第127話 お風呂場パンデミック
あれから
さすがにタオルで隠れている当たりに触れさせることは出来ないので、そこらは後ろを向いてもらっている間に自分で済ませたが。
そして次は待ちに待った入湯タイム。覗き込んでみると、確かに湯船の高さに対して半分ほどまでしか湯が入っていない。
ただ、花楓が入ると胸の下辺りまで水かさが増し、
「ちょっと狭いけど、確かにいい節水の方法だね」
「私はみーくんとくっつけるなら、狭ければ狭いほどいいけど」
「あまり寄られると困るから勘弁して」
そう言って擦り寄ってくる彼女は押さえつつ、用意しておいた入浴剤ボールを投入する。
既に一つ入っているらしいが、お好みで2つ入れるのもいいらしいと
確かにシュワシュワと泡を発生させながら溶けていく様は見ていて気持ちがいいし、肌を撫でる気泡がくすぐったい。
これが血行を促進してくれたり、美肌に繋がったり、いい眠りを引き出してくれるというのだからお得なものである。
「んぁ、くすぐったいぃ……」
「変な声出さないでよ」
「出したくて出してるんじゃないもん!」
「はいはい」
「みーくんが唇で黙らせてくれてもいいんだけど?」
「……いや、しないけど」
唇で黙らせるなんて、やっていいのはイケメン俳優くらいなものだろう。
瑞斗は自分がそれをしている姿を想像して身震いすると、湯の中へしっかり体を沈めてホッとため息をこぼした。
「ねえ、みーくん」
「今度はなに?」
「この入浴剤、お湯が濁るんだね。中が何も見えないよ」
「言われてみれば確かに」
「ということは、タオル取っても見えないね」
「……は?」
予想外の言葉に彼が固まっていると、花楓はせっせと自分の体を隠しているタオルを外して浴槽の縁にかける。
彼女が身に纏っていたのはその一枚だけ。つまり、お湯の中では何も着ていないことになる。
「いや、何やってるの。早く隠して」
「焦っちゃって……見えないんだよ?」
「そんなこと言いながら、花楓も顔真っ赤にしてるじゃん。恥ずかしいならやめなよ」
「は、恥ずかしくても女にはやらなきゃ行けない時があるの!」
「その気概は褒めるけど、絶対に今じゃない」
「今だもん! みーくんをユーワクするなら今しかないもん!」
「別の意味でドキドキしてるんだけど?」
完全に暴走モードだ。このままでは何が起こるかも分からないし、最悪危険なことでもやりかねない。
そう考えた瑞斗が今のうちに風呂場から脱出しようと腰を上げかけると、花楓は逃がすまいと腰に腕を回してしがみついてきた。
「離してよ、タオル取れちゃうから」
「女の子が外してるのに隠すの?」
「そりゃ隠すよ。見る側も見られる側も、どれも得しないでしょ」
「花楓は得する!
「だったら尚更見せられないね」
偽と言えど、そんなことを言われたらあの人は自分をぶん殴る。もしかしたら蹴りもあるかもしれない。
そう考えた彼は何としても逃げ出そうと踏ん張るが、花楓が腕を離そうとしないまま浴槽から引っ張り出されていく。
今の彼女はタオルを巻いていないため、見てはいけないものを見ないためには振り返ることは出来ない。
だから、脚に力を込めながらも怪我をさせることのないように慎重に進み、あと少しで扉に手が届くと希望が見えた瞬間だった。
「あわっ?!」
花楓がバランスを崩して浴槽の外へと傾いた拍子に、一瞬引っ張る力が弱まったせいで瑞斗は顔から思いっきり扉に激突してしまう。
抵抗による疲れや逆上せに似た症状も重なってしまい、フラフラとした彼は何とかバランスを取り戻した花楓の方へと倒れた。
彼女は慌ててそれを受け止めるが、自力で立とうとしない男子高校生を小柄な女子高生が支えられるはずがない。
一度は受け止められたものの、押し返した際に後ろに傾いた体を引っ張ろうとして、一緒に洗い場の真ん中で転んでしまった。
「ど、どうかしたのか?!」
「ハプニング発生〜?」
「お怪我はありませんか!」
その現場をドアに衝突した音を聞いて駆けつけてきた三人が目撃し、真っ赤な顔の花楓がついに手を出したと勘違いされることになったことは言うまでもない。
「本当に勘違いなのに……」
「大人になるってのは恥じることじゃない」
「そうだよ、マリーも早く大人になりたいな〜♪」
「わ、私にはまだ早いと思いますが、花楓ちゃんのことは見習おうと思います!」
「だから何もしてないんだってばぁぁぁぁ!」
「「「うん、知ってる」」」
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