第128話 人として釣り合うかどうかは体重の問題ではない
彼女は確かに高校生の子を持つ母親にしてはかなり若々しいが、メイド喫茶のメイドさんのように「美味しくなぁれ」とケチャップをかけられた時には、さすがの
お邪魔させてもらっている身ということもあって、愛想笑いだけで何も言えなかったけれど。
「めぐちゃんには相合傘を描いておいたわよ。隣に書きたい名前は見つかったかしら?」
「う、うるさいなぁ! そういう話を友達の前でするなって言ってるだろ」
「そんな怒らなくてもいいのに。お母さん悲しい」
「泣き真似はやめてくれって……」
「じゃあ、好きな人の名前教えてくれる?」
「そんなの居ないって」
「瑞斗くんじゃないの?」
「……はぁ?!」
予想の斜め上の名前が出てきたからか、奈月は「ないないないない!」と全力で否定してから、ハッとしたように彼の方を見て「今のは違うぞ?」と弁解し始めた。
「別に
「分かってるよ。安心して、僕なんかじゃ奈月さんには釣り合えないし」
「そんなことは無いぞ。
「そうでもないけどね」
傍から見て上手くやれていると思えるのならいいが、内部事情は色々と複雑だ。
初めの頃に比べればある程度お互いの歩幅を理解してきてはいるものの、ことあるごとに睨まれるのにはやっぱり慣れない。
たまに見せる優しい目がハムスターなら、あの時の彼女はそれを狙うヘビみたいに恐ろしいから。
「ねえねえ、みーくん花楓とは釣り合う?」
「脳みそ分の重さが足りないかな」
「……太れば解決?」
「どうしてそうなる」
どうしてと言わんばかりに首を傾げる彼女に今の暗喩を説明するのも面倒なので、さっさと食べるように促して食事を再開する。
ちなみに、由佳子さんは料理だけでなくケチャップで絵を描くのと上手らしく、
それが裏目に出て、しばらく「食べられないです……」とスプーン片手に葛藤することになっていたけれど。
そんな彼女もようやくケチャップ猫にメスを入れる決意をし、涙ぐみながら「美味しいですぅ……」と間食したのはいただきますから30分後のこと。
見た目や口調に反して意外と家庭的な
「いつもありがとう、真理亜ちゃん」
「いえいえ。洗い物も私がしておきますから、由佳子さんはみんなと話でもしててください」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかしら」
真理亜の気遣いにより食後に時間の出来た由佳子さんは、リビングへと集まる瑞斗たちに加わってソファーに腰を下ろした。
廊下の奥からは水の流れ音や、食器同士がコツコツと軽くぶつかるような音が聞こえてくる。
それ以外には何も聞こえてこなくて……つまり、由佳子さんが何も言わないのでみんなも黙ってしまったのだ。
呼吸音を聞いて何か言うかと構えるが、出てくるのはやけに色っぽい吐息だけ。
クラスメイトの母親に大人の女性の魅力を感じる自分が嫌いになりそうなので、ここは仕方なく瑞斗から話題を振ってみることにした。
「由佳子さんから見た奈月……いや、
「あら、気になっちゃう?」
「それなりには」
「めぐちゃんはね、昔から周りの子よりも少し落ち着いた子だったわね」
「確かに、今も花楓とは大違いです」
「私だって落ち着いてるもん! 冷静沈着、北〇晴男だもん!」
「よく分からないけど、冷静な人はそんなギャグ言わないと思う」
「じゃあ、花楓はなんなの」
「……ドジっ子?」
「ドジったことないもん!」
ぷうっと頬を膨らませた彼女は「お手洗い行ってくる」と不機嫌そうに歩いて行った先で、自分で開けた扉に額をぶつけていたが、それに誰も触れなかったことは言うまでもない。
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