第113話 体育祭はいつもより日陰が少ない
あれから散々Tシャツに落書きされた後、全校生徒がグラウンドに出て入場行進やら開会宣言やらを行った。
それからラジオ体操、退場、からの一番最初の競技である50m走に出る生徒たちが入場門へと集まっていく。
出場しない
周りからの視線が少し痛いが、勝手に寄ってくるのだから仕方ない。脚の間に入り込んで来ようとした
「ねえねえ、足速い人って羨ましいよね」
「クマからも逃げられるもんね」
「花楓もクマになってみーくん襲っちゃおうかな」
「猟銃免許、取っておかないといけないわね」
「す、
「大丈夫、証拠は完璧に隠すわ」
「何も大丈夫じゃないよ!」
両側で喧嘩されると、肩やら肘やらが当たってきて痛い。ただ、時々触れる太ももや胸などの感触はなかなか悪くない。
そんなことを考えていると、いつの間にか喧嘩をやめていた二人の視線がこちらへと向いているではないか。
どうしたのかと聞いてみれば、何か変なことを考えられている予感がしたとの事。これが世に言う女の勘なのだろうか、だとしたら侮れない。
『A組、今のところ圧勝です!』
司会をしてくれている放送委員の言葉で顔を上げてみると、1が書かれた旗の後ろには赤色のTシャツが多く並んでいる。
どうやら50m走はA組の独占市場らしい。この結果は後の競技のモチベーションにも繋がる。なかなかいいスタートダッシュだろう。
「もうそろそろ終わりね。次は2年女子の棒引きだから行ってくるわ、
「棒引き、野蛮なスポーツ……」
「可憐な乙女が棒を奪い合うだけじゃない」
「花楓、棒引き好きじゃない」
「いいから行くの。人数足りないと始められないでしょうが」
体育祭前の体育の授業では、男子と女子で出る種目が変わってくるので別々になることが多かった。
だから、棒引きがどんなものであるのかを瑞斗は見ていないのだが、あんなに嫌がるほど恐ろしい競技だったのだろうか。
あの様子だと、二人は犠牲になっていそうな雰囲気があったが。花楓が無事に戻ってきてくれるか心配だ。
そんなことを思いながら風通しの良くなった周りを見回していると、背後から自分の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
一体誰なのかと確認してみれば、声の主は日陰の中から手をこまねいてる
彼女が着ているのは赤色のTシャツ、学年は違えど同じくA組なのだ。しかし、席はもう少し向こう側だったはず。
どうしてわざわざ日陰に入ってまで話しかけに来たのか、聞こうかと思ったがやっぱりやめておいた。答えがだいたい予想出来たから。
「
「やっぱり。先輩、ぼっちですもんね」
「そう言う姉川くんも、暇そうにしてましたよね?」
「みんな行っちゃいましたから」
「じゃあ、お隣に座っても?」
「まあ、いいですよ」
この人と一緒にいると、色々な意味で目立つからあまり率先してやりたくはないが、今日くらいはいいだろうと隣に招く。
それから暑さ対策で持ってきていた帽子を被せると、露出した膝にはタオルをかけてあげた。
別に紳士的な行動とかではなく、陽葵先輩の肌が他人よりも日光に弱いことを知っていたからこその行動である。
日焼け止めはしっかり塗ってきてはいるらしいが、こんな日に倒れて救急車騒ぎにはしたくないので、念には念を入れて水分補給もさせておいた。
「あ、この帽子姉川くんの匂いがします」
「汗かいちゃいましたから。臭かったら無理して被らなくていいですよ」
「臭くなんてないです。むしろいい匂いですから」
「それはそれで複雑な気持ちですね。あと、そんなに嗅がれると気持ち悪いです」
「えへへ、つい夢中になってしまって……♪」
てへっと舌を出す先輩の姿に、チラ見していた男子の数名が胸を押さえたことを本人は知らない。
その後、彼女は玲奈たちが帰ってくるまでお喋りをした後、また寂しくなったら来ると言い残して戻って行ったのであった。
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