やることが……やることがない……!
「こちらはアーロン=クウィンテス=エルステリア殿下。エルステリア王国第五王子であらせられる。頭が高いぞ庶民、控えよ!」
「は、ははーっ!」
マッチョメン騎士バンデスさんは咳払いしてから厳かにそう告げた。
私はただちに平伏のポーズを取ろうとするのだが、慌てて駆け寄ってきた美少年ショウ君に止められる。
「サヤ様、訪問者様がそのようなこと――バンデス!!」
「はっはっはっはっは。いやあ、嬢ちゃんノリ良さそうだからよ」
からからと笑うマッチョ氏に、他の竜騎士達が渋い顔をしている。特に王子殿下本人ことアーロン氏の表情が固いの何の。
「別に嘘をつくつもりはないが、わざわざ言うほどのことでもないだろう。王太子ならともかく、五番目だし」
「いやいやいや……竜騎士団長の方が本職って意識が強いのはいいけど、一応最初の方に名乗ってあげた方が、後々のこと考えれば優しさってもんすよ。団長……」
「そうですよ……団長が団長であることしか言わないから、見習いがいつ殿下って気がつくか、先輩達にニヤニヤ顔で一月見守られることになるんですよ……最初に言ってくださいよ、大事なことなんだから……」
「…………?」
なんかよくわかってなさそうな顔のアーロン氏と、呆れ顔の部下二人。
特にショウ君はたそがれている。たぶん今漏らしてたの、当事者エピソードなんだろうな……。
とにかく、バンデスさんの発言はちょっぴり心臓に悪かったが、アーロン氏……アーロン殿下が王子様であるとわかったのは良かった。
いやまあ、もともと真面目そうで育ち良さそうで、いいところの人なんだなってのは察してましたけれども。やっぱ王子様は、こう。王子様って肩書きつく人を相手にするときはね、心構えがちょっと違うからね。
……今からでも様って直そうかな。
「私はもともと宮殿暮らしより外歩きの方が多いし、妙に気を遣われる方が鬱陶しい。殿下扱いはごめんだ。なので、サヤも私のことはただの竜騎士団長だと思って接してくれ」
アッハイ顔色読まれましたねこれは。アーロン=サン。はい。わかりました。
しかし王子様をさん付けかあ……そっかあ……個人的異世界やらかしリストが順調に増えている気がするなあ……先に知ってたら絶対様呼びを死守したのにな……。
「団長、世界最強の武力誇る竜騎士の団長な時点で、ただのは当てはまりません」
「そうですよ、団長は自分にも他人にも厳しすぎます」
そーだそーだ! もっと言ってやれ部下!
なんかだんだん二人の茶々入れが心地よくなってきたな。思ってること代弁してくれるし、補足入れてくれるし、二人とも別の種類のイケメンだしな。ここが天国かな? いいえ、異世界です。
「……横道にそれた話を戻すが。異世界からの訪問者は、丁重にに扱うことが定められている。だからサヤは、私が責任を持って面倒を見る。当分はこの城で暮らしてもらうことになる」
お、おう……雑談で忘れかけてたけど、そういえば今、異世界の説明とか私の処遇とかの話をしていたのですものね。そっかあ、面倒見られちゃうのかあ……。
「最初はどうしても不便を強いてしまうだろうが、許してほしい。きみがこちらに慣れてきて、我々も警備のやり方が確定できたら、もう少し行動範囲も広げられると思うんだが……」
「まあ、訪問者って前の世界でどんな暮らししてんのか知らねーけど、籠の鳥生活いやがって飛び出したら、外出先で危ない目に遭ったって記録もちらほらあるみたいでよ。そんなわけで、しばらくは部屋住みで辛抱してくれや。なんかあればなるべく要望は汲むようにするしよ」
「すみません……過去訪問者様がよく来訪されていた時代に比べれば、今の世の中は安全で平和です。だからこそ、サヤ様が久しぶりの訪問者と知れ渡れば、利用して悪いことをしてやろうという輩がいないとも限らないわけでして……ええと、かわりに三食昼寝付きは保証しますから!」
「それもどうなんだ、ショウ……」
私が「王子様に面倒を見られるアラサー……」と考え込んでいた顔が、どうもゆる軟禁生活に対する不満ととらえられたらしい。
三者三様に慰められているが、まあ……私元々ひきこもり気質ですから、別にいいですよ、籠の鳥生活。魔王退治に行ってこいって旅に放り出されたり、着の身着のまま野に放たれたりするよりは、全然適性あると思うんで。
むしろ「そんなニートの駄目さに磨きをかけるプランニングで大丈夫か」って、この異世界の優しさを心配していたところですよ。
「……要するに、しばらくこちらにご厄介になるということで、よろしいのでしょうか? そして私は久しぶりの訪問者ゆえ、今はまだ関係者以外に存在をおおっぴらにしない方がいい。なのでしばらくはあまり部屋からも出ない方がいい……そんな感じの理解で、合っていますでしょうか……?」
そっと片手を上げて確認すれば、ほっとした空気が流れた。
「ああ、問題ない。ご理解ご協力感謝する。改めて、これからよろしく、サヤ」
アーロンさ……さん……が、握手の形に手を差し出してきた。王子様と握手かあ……と挙動不審になった私だったが、まあ大体こういう場で強く自己主張できる性格でもなし。向こうがやれって言ったのだから不敬判定は出ないはずって念じてから、大人しくこれからよろしく返しをしたよね、うん。
そんなこんなで、私の超絶快適客人引きこもりニート生活が始まった。
専属メイドさんにお世話をしてもらえるし、定期的に三種イケメンがご機嫌うかがいに来てくれるし、これでいてくれるだけでいいって言うんだから何の文句があるはずもないよね。
……だが私は比較的すぐ、異世界ニート生活もそう甘くはないことに気がついた。
だってここにはネットがない。当然、まとめサイトも動画サイトもSNSもない。現代日本ではほぼほぼスマホの虫と化していたからこそ無限に時間が消費できてたのだってこと、すっかり忘れていたぜ……!
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