もふもふぅ! もふもふもふぅ!!(語彙消失)
異世界に来て一週間程度? はマジのお部屋住み生活だった私だが、「準備した上で竜騎士団の面子が付き添いに付くなら」という条件で外出が解禁された。
外出と言うよりは!
竜の見学なんですけどね!!
やったぜ!!!!
しまったつい念願成就の気配に気分の高ぶりが抑えられず。
ビークール私。興奮して息荒げてたりしたら単純に不審者ですし、竜の皆さんからも「え、何こいつ……近寄らんとこ……」ってリアクションされそうですしね。
……そうなったらマジで泣けるから、本当自制しよ。想像しただけでも口の中に鉄の味が。
まあ、実のところ、スマホショック及び読書ショックの後、別の引きこもり代替手段が見つかってはいた。
だってこの異世界、科学はないが結構高度な魔法はあるし、「現代日本の高級ホテルかな?」と錯覚しかける程度に、超充実したインフラ設備もある。
ならば当然、部屋で引きこもり用の娯楽だって、ないわけではなかったのだ。
具体的に言うと、映画……というか動画? 動く写真? まあ、そういう概念に近しいものよ。あったのだな、異世界にも。
ほら、ファンタジー世界で時々、遠くの映像を念写するとか、過去の記憶を投影して他の人にも共有するとか、なんかそういうのあるじゃん。光の球がピカーって光ったらそこに映るとか、映像浮かぶとか。あれあれ、あんな感じ。
そしてこの世界では、リモートで観劇を楽しむという娯楽が既にあるらしい。
身分が高いと、直接自分の所に呼びつけて芸をさせるのが一般的なんだけど、そこはまあ、遠くの安全圏から眺める方が性分って人もいるわけで。あと、自分の目で見るのと映像だと、やっぱり見え方も違うので。通は劇場で実演を見てから、お家で記録映像を繰り返し楽しむものだとかなんだとか。
あれだな、推しの初演見に行って帰りはDVD予約してくるようなものだな。便利だなー、魔法。
そんなわけで、「サヤが暇だと聞いて……」と、竜騎士団の面々が各自観劇映像を持ってきてくれたのだ。音声なら自動翻訳機能が仕事するしね! 読書用のお勉強はするけど、やっぱお手軽に楽しめる引きこもり用娯楽があるのは嬉しい。
ちなみにちょっと面白かったのは、見事にジャンルがばらけていたことである。
団長は王道恋愛物、マッチョメンはアクション要素が強いもの、美少年は……まさかの昼ドラサスペンス。しかもシリーズ物。
これは、私がこういうの好きそうって思ったのかい? いや好きだけども。ついつい昼ドラ見ちゃいますけども。心読まれたのかってビビりましたけども。それとも純粋に、本人の趣味?
なんだか怖くてわざわざ確認はできなかった。触らぬ神に云々かんぬん。他のお二人はイメージ通りでした。解釈一致助かる。
さて、日中は文字を習い、自室では貰った観劇映像を楽しみ、「そろそろ多少は動いておかないと豚になるな……」と反省してたまにストレッチや体操などしているうちに、無事にもふ竜見学の許可が下りた。
やっぱりね。映像系娯楽だけではね。満たせないものがある。体験が、直接の接触が、あの騎竜した時ちょっと触れあった極上のもっふもふ手触りが忘れられない……!
「今日は竜の普段を様子を見てもらって、可能であれば触れ合いなどもしてもらいたいと思っている。ただ、申し訳ないが、人の都合より竜の状態を優先させてもらうから、もしかするとサヤの希望すべてを叶えることはできないかもしれない。お互いの安全のため、私の指示に従ってほしい」
「サー、イエッサー!」
当日はいつもの三人だけではなく、私を迎えに来た時同様竜騎士団の皆さんが勢揃いしていてなんだかそわそわする。
ちなみに団長さんはまあ一番偉い責任者だから当然として、その他の二人がなぜ私担当みたいになったのかは……たぶん、バンデスさんは気さくだからで、ショウ君は年齢が同年代だと思われたからなんじゃないかな、と推測している。
そう、たぶんね……たぶんなんだけど、私十代後半から二十代前半に思われてるっぽいんだよなー……アジア系は童顔に見えるってあれなのかね。まだお肌も結構綺麗だしね。実態は三十路のアラサーだよ。なんとなく言い出しづらくて年齢のことは未だに言えてない。震え声。
団長から改めて説明され、神妙に答える。思わずピッと敬礼してしまったほど。
気分は新兵。……いや、新兵には人権がないと聞いたことがあるので、どうしよう……マナーのできてる観光客ぐらいの扱いでお願いしたい、かなあ……。
団長に続いて部屋から出ると、城内は予想よりかはもうちょっと殺風景な見た目をしていた。丁寧に清掃が行き届いてはいそうだけど、目立つ装飾品や置物はそんなにな、みたいな。
なるほど、ここは辺境で、私の部屋はお客様用豪華仕様って話、事実だったみたいだ。
そして私が出かける用に人払いがされているためだろうか、広い場所をずーっと歩いているのに全然誰の姿も見かけなくて、ちょっぴり怖かった。ここ結構、夜中に一人では歩きたくない場所だな……。
さて、そつのない団長の案内によって、私は広いベランダ……いや、屋根がないからバルコニー? とにかく、城の中だしまだ建物の上だけど空が見える、そんな場所にやってきた。
なんとなく、玄関まで行って放牧地みたいな所まで馬車で移動して……とか考えていたから、結構ラフに呼べるものなんですかって驚いた。
「普段はあまりここには呼ばないんですけど、今日はちょっと特別ですよ」
ショウ君がこっそり耳打ち。なるほど、ここでも訪問者待遇。あ、ありがてえ……そしてすまねえ……でももふもふ様と再会できるチャンスは逃せない……!
アーロン団長がまた笛を構え、快晴の空に竜を呼ぶ音が響き渡る。
すると今度もさほど時間をおかず、ばさばさ羽音が聞こえてもふ竜様達がお出ましになった。
「グリンダ」
「きゅう」
早速アーロン団長は、ご自分の担当竜グリンダ嬢を撫でている。白竜グリンダ氏は気持ちよさそうに目を閉じてから、私をじっと見て、それからアーロン団長にまた目を移す。
「きゅううう」
「サヤ、グリンダが問題ないと言っている。こんな感じで触ってやると喜ぶから、さあ、やってみてくれ」
竜のお顔を優しく撫でている団長が、私を手招きする。
か、顔なんかいきなりタッチしてもよろしいのですか……よろしいって言ってるから信じますよ……。
…………。
お、おお……。ふおお……。ジーザスもふもふぅ……!
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