫で。ふわふわもちもちになーれー……。


「……うきゅ」


 なんも言わないローリントさんが、なんかぽそっと声漏らしたけど、どういう意味なのかやっぱりわからん!!


「あ、なんかそこがいいってよ。俺からだとどこかわかんねーけど」


 ありがとう同時翻訳の人!

 若干時間差があったせいで私もいまいちどこなのかわからないけど、たぶんこのざらざらの部分だろう!


 ……そんなわけでめっちゃなで回してたら、だんだんふわふわもちもちになってきた気がする。この感じなら他の部分と大差なくなってきたのでは? うん、もうざらついてないかな。


「……きゅん」

「サヤ、もういいってよ。お疲れー」


 私がそろそろかな? と思った所で、ちょうどバンデスさんのお声がけ。

 了解です。ローリントさん本当何も言わないし、たまに何か言うときもめちゃくちゃちっちゃい声で短く一声鳴くだけなので、「なんて?」って二重の意味でなるんだよな。同時翻訳していただけるとマジで助かります。


 しかし……そうか、登ったら降りる、当たり前のことだ。前はグロッキー意識朦朧状態で、竜騎士の皆さんがわーわー慌てながら引きずり下ろしてくれたような気がするけど、改めて自分で竜の上から降りるって……結構高さがあって怖い。


「サヤさん、大丈夫ですか? 降りられそうですか?」

「だいじょーぶ。飛び込んでこーい」

「いやいやいや……ローリントに段差のある場所に移動してもらった方がよくないですか?」

「訓練所ならあるけどなあ。ここだとちょうどいい高さの台、ねーじゃん?」


 私が躊躇している様子を見てだろうか、気遣いの師匠ショウ君が何やらまた気を利かせてくださる感じ。


「どうかしたのか?」

「団長!」


 その声は……!


 本日は別件でお忙しいらしい団長が颯爽と現れた!

 彼はぐるっと周りを見回し、状況を察したように頷いて、そしてローリントの側までやってくると。


「サヤ」


 なぜでしょう。バンデスさん相手だと「ちょっともーうおじさんノリはやめてくださいよー!」みたいに返せるところだが、団長相手だと「はい……」って行くしかないこの感じ。


 思い切って、ちょっと急な滑り台から降りる感じで……えーい!


「……な。怖くなかっただろう」


 はい。

 団長さんが、魔法で作ったクッション的なものをご用意してくださっていたので、それはもう、ええ。全然大丈夫でした。


 知ってた! そうだよね、私アラサーなんだしそんな、「抱き留めてやるから大人しく抱かれろよ(イケメンにのみ許されるボイス)」なんてことはないって、知ってた!!


 これはね、バンデスさんが余計な前振りした上に、今日見てなかった団長と不意打ち遭遇なんてしたから、うっかり気が迷ったんですよ。

 あー冷静にわかっても恥ずかしー! うおおおお誰か私を処せ、このちょいちょい年甲斐もなく自動起動する乙女スイッチを永久封印してくれ!!


「なんでそんな試合に勝って勝負に負けたみたいな顔してるんだ、サヤ」

「大丈夫ですか? お疲れでしたら、今日はもう帰ります?」


 私の羞恥の原因と、気遣いカンスト師匠が順に声をかけてくる。

 お仕事終わった竜はローリントちゃんだけではなく、この前と同じようにお行儀良く列になってわくわく私を見つめている。


 ……ちょうどいい。来いやぁ! このいかんともしがたいもやもや、お前ら全員モフって解消してやるよぉ!

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