お願いです、モフらせてください!!

「いかん……やることがない……」


 ドンと来い軟禁生活! と胸を張った数日後。

 情けなくも、私は早速籠の鳥プレイに飽きていた。


 どうしたサヤ、お前のニート力はその程度か! ニート必需品装備がこの世界にはないってこと、忘れていたんだよ……。


「しまったなあ……現代の申し子は、人生の半分ぐらいをネットで消費していたんだもんなあ……」


 思わずベッドにごろごろと寝っ転がり、すっかり便りにならなくなった元携帯情報端末を取り出す。


 私はコンビニに行く途中で、異世界転移した。装備品はダサTシャツにジーンズ運動靴と――スマホ、それだけだ。スマホがあればコンビニ決済だってできる世の中だったからね。マジでもう少し何か手に持って家を出るべきだったよね。


 ともあれ、唯一の持ち込み品を活用しない手はない。異世界魔法を駆使すれば、スマホの充電とて可能だった。


 本当、何をどうしたらそうなるのかまるで私にはわからなかったけど、「つかぬことをお伺いしますが、これにエネルギー充填って可能でしょうか……」って団長さんに見せたらその場でやってくれたよね。

 ハンドパワー充電。嘘でしょ。目の前で実行されたんだよなあ。魔法の力ってすごいよなあ……。


 ともあれ、スマホの充電も可能なら異世界生活本当に楽勝じゃーん! と意気揚々ロック画面を解除した私は、電波状況を見てあっ……と我に返った。そらそうだ。異世界には携帯会社もWi-Fiもないよね。


 つなげるネットがなければ、伝家の宝刀もただの置物。ここまで全力でお膳立てしてくれてたから、ネットにも行けるんじゃないかって、なんとなく思ってた。駄目なものは駄目でしたね。


 まあ、オフライン利用する分には問題ないので、メモ帳を活用してみたり、カメラ機能使ってみたり、ダウンロード済みコンテンツを楽しんだりはしたわけですが……。


「やはりオンライン……オンラインでなければ意味がない……!」


 しおしお自分がしなびるのを感じる。


 思えばネットって、逐次リアルタイムに情報が更新されていく所が良かったんだなあ。SNS浸ってれば、大体ネッ友が誰かしら反応してくれたし。


 まあ一応こちらの世界でも、呼べばマイアさんはいつでも来てくれるし、竜騎士団の皆さんも空き時間? によく様子を見に来てくれはする。


 でも、彼らはまだ私にとって他人……と言ってしまうと乱暴かもしれないけど、とにかく気を遣う相手なのだ。もらった寝室も、めちゃくちゃ快適だけど、まだ自分の部屋というより借りているホテルって意識が強い。


 当たり前のようにはしゃいで寝室を撮りまくって、「異世界なう!」と押した送信ボタンがエラーになったとき……あ、そうか、って急に現実を見たような気がした。


 ほぼほぼなんでもある異世界。でも元の世界とは隔絶されている。思わぬ所でちょっぴりしんみりしてしまった……。


 しかしまあ、しょぼくれて終わるには早い。

 まあこういう場合に打つ手は、と思いついた私は、マイアさんに本を読ませてもらえないか頼んでみることにした。


「本、ですか。こちらには図書館もありますので、お持ちしますが……」


 マイアさんは快く応じてくれたが、ちょっと心配そうな顔になった。

 私はすぐ、彼女の微妙そうな反応の理由を知ることになった。


 ずらっと並ぶ文字は、アルファベットに似ているが、見たことのないもの。頑張ってローマ字読みできないかと思ったが、もちろんそんなこともない。


「そうか、異世界の自動翻訳機能は、音声のみ変換タイプだったかあ……!」


 大体イージーモード異世界だったがゆえに油断していた所、立て続けにボディーブローを打ち込まれた気分である。これしかもあれだね、自動翻訳がゆえに現地の言葉を脳内の言葉が簡単には結びつかない奴かもしれない。


 ざっくり例えると、現地の人は「apple」って発音してるけど私には「リンゴ」って自動変換されてて、だけど文字上はappleって当然書かれるわけだから、リンゴって聞こえてる私には一瞬、「???」ってなり……みたいな。


 たぶん異世界にはあるけど現代日本にはないみたいなワードが出てきたら、そのまま現地発音で聞こえるんだろうな。便利さがネックになるとは、驚きなり。


「申し訳ございません……宮殿の方であれば、転移者様が遺したとされる本もあったかと思われるのですが。こちらにはなくて……」


 申し訳なさそうにマイアさんに謝られてしまい、こちらの方が恐縮する心持ちである。


 ちなみについでで教えてもらうことになったけど、今私達がいる所は、王国内では辺境扱いされている位置になるらしい。ざっくり北東。私丑寅から来た女なのか、大丈夫かよこの平和異世界に災いもたらさないだろうな……とちょっと複雑な気分になったよね。


 王子アーロン氏は竜騎士団長であり、根っからの竜好きだ。宮殿暮らしが合わず、ほぼこの辺境の地でのびのび竜と戯れて過ごしているらしい。私の出現が天文協会とやらに予告されたとき、ちょうど近くにいたので様子を見に行ってこいと送り出され、今に至る……と。


 ちなみに私がもらった部屋は、そんな辺境暮らしに慣れてない人が来たとき少しでもストレスを減らしてもらえるように作られた、特別なゲストルームなんだとか。なんかすみませんね……アラサーが占拠してしまって。


 さて、有能メイドマイアさんは、私が文字が読めないが本を読みたがっていると知ると、早速教師の手配をしてくれたらしい。それに寝る前は、物語を読み聞かせてくれるオプションまでついた。マジか。童心に返る。地味にめっちゃ嬉しいんだが。


 そしてマイアさんに辺境のことや王城のことを改めて教えてもらった私は、更にもう一つお願いをしてみることにした。


 ずばり、竜をモフらせてください……もとい、竜騎士の方同伴で見学などは、させていただけないのでしょうかと!

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