第131話 テストは日々の生活態度を映す鏡
勉強会から一週間と少しが経過して、夏休みを目前にしたテスト返却日がやってきた。
あの日以来、
また偽彼氏をやるということは他の誰にも伝えていないし、二人だけの秘密という特別感でも覚えてソワソワしているのかもしれない。
瑞斗からすれば、報酬が貰えるというのなら真面目に取り組むつもりだが、奈月の方がボロを出してしまわないかが心配で仕方なかった。
「
「……黙秘権があるもん」
「それはつまり、聞かれて都合が悪いことがあるということよね。白状してるも同然じゃない」
「わーわー! 何も聞こえないしぃ!」
「そうね、副教科もあるからあなたの実力なら赤点は5つくらいかしら」
「4つだもん! ……あっ」
「頑張って教えたんだけどな」
「花楓だって本気でやったもん。でも、思ったより解けなくて焦っちゃって……」
「テストってのは初めがダメなら後もダメになるの。今回の小林さんみたいに、中途半端に努力をした人は尚更ね」
「うぅ……」
「取っちゃったものはどうしようもないし、大人しく補習を受けるしかないね。噂話だけど今年の補習は厳しいらしいよ」
そんな彼の言葉に「瑞斗君、噂を聞く相手なんていたのね」なんて言われたので、堂々と「盗み聞きしただけ」と返して窓の外へと目を向けた。
瑞斗のテストの成績は相変わらず90点台がほとんど。唯一体育の実技だけが平均程度しかないが、そこはどうしようもないので諦めている。
一方、
「小林さんには私が教えてあげた方が良さそうね。瑞斗君みたいに飴と鞭の使い分けなんて器用なこと、出来ないと思うけれど」
「むっ、
「何よその言い方、親切心で言ってあげてるのよ」
「お節介だもん。花楓の馬鹿さを舐めないでよね!」
「そんなことで胸を張って恥ずかしくないわけ?」
口喧嘩から始まり、掴み合いに発展した二人は「夜の勉強は花楓の方が上手だもん!」だとか、「そんなのやってみないと分からないわよ!」だとか不穏なことを言い始める。
それを聞いていた瑞斗はすぐにカバンを持って立ち上がると、「部活があるから」と逃げるようにして教室を飛び出した。
背後では胸のサイズで争ったり、瑞斗の好みは可愛いより綺麗だとか何とか言っていたが、何も聞かなかったことにして階段を駆け降りる。
そしてお手伝い部の部室まで寄り道せずに向かうと、約束通り先に待っていた
「あ、あのね、
「どうしたんですか、そんなに改まって」
「怒らないで聞いてくれますか?」
「内容によりますけど」
「夏休み、家族で海の近くの別荘に行くことになったんです。そこに彼氏も連れてきなさいと言われてしまって……」
「いい雰囲気になっちゃいましたからね。さすがにすぐに別れたなんて設定は不自然ですし、そうなるだろうとは思ってました」
「一度だけって言ったのにごめんなさい。理由を付けて断れるなら断っておきたいんですけど……」
「いや、わざわざ誘ってくれるってことは、前に言ってた『娘にふさわしいかどうか見極める機会』なんだと思います。断る方がまずいでしょう」
「でも……」
「キスしろなんて言われないでしょうし、上手くやり過ぎた僕の責任でもあります。今回くらいは付き合ってあげますよ」
思いもよらなかった返事にパッと表情を明るくした陽葵先輩は、彼の両手を掴んで嬉しそうにお礼を言いながら上下に振る。
それを大袈裟だなと思いつつ、水を差す覚悟をしながら瑞斗は彼女の背中に隠すようにして置かれているカバンを見ながら本題に触れた。
「で、テストはどうだったんですか?」
「……怒らないですか?」
「いいえ、こっちは怒りますよ」
「先輩は優しい姉川くんが好きですよ?」
「陽葵先輩のためを思ってるから怒るんです。早く約束通りテストを見せてください」
「うぅ、乗り切れると思ったんですけど……」
その後、瑞斗が彼女をこっぴどく叱ったことは言うまでもない。
大人な雰囲気を出しつつ、普段から先輩面をしていると言うのに、点数はそんな先輩像とは正反対だったのだから。
「補習、頑張ってくださいね」
「姉川くんも一緒に――――――――」
「それは別荘だけで十分です」
「そんなぁ……」
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