第112話 Tシャツの汚さ、それ即ち勲章
ついに迎えた体育祭当日。事前に注文のためにサイズ調査をされていた赤色の体育祭Tシャツに着替え、
ちなみに、A組は赤でB組が青、C組は黄色というようにクラスごとに色分けされている。
生徒会が考案した学年を超えてチーム全員が一致団結する作戦らしい。その生徒会メンバーたちは特別に黒を着ている、ちょっと羨ましい。
「みーくんみーくん、サイン書いて!」
今日はやけに雲が少ないななんてことを考えていると、油性ペンを持った
別にいい意味でも悪い意味でも、有名になる予定は無いのに。サインなんていらないだろうと伝えると、彼女は驚いたような顔を見せる。
「みーくん、体育祭Tシャツにみんなでサインを書きあってるの知らない?」
「何そのぼっち発見ゲーム、死人が出るよ」
「サインがあるとやる気が湧いてきて、いつもよりいい成績が残せるんだって!」
「そんなまじないみたいな話ある?」
「あるのっ!」
花楓はそう言いながら油性ペンを押し付けてくると、自分の着ているTシャツをグッと引っ張りながら書くように促してきた。
もちろんそれ自体に問題は無いが、既に数人分のサインやら絵やらがあって、見えている範囲内で空いている箇所が胸元しかない。
いくら幼馴染で、ペンを持っていると言えど、ここに触れるのは色々危ない気がするので、伸ばした腕を引っ込めて背中を向けるように言った。
「どうして?」
「書く場所がないんだよ」
「ここら辺空いてるよ?」
「胸に触れるわけないでしょ」
「……みーくんならいいもん」
「僕が良くないから言ってるの」
こうなれば強行手段だと、頬を膨れさせた彼女に腕を引っ張れるが、瑞斗も負けじと引っ張り返す。
そうこうしているうちに
「ああっ、みーくん専用エリアが……」
「残念ね、もう背中しか空いてないみたいよ」
「……みーくんを背負って走れる、よし」
「ポジティブにも程があるね」
前向きな花楓の様子に玲奈が舌打ちをしたような気がしたが、こんな優しそうな笑みを浮かべている彼女がそんなことをするはずがない。
……2回目が聞こえた気もするけれど、きっと空耳だろう。そう思い込むことにして、ちゃんと背中側に頑張れと書いてあげた。
「お返しに私も書くね!」
「僕はいいよ。綺麗なまま置いときたいし」
「将来、誰にも書いて貰えなかったなって思い出して悲しくなるわよ」
「そんな刺さりそうなこと言わないで」
「優しい幼馴染がいっぱい書いてあげるから、ね?」
「仕方ないから私も書いてあげるわ」
「私も私も〜♪」
「
「気付かなかったなんて酷い、しくしく」
明らかに嘘泣きであるものの、傍から見れば分かりづらいものなのだろう。
周りの目が明らかに自分を悪者だと思っているのを察した彼が、「バリバリ気付いてた」と棒読みで嘘を付いたことは言うまでもない。
「体育祭Tシャツのサインの多さは、それ即ち学校での立場を表すの。あなた、妹ちゃんも見に来るんでしょう?」
「もちろん」
「だったら、一人だけまっさらなんて心配されちゃうわよ。友達いないの、お兄ちゃんって」
「本当のことだから仕方ないね」
「そんな姿で、妹の純粋な応援を受けられるの?」
「そう言われると、ちょっと……」
確かにサインしてもらうことは悪いことではないし、無理に拒むほど嫌という訳では無い。
立派なお兄ちゃんの姿を見せるのであれば、そこに油性ペンは必須なのだろう。
瑞斗がそう諦めてガードしていた腕を下ろすと、彼女たちはここぞとばかりに三方からTシャツにペンを這わせ始めた。
少しくすぐったいが、
調子に乗った花楓が肌の上にまではみ出して書き始めた時には、さすがに襟首を掴んでお説教したけれど。
「ほんの出来心だったんです」
「悪いやつのセリフだね、それ」
「いつかやると思ってました……」
「自分で言っちゃダメなんだよ」
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