第105話 嘘も方便、可愛いのは博多弁
「……はぁ」
おまけに以前から先輩にだけは偽恋人であることがバレていたとなれば、心配になってしまうのも無理はなかった。
「
「ごめん……」
「私も変な男に寄って来られるのはもう飽き飽きしてるの。今回の嘘がバレたら本当に彼氏が出来たとしても、男避けの効果は見込めないわよ」
「本当にごめん。でも、先輩を見捨てるわけには行かなかったんだ」
きっかけは胸という凶器で窒息をチラつかせられたことではあったが、瑞斗は何とも思っていない相手にその程度で助け舟を出すほどお人好しではない。
玲奈の時も
彼女もそれを分かってくれてはいるのだろう。確かな怒りの感情はそこに残しながらも、短いため息でそれを体の外へと吐き出す。
「まあ、今回は外部に偽恋人の件が出回ることは無さそうだから許してあげる。ただし、次は無いと思いなさい」
「……ありがとう」
「私だってね、誰でも彼でも助けるお人好しじゃないの。あなたが見捨ててもいい相手なら、この前みたいに助けに入ったりしなかった」
「それはつまり、僕が必要ってこと?」
「当たり前じゃない。ここまで来たら、今更他の男の彼女役なんて御免よ」
玲奈は「あなたとなら、ありのままで演じられるから楽なの」と呟いた彼女は、ソファーから立ち上がってリビングの扉へと向かう。
そんな彼女の背中に隠れた表情が、振り返った拍子に思ったよりも柔らかいものであることを知り、瑞斗はついつい見蕩れてしまった。
何かを思い出したらしく、ボーッとしている間に目の前まで戻って来ると、玲奈は「そう言えば、しようと思っていたの」と口元をニヤッとさせる。
これは一体何を考えている時の顔か。瑞斗が考え始めるよりも早く動き始めた彼女は、陽葵と同じように前髪をかき分けて彼の額に口付けをした。
先輩よりもほんの少しだけ長めのキスだった。
「……
「キスされたって言ってたじゃない。私が本物の偽彼女なんだから、上書きするのは当然でしょう?」
「偽彼女なのに本物って変だよ」
「矛盾してるわよね。でも、好きでもない相手と付き合ってる時点で矛盾だらけだからいいじゃない」
「それもそうだね、僕は嫌いではないけど」
「ふふ、それはある意味で両想いね」
玲奈はそう言って再び背中を向けると、今度は振り返らずにリビングを出ていく。
少しして「お邪魔しました」という声と玄関の扉が閉まる音が聞こえてきて、しばらく何の音もしない一人の時間が流れた。
この数秒間が少し前までよりも長く感じられるのはどうしてなのだろうか。
そんなことを思いながら窓の外を眺めていると、少し開いたドアの隙間から
「お話終わった?」
「うん、さっき帰ったよ」
「そっかそっか」
ウンウンと頷きながら入ってきた彼女は、何やらご機嫌な様子でソファーに腰を下ろすと、瑞斗にこっちへ来るよう手招きをする。
何の用かと言われるがまま隣に座ると、早苗は背中に隠していたゲーム機を取り出して渡してきた。
「お兄ちゃん、どうやってクリアするかわかんないから教えて」
「自力でやるから楽しいんじゃないの?」
「3時間も足止めされてるんだもん」
「……仕方ないなぁ」
可愛い妹にここまでお願いされれば、断れるメンタルを持ち合わせた兄はそう居ない。
それから二人は一緒にゲームを攻略して行き、もう少しでラスボスだと言うところで大魔王ハハーンにやり過ぎだと取り上げられてしまったのであった。
「お兄ちゃん、我が家のボスを倒して!」
「……ごめん、それは無理」
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